小辰改メ入船亭扇橋の「いかけや」2023/02/04 07:10

 小辰改メ入船亭扇橋の出囃子「いっさいいっさいろん」は歌入りだ(上方で人気の桂二葉(2022.2.25.当日記参照)と同じ)。 整った頭、両脇を刈上げている。 9月21日に十代目入船亭扇橋を襲名、自分で言わないと誰も言ってくれないので、と。 倅が一人、小1、忙しくて構ってやらなかったら、寂しかったのだろう、風船をふくらませて、父ちゃんの顔を描き、朝の食卓の父ちゃんのいる所に置く。 バン、バン、バンと、はじける黄色い父ちゃん。 紫父ちゃん。 アッ、しぼんだ父ちゃんが出来た。 掃除の時、かみさんが、棄てちゃいなさい、そんなもの。

 学校寄席で、1年生の女の子、前列で立ち上がって、こちらを指差し「イケメンだ!」 隣の男の子、「君は変わった趣味だね」と。

 大塚生まれ、酒屋だ。 土曜半ドンで家に帰ると、店に上下スエット、サンダル履きのお兄ィちゃんが、震える手で二本飲む。 震えないほうの手で飲めばいいのに。 騒ぐと、うるせえ! と言う。 ある時、ボンとはじかれた。 静かにしているのに…。 車が来てんだろ! 周りの大人が、自分の子供のように見ていた。

 商いが通る、絶滅した商売に鋳掛屋(いかけや)、鋳造でつくった鍋や釜の穴や割れを、同質の金属や半田(錫と鉛の合金)の一種白鑞(しろめ)で修理する。 箱ふいごで、火を熾す。 子供から見ると、面白い。 七、八人でからかう。 まとめるのが、ガキ大将。 大人のくせにムキになるから面白いと、セーノ! で、ワーーッと騒ぐ。 弁当を食おうとしたら、砂をかける。 君は、細君はおるかね? なんて聞く。 かみさんぐらいいる。 仲人はいないだろう、いかけ屋だけに、くっつく。 女の子が、お嫁に行くとこ決めてる、この子、と。 君は、子供があるかね? 男の子、かみさんがよくやった。 今から悲観することはない、いかけ屋の子だ、出来が悪くても直せる。 皆騒ぐ中で、おとなしい子もいる。 ぼくは質屋の子、病気なんです、実は高血圧で。 大人を、からかうな。 ガキ大将が、鍋や釜に、カチンカチンと穴を開け、逃げろ! ワーーッと、逃げ出す。

 鰻屋をからかう、セーノ! で、行くから…、騒ぐ。 じりじり詰めて来るな。 針をちょうだい。 今日は、針はないよ。 甕(かめ)を触るな、大事な物だから。 お前、こっち来い。 こないだ、高い方の札と、安い方の札を取り替えただろう。 見てるだけだ。 鼻から垂れているもの、どうにかしろ、甕を覗くな。 喧嘩するな、何で女の子が勝ってるんだ。 俺の見ていないところで、「蛇屋」って書いたのは、誰だ。 一日売れないから、変だと思った。 鰻屋の子か。 二度としませんと、言いなさい。 しますん。 針はないよ。 甕に指突っ込んで、なめるな。 女の子がさっき、一緒になると言ったのに、浮気をした。 しゃもじで、かきまわすな。 足を踏まれたと、泣く。 離れな。 しゃもじ、横にしとけ、寝かせとくんだ。 鰻、真っ黒になったじゃないか。 本当だ、穴が開いてらあ、いかけ屋へ持って行こう。

 入船亭扇橋、口跡もはっきり、トントンと調子よく畳み込み、真打昇進ももっともと思わせる高座だった。