米本浩二著『魂の邂逅 石牟礼道子と渡辺京二』書評2023/01/29 07:19

 渡辺京二さんは、2018年2月に亡くなった石牟礼道子さんの晩年、ずっと身の回りの世話や食事の仕度までしていたという話は、どこかで読んだことがあった。 新潮社のBOOK BANGというサイトに、ノンフィクション作家の梯久美子さんが、米本浩二さんの『魂の邂逅―石牟礼道子と渡辺京二―』(新潮社、2020年10月29日刊)の書評を書いている。

 米本浩二さんは、その3年前に本格的評伝の『評伝 石牟礼道子―渚に立つひと』を出した。 石牟礼さん本人に対するインタビュー(たゆたうような語りのすばらしさ)をはじめ、ゆかりのある人の証言、石牟礼さんの著作、手紙や短歌を自在に引きながら、一個の稀有な精神の軌跡をたどった作品だったという。 『苦海浄土 わが水俣病』の原型となった『海と空のあいだに』が掲載されたのは、渡辺京二さんが編集する雑誌『熊本風土記』だった。 作家と編集者の関係から始まり、水俣病を生ぜしめた企業と国家に抗して共闘する仲間になり、やがて渡辺さんは石牟礼さんが執筆に専念できるよう事務手続きを引き受け、身の回りの世話や食事の仕度までするようになる。 しかも、渡辺さんはそうやって日々、石牟礼さんを支えながら、ご自身『逝きし世の面影』『黒船前夜』『バテレンの世紀』といった作品を書いている。

 ともに家庭を持つ身になった二人、半世紀にわたる深いかかわり。 編集者と作家でもない、闘争の同志でもない、夫婦でもない。 けれども、たしかに女と男であり、あえて名付けるならば、愛としか呼べないものが、『評伝 石牟礼道子―渚に立つひと』から伝わってきた。 でもそれだけでは、梯久美子さんは満足できなかった、もっと深く二人のことを知りたく思ったという。

 そこで『魂の邂逅―石牟礼道子と渡辺京二―』だが、二人の半世紀にわたる共闘と愛を、秘められた日記や書簡、発言によって跡づけた本だそうだ。 梯久美子さんは、米本浩二さんが石牟礼さんのもとに繰り返し通い、彼女の療養を支えた人たちとともに、その晩年を見届けることになったからこそ、これまで誰も踏み込めなかったという石牟礼さんと渡辺さんの二人の関係に、覚悟をもって踏み込むことができたと言う。 二人のとりとめのない会話は、凄絶な孤独を抱えた者同士が、果ての果てに行きついた場所の穏やかさを思わせる。 そこに至るまでの二人に、どのような魂の格闘があったのか。 石牟礼道子さんは2018年2月に亡くなり、渡辺さんは自分たちの関係が何であったか言葉にしている。 米本さんは、二人の歩みを終盤で、石牟礼さんの作品中の言葉から、「道行き」と表現しているそうだ。