隅田川馬石の「お富与三郎 発端」前半2023/01/03 07:17

 馬石は、黒の羽織に、灰色の着物、落語研究会での初めてのトリ、噺家冥利に尽きる、今後も精進致します、と始めた。 「発端」は、噺の方では、「発」にアクセントがあるという。 日本橋横山町の鼈甲問屋、伊豆屋喜兵衛の一人息子の与三郎、惚れ惚れするようないい男で…。 音源を探したら、十代目馬生は、「カッ、いい男」と、やっていた。 師匠の雲助は、「カーーッ、役者のようないい男」。 すっぴんでも、役者の三段上のいい男、幼い女の子から、八十を超す婆さんまで、店先に集まっている、年増は帯を解きかかるというしたい放題。

 与三郎は、神田川の下田屋茂平の一人息子の茂吉と仲がいい。 上野で花見、夜は吉原で夜桜見物、総初会(そうじょかい)で、茶屋の三郎屋から、中万字屋という貸座敷に登楼り、与三郎は九重花魁、茂吉は桜木花魁が敵娼だった。 だが、茂吉が振られて、騒ぎ出す。 与三郎は、まだ早いから、夜が明けてから、恋知らずだ、と説得するが、茂吉は、俺は年上だ、帰ろうじゃないかと譲らない。

 二人は大門を出る。 山谷堀の船宿澤瀉屋の女将が、お帰りは舟でと勧め、小舟で両国まで行くことにする。 仙太郎や、下りて来ておくれ、伊豆屋さんの若旦那様だ。 女将に送られ、山谷堀から大川へ。 水勢が増して、物凄いよう。 お客様、大人しく乗っててくんねえ、神妙に。 船頭、面白くねえな。 舟を漕いでいる内は、私の舟、いいからお座りを。 茂吉は、ぐだぐだ。 吾妻橋を過ぎ、茂吉は川辺をベチャベチャやり、小舟は乗り慣れないようで、立ち上がったので、もんどりうって、落ちた。

 仙太郎は、首尾の松に舟をつなぎ、水の中へ飛び込む。 しかし、顔を出したのは、仙太郎一人だった。 水底は、遠州灘の荒れようだ。 茂吉は、旅籠の跡取り、ふた親さんにすまねえ、と与三郎。 いつもより濃い朝霧、今の始末は、あっちは黙ってます、旦那も黙っていて下さい。 一人は、吾妻橋で上げた、と。 帰りは別と、話して下さい。 そうなさいまし。 与三郎も、ほかに分別がない。 あとで、災難がふりかかるのは、知る由もない。 柳橋に着く。 与三郎は、万両分限(ぶげん)の伊豆屋の跡取り、夢にも言っちゃあならない、五両、これは口止めだ。 多分に恐れ入りやす。

 朝帰りはいつものこと、下田屋からの問い合わせに、言い合わせた通りに答える。 しかし与三郎は、気が塞いで、出かけない。 仙太郎は、いい金づるが出来たと、与三郎に三両、五両とせびるようになった。