池澤夏樹さんの追悼「いささか私的すぎる解説」2023/02/02 07:05

 池澤夏樹さんは、星野道夫『旅をする木』の「いささか私的すぎる解説」で、自分は星野道夫より七つ年上だが、彼が死んだ三年前の夏には51歳になったばかりで、友人たちはみんな若かったので、親しい者の死を受け止めるすべを知らなかった、という。

 池澤さんは、「旅をする木」の話がいいと、内容を紹介した後で、こう書く。 「つまりトウヒにとって、枝を伸ばして葉を繁らせ、次の世代のために種子を落とすという、普通の意味での人生が終った後も、役割はまだまだ続くのだ。死は死でなかった。最後は薪としてストーブの中で熱と煙になるのだが、その先も、形を失って空に昇った先までも、読む者は想像できる。トウヒを成していた元素は大気の中を循環し、やがていつかまた別の生物の体内に取り込まれるだろう。トウヒの霊はまた別の回路をたどってたぶん別の生命に宿る。人は安易に永遠のいのちとか、不老不死とかいうけれども、本当はこういう意味だ。みんなこのトウヒになれればいいのだが。」

 「今となると、ぼくには旅をする木が星野と重なって見える。彼という木は春の雪解けの洪水で根を洗われて倒れたが、その幹は川から海へくだり、遠く流れて氷雪の海岸に漂着した。言ってみればぼくたちは、星野の写真にマーキングすることで広い世界の中で自分の位置を確定して安心するキツネである。彼の体験と幸福感を燃やして暖を取るエスキモーである。それがこの本の本当の意味だろう。」

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