令和四年『夏潮』「雑詠」掲載句2023/01/01 07:25

 明けましておめでとうございます。 去年今年、貫くことになった第654回の落語研究会を、ちょうど仲入でお休みし、元日の恒例になった昨年の『夏潮』「雑詠」掲載句を、お笑い草にご覧に入れることにする。

   一月号
爽やかや丹沢山地くつきりと
木犀の香に確かむるけふの無事
食感を残したうなす天ぷらに
   二月号
ウィンターコスモス濃い目の黄色かな
雑木林抜ければそこは柿畑
高野への登り軒並柿を売り
   三月号
山門から閻魔堂まで散紅葉
対岸の船頭の声冬はじめ
藤村の旧居水仙活けてあり
   四月号
カピバラも猿も私も柚湯かな
白菜とベーコンだけのスープかな
寒林を一輌列車走り抜け
   五月号
伊豆榮と酒悦にも寄る笑初
小三治の前座噺や初笑
振袖の娘も交じり初笑
   六月号
春浅し女医がボタンを留めてくれ
年の豆庭訪ふ鳩につぶしおく
亡き父の盆梅律儀今年また
   七月号
白旗の白を掲げて桃の花
焼野原幼児の記憶春の昼
   八月号
庭師の手歴然として若緑
花筏吹き寄せられて色の濃き
老女医の閉院したり竹の秋
ぼてぼての躑躅は余り好きでなく
   九月号
鰯囲ふ沖の生簀や夏霞
横山はベッドタウンや夏霞
   十月号
愛宕山登れば夏越祓かな
千疋屋苺クリーム奢りけり
矢車菊保育園児の目の高さ
   十一月号
植木屋が入りすつきり水を打つ
月山の裾までずつと青田かな
暮れ泥む貴船の床の灯涼し
   十二月号
一国を正せぬままに終戦日
年金の暮しに桔梗二輪咲き
沖縄の踊にあらは護身術

三遊亭小遊三の「蛙茶番」2023/01/02 08:20

 笑点の小遊三である。 出囃子は「バッテンボー」つまり「ボタンとリボン」なのだが、ボブ・ホープ、ジェーン・ラッセルの「腰抜け二丁拳銃」を映画館で観た人は、日本国民、世界人民の何%になっただろうか。

 楽しみは、人それぞれ、と小遊三は始めた。 歌舞伎は、ずっと人気があった。 素人芝居が、孫の誕生祝い、旦那の本卦帰り(還暦)に催される。 学芸会が苦手だった。 物覚えが良くて、顔がきれいなので、浦島太郎をやらされる。 ヒラメのAかBがいいのに。 責任を取らないといけないのが、イヤ。 好きな人は別、やりたくてしょうがない。 でも仲の良くない奴が主役になると、イヤ。 役もめ、ということがある。

 「忠臣蔵」をやろう。 イッちゃん。 勘平、やらして下さい。 気張っとくれよ。 私だって、勘平をやりたい。 三人で、話し合おう。 私は、お軽の亭主。 私は、与市兵衛の婿養子。 13人の勘平が並んだ。 何だ、この芝居は? 多分、観兵式でしょう。

 番頭さん、役者が一人足りない。 伊勢屋の若旦那が出て来ない。 くじ引きで、天竺徳兵衛が化けるガマの役になった。 小僧にやらせろ。 貞吉、貞どんは、芝居が好きだ。 舞台に上がらせてやろうか、代役だ。 ガマだ。 ガマさん、男ですか、女ですか。 ガマガエル。 いやですよ、ガマどんて呼ばれる。 縫いぐるみだ、お小遣いもあげる。 きっかけは? 「デイデイ、ハライソハライソ、ドロッドロッ」ときたら、「ピョコピョコ、ドロピョコ」と、這い出す。 ドロピョコですか。

 もう一人来ない、建具屋の半治、舞台番だ。 役者じゃないんですか。 役者の顔じゃない。 貞吉、半さんが来ないと、舞台が開きませんと、言って来てくれ。 半さん。 留守だい。 留守って、いるじゃないか。 お前のダンツクに、一役おくんなさいと言った。 おい、半治、ウチで化け物芝居をやるんじゃない、その時は、主役にしてやるって、言われた。 行かないよ。

 建具屋の半公、只の馬鹿だ、うち一軒で飯食ってるんだ、やるってことはやる。 あいつは小間物屋の美ィ坊に馬鹿惚れ、ベタ惚れだ。 こう言え。 往来で美ィちゃんに会ったら、建具屋の半ちゃんが人の嫌がる舞台番を引き受けるんですって、と聞いた。 素人がおしろいを塗りたくって、ギッタンバッタン目を剥くのより、おしろいっ気のない舞台番に逃げたところなんて、粋で、いなせだって、言っていた。

 行くよ。 威勢よく、ケツまくる。 フンドシ見せるようなもんだから、去年の夏、神輿をかついだ時の、真っ赤なフンドシ……、そうだ、質入れた。 何とかして、すぐ行くから。 緋縮緬のフンドシを請け出して、ひとっ風呂浴びに行く。 真っ赤ですね。 なりは地味だが、一カ所派手があって、落ちを取ろうてんだ。 油ッ紙にくるんで、頭にのせる。 番台で預かろう。

 バカ半を、早く呼んで来い。 湯へ行って、洗っても駄目だ、造作が間違っている。 半さん、どこだ。 右から三番目が、半ケツ。 美ィちゃん、帰っちゃうよ。 半公、飛び出した。

 兄貴! 半公、これから芝居か。 舞台番と逃げた、なりは地味だが、一カ所派手があって、落ちを取ろうてんだ。 ほら。 派手だ、恐れ入る。

 威勢よく、ケツをまくって、舞台番の位置につく。 美ィちゃん、いねえじゃないか。 静かにしろ。 ン、赤ん坊を泣かせるな。 舞台番のバカ半が、一人でパーパーパーパー騒いでいる。 ちょいと、バカ半をご覧なさい。 オーーッ、本物ですか、あれ。 半ちゃん! ご趣向! 日本一、大道具!

 「デイデイ、ハライソハライソ、ドロッドロッ」 ガマカエルが出て来ない。 貞吉、早く出ろ。 番頭さん、ガマガエルは出られませんよ、あそこで青大将が狙っていますから。

隅田川馬石の「お富与三郎 発端」前半2023/01/03 07:17

 馬石は、黒の羽織に、灰色の着物、落語研究会での初めてのトリ、噺家冥利に尽きる、今後も精進致します、と始めた。 「発端」は、噺の方では、「発」にアクセントがあるという。 日本橋横山町の鼈甲問屋、伊豆屋喜兵衛の一人息子の与三郎、惚れ惚れするようないい男で…。 音源を探したら、十代目馬生は、「カッ、いい男」と、やっていた。 師匠の雲助は、「カーーッ、役者のようないい男」。 すっぴんでも、役者の三段上のいい男、幼い女の子から、八十を超す婆さんまで、店先に集まっている、年増は帯を解きかかるというしたい放題。

 与三郎は、神田川の下田屋茂平の一人息子の茂吉と仲がいい。 上野で花見、夜は吉原で夜桜見物、総初会(そうじょかい)で、茶屋の三郎屋から、中万字屋という貸座敷に登楼り、与三郎は九重花魁、茂吉は桜木花魁が敵娼だった。 だが、茂吉が振られて、騒ぎ出す。 与三郎は、まだ早いから、夜が明けてから、恋知らずだ、と説得するが、茂吉は、俺は年上だ、帰ろうじゃないかと譲らない。

 二人は大門を出る。 山谷堀の船宿澤瀉屋の女将が、お帰りは舟でと勧め、小舟で両国まで行くことにする。 仙太郎や、下りて来ておくれ、伊豆屋さんの若旦那様だ。 女将に送られ、山谷堀から大川へ。 水勢が増して、物凄いよう。 お客様、大人しく乗っててくんねえ、神妙に。 船頭、面白くねえな。 舟を漕いでいる内は、私の舟、いいからお座りを。 茂吉は、ぐだぐだ。 吾妻橋を過ぎ、茂吉は川辺をベチャベチャやり、小舟は乗り慣れないようで、立ち上がったので、もんどりうって、落ちた。

 仙太郎は、首尾の松に舟をつなぎ、水の中へ飛び込む。 しかし、顔を出したのは、仙太郎一人だった。 水底は、遠州灘の荒れようだ。 茂吉は、旅籠の跡取り、ふた親さんにすまねえ、と与三郎。 いつもより濃い朝霧、今の始末は、あっちは黙ってます、旦那も黙っていて下さい。 一人は、吾妻橋で上げた、と。 帰りは別と、話して下さい。 そうなさいまし。 与三郎も、ほかに分別がない。 あとで、災難がふりかかるのは、知る由もない。 柳橋に着く。 与三郎は、万両分限(ぶげん)の伊豆屋の跡取り、夢にも言っちゃあならない、五両、これは口止めだ。 多分に恐れ入りやす。

 朝帰りはいつものこと、下田屋からの問い合わせに、言い合わせた通りに答える。 しかし与三郎は、気が塞いで、出かけない。 仙太郎は、いい金づるが出来たと、与三郎に三両、五両とせびるようになった。

隅田川馬石の「お富与三郎 発端」後半2023/01/04 07:20

 秋深くなって、与三郎はようやく、大番頭の善右衛門に話をした。 ごろつきは、つけこんでくる、私が掛け合いましょう、三十両で、書付に判を捺させる。 ところが、仙太郎は顔を出さない。

 冬になり、風邪を引いた与三郎、薬研堀の薬湯へ行く。 物陰に頬っかぶりの男、もし若旦那、と仙太郎。 江戸っ子にしては長湯だね、無心に参りました。 一人のお袋がいて耄碌し、かかあが病んでいる、四つのガキがハシカで、十一のは奉公から戻される。 貧乏神にとっつかれてる、これっきりで百両恵んでやっておくんなさい。 三月から、いくらになったと思ってんだ、四、五十両だ、三十両にしておくれ。 それでいけなかったら、好きなようにしておくれ。 ああ、勝手にしようじゃないか。 あっちは小伝馬町で顔が利く、三月五日の神田川の一件を番所に訴え出れば、逃れられないのがお前さんの名前、次は牢の中で会おうじゃないか。

 二人がもめているのを見て、二、三人が立ち止まり、人だかりがしてくる。 四十五、六の浪人風の男、湯の帰りとみえて、浅葱の手拭を下げている。 あっ、先生、と与三郎。 もし、そこのお方、私の家まで来て下さい、これは大事な地主の倅。 百両の金が出る、金ずくには驚かない。 ご同道を。

 関良介、十年前は川越の藩士、伊豆屋の店内(たなうち)で、手習いの師匠をして、清貧を楽しむ。 込み入った話がある、お前は湯へ、と妻に。 三月五日の一件から話す。 仙太郎、よい種をみつけたのう。 罪にはならぬ。 百両で二度とねだりには参りません。 百両、私が立て替えよう。 与三郎さんは、家に帰るがよいか 誰にも言いなさんな、明朝、私が参って話をする。

 少し蓄えた金がある、百両やる。 その金は、今ここにはない、さる所に預けてある。 仙太郎、今夜はここで寝てくれ、明朝早く参ろう、飯田町だ。 駄目だ、これから行きましょう。

 今夜は寒くてならぬ、支度をして出かけるとするか。 油紙に包んだ刀を取り出し、羅紗の合羽を着て、小田原提灯を下げる。 紺屋町から、護持院が原にかかる頃には雪になり、一面の銀世界になった。 先生、蝋燭の替えはありませんか。 持って来てない。 それも、もう用がなかろう、雪明りで十分、お堀端を九段にかかる。 近々上野にも店を出すという大きな酒屋、七、八百両は売るという。 この世の名残に存分に見ておけ、仙太郎。 はなから、斬るつもりか。 お前のような悪党、成敗してくれる。 お堀の中へ、ドブーーン。 刀に水をかけて戻る。

 明くる朝。 与三郎の父、伊豆屋喜兵衛は大層驚く。 人殺しの罪、降って湧いた災難だ。 関良介は、十年以前朋友を斬った刀、悪党一人斬ったところで、何ということはない。 与三郎さんは、田舎の親類にお預けになったほうがいい。 礼などされては困る、江戸出府以来の、万分の一の恩返しだ、ご免。 花は桜木、人は武士。 与三郎を、木更津の叔父・藍屋吉右衛門に預けようということになる。 与三郎の生涯を狂わす、「お富与三郎」の発端で。

(私は2003(平成15)年4月29日の第419回落語研究会で、師匠五街道雲助の「お富與三郎・発端」を仲入後一人の長講で聴いていて、こう書いていた。「吉原からの朝帰り猪牙舟に乗っての大川で事件は起こる、大店(だな)のベッコウ問屋の若旦那がたいへんな男前で、その美貌が悲劇の発端になるという話。 あんまりマズイ顔でもどうしようもないので、今日のお客様ぐらいがちょうどよい、とのこと。 玄冶店の発端はこういう話だったのかと、勉強になる。 が、勉強は退屈という先入観通りか、つい寝ている人も多かった。」)

令和四年2022年の「等々力短信」2023/01/05 07:15

 ここ2年ほど2日に出していた、この一年の「等々力短信」をふりかえってみたい。 自分でも先月何を書いたか忘れるほどだから、読んで下さっている方も、読んだ時には読みたいと思った本などを、思い出せないということがあるかもしれないので、役に立つかも…。 実は、いつ死ぬかわからないような年齢になって、「待て暫し」がなくなり、去年の3月から、毎月「等々力短信」を書き上げると、すぐ発信することにしたので、すべて25日付けだが、ブログとメールの発信日は()内の日になっている。

第1151号 2022(令和4).1.25.(1/18発信)ある同“窓”会の物語
第1152号 2022(令和4).2.25.(2/18)   文京区へ「小さな旅」
第1153号 2022(令和4).3.25.(3/14)  津田梅子の父、仙
第1154号 2022(令和4).4.25.(4/11)   国連を解体し、世界連邦へ
第1155号 2022(令和4).5.25.(5/17)   慶應野球と福沢諭吉
第1156号 2022(令和4).6.25.(6/13)   自由民権の町田が東京へ
第1157号 2022(令和4).7.25.(7/18)   杉本博司さんの「江之浦測候所」
第1158号 2022(令和4).8.25.(8/8)    元財務相 藤井裕久さんの遺言
第1159号 2022(令和4).9.25.(9/16)    のすたるぢや、萩原朔太郎
第1160号 2022(令和4).10.25.(10/20)   「世の中、ついでに生きてる」
第1161号 2022(令和4).11.25.(11/18)  子の親を思ふ
第1162号 2022(令和4).12.25.(12/14)   二宮吾妻山散策

どんな本などを扱ったか。
ウーラント同“窓”会編『「渡し」にはドラマがあった』(荒蝦夷・刊)
江上剛『創世(はじまり)の日 巨大財閥解体と総帥の決断』(朝日新聞出版)
テレビ朝日・ドラマ『津田梅子―お札になった留学生』(橋部敦子脚本)
ウクライナ・ゼレンスキー大統領、国連安保理事会オンライン演説
福澤諭吉記念 慶應義塾史展示館、慶應義塾史=「近代日本の格闘そのもの」、「慶應野球と近代日本」
第544回三田あるこう会「町田薬師池公園周辺散策」
『ブラタモリ』「東京・町田は、なぜ神奈川県町田と間違われるのか?」
岩波書店『図書』表紙1月号から、杉本博司「portraits/ポートレート」
『日曜美術館』「杉本博司 江之浦測候所奇譚」
7月8日朝日新聞朝刊「耕論」「予備費と民主主義」藤井裕久インタビュー
「月に吠えよ、萩原朔太郎 展」亀山郁夫館長エッセイ「世田谷文学館ニュース」80号
角川文庫『現代詩人全集』第三巻近代II、萩原朔太郎
朝日新聞朝刊一面、鷲田清一コラム『折々のことば』から
平井一麥『六十一歳の大学生、父 野口冨士男の遺した一万枚の日記に挑む』(文春新書)
平井一麥ほか編『八木義徳 野口冨士男 往復書簡集』(田畑書店)
越谷市立図書館、小冊子『野口冨士男文庫』
第550回三田あるこう会「二宮吾妻山散策」
高木敏子『ガラスのうさぎ』(金の星社)
山川方夫「日々の死」「その一年」「海岸公園」