柳家権太楼の「二番煎じ」後半 ― 2023/02/08 07:07
月番さん、家を出る時、わが娘がお父っつあんは年だから、瓢(ふくべ)に酒を入れてくれた、飲みながら、いかが…。 火の番ですよ、お役人が見回りに来る、何を考えているんです、あなたなんか年嵩でしょ、止めるのが役でしょう。 年甲斐もなくて、すみません。 何ですか、貸しなさい、こっちへ。 辰っつあん、土瓶を空けて、洗って、布巾で拭いて、土瓶の中にそれを入れて…。 黒川先生、駄目ですよ。 月番さん、何をやってる? 火にかけて、どうする。 飲むんです。 お酒は駄目だけれど、土瓶から出る煎じ薬ならいい。 実は、私も一升持って来た。 湯呑茶碗でやりましょう。 伊勢屋の旦那も。
宗助さんは? 肴を用意しました。 これなんですけど、猪(しし)の肉、葱も刻んであって。 鍋、ないよ! 鍋、背中に背負ってきました。 それで猫背だったんだ。 辰っつあん、心張り棒支(か)って。 二の組、ずっと回そう、今日は…。 ご苦労様。
(小さな声で)アーーッ、フゥーーッ。 いいですね。 酒は百薬の長っていうからね。 どんな先生の薬も、すぐには効かない、これはすぐに効く。
鍋が煮えたよ。 箸が一膳しかない。 黒川先生、どうぞ。 猪(しし)の肉は、初めてで。 これは美味ですな、知らないで、年を重ねたのは人生の不覚。 娘に買わせましょう、どこで売ってますか、宗助さん。 隣町のももんじ屋で、売ってる。 けっこうですね。 <番小屋で猪鍋食べてシシシシシ>、よくないよ。 <猪鍋や北風ぴゅうぴゅう吹いている>、いい加減にしなさい。 猪の肉は、どんなに熱くても火傷しないという。 箸を貸しなさい、伊勢屋の旦那に。 私は猪、四つ足は苦手で、葱を頂かせてもらいます。 葱のクタッとしたのが好きで。 アッ、中の芯がピューッと飛び出て、熱い。 葱が好きだといいながら、葱と葱の間に肉を挟んでますね。 見っかっちゃったか、実は肉が大好きで…。 いいね、こういうことがあるんなら、明日も番頭は寄越さない、寄せ鍋をやりましょう。
みんなで都々逸の回しっこなんかどうです。 ♪米俵、もとを質せば、野山のすすき、月と遊んだ頃もある。 ヨーヨーヨー。 黒川先生、こんなのはどうでしょう。 <猪鍋に蛙飛び込む水の音>
バン! バン! 辰っつあん、何か言った? 犬が匂いを嗅ぎつけたのか。 バン! シッシッ! バン! バン! シッシッ! 番の者は、おらんのか。 犬じゃない、役人だ! 土瓶を隠して。 鍋が見える。 宗助さん、鍋の上に座りなさい、あんたが持って来たんだから。 私が…。 アッチッチ、ふんどしにおつゆがしみる。
皆の者、そつがなく回っておるか。 先ほど、拙者がバン!バン!と申したところ、シッシッ!と申したのは、なぜか。 火を熾そう、火、火、と言った。 ここにいる宗助さんが…。 俺の名前を出すなよ。 土瓶のようなものを隠したようだが、あれは何か。 風邪で、煎じ薬を煎じておりました。 拙者も一服、所望したい。 結構な煎じ薬である。 ごゆっくりと、十分にございますから。 鍋のようなものも、あったようだが…。 あれは、煎じ薬の口直しで。 ここに出しなさい。 出所がよくない。 宗助さん、立って。 ふんどしに、葱やなんかがくっついている。
すまないな、辰っつあん、お相手をして。 駆け付け三杯と申します。 口直しをどうぞ。 黒川先生、こんなのはどうでしょう、<役人に叱られるまで猪の味>。 つゆの味が足りんような気がする。 宗助さん、ふんどしを絞って。 煎じ薬を、もう一杯所望じゃ。 煎じ薬が切れました。 なに、左様か、拙者もう一回りして参るので、二番を煎じておくように。
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