五街道雲助の「猫定」前半2022/12/13 07:02

 物事の由来を語る由来噺の一つ、と雲助は始めた。 両国回向院の鼠小僧の墓の脇にある「猫塚」に、初めて入った猫の話だ。 魚屋の定吉、魚屋は表向きで、遊び人、博打を打つ。 朝湯へ行って、居酒屋で一杯やっている。 二階でミシミシ音がするので、旦那衆の遊びかと思い、六さん、話をしてくれ、と言う。 実は大猫、あれなんで、昨夜イナダの大きいのを二匹食われたんで、夕刻、松尾橋から堀へ手足を縛って放り込もうかと思ってる。 その猫、もらっていこう。 化けますよ、真っ黒な猫、カラス猫、ここらの大関で。 ほんの少し、取っときな。 こんなに…、もう五、六匹どうです。

 こんな畜生でも、助けてもらったのは分る。 定吉は、八丁堀の玉子屋新道に、お滝という女房と住んでいる。 三河屋から土産だ。 長火鉢の横に、猫板を置いた。 女湯空いてた、ゆっくり行って来い。 こいつも暢気だ、居眠りしてやがる。 名前を聞いて来なかった。 タマでもミケでもない、名前は「熊」でどうだ。

 命を助けられた恩返しをしろ、商売繁盛を願ってほしい。 博打打ちで、ここに賽がある。 猫は魔物、賽は魔除け。 天竺のサイでこさえた、象牙でない。 天竺のお釈迦様、祇園精舎…に関わって、寺銭、お釈迦になる、というだろう。 賽を二つ転がして、丁半(偶数と奇数)、ピン二の半、五ゾロの丁、四六の丁。 熊が丁をニャーニャー、半をニャーと鳴き分けることに気づいて、湯呑の中を当てっこする。 俺が丁、熊が半。 今度はどうだ、今度はどうだ、と十度びやって、十度び、熊が当てる。 懐に熊を入れて、博打場へ行く。 まんまと大儲けして、猫定の親分さんと呼ばれるようになる。 奉行所に目をつけられ、江戸にいてはまずいと、旅に出る。

 旅の留守に、家に護摩の灰がついた。 定吉が戻ったある日、お滝、愛宕下の藪加藤へ行くぞ、今日は泊りになるかもしれない。 はっきりしてよ。 じゃあ、泊りにする、懐に猫を入れて出かけた。 日暮れに、若い男がやって来る。 亭主を亡い者にする相談を、女の方からかける。 風吹きカラスと一緒になろうてんですかい。 シュロ箒の頭をすり、竹をとがらせて、なまくらより役に立つ。 門番は顔見知りだと、鰺切包丁を持って行く。

 その晩、猫が鳴かない。 持ってきた金を減らし、今日はよしにするぜ、と帰ることにする。 お気の毒で。 雨が降って来た、明日はお不動様の縁日、新橋の北野という鰻屋に入る、猫は食べない、女房に一折土産に。 采女ヶ原(現在の演舞場)のあたり、雨が一段と降りかかる。 立木の脇で小用をしているところを、竹槍で刺して、喉元をずばりと斬る。 懐から、黒猫が飛び出した。

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