春風亭一朝の「突き落とし」前半2023/03/06 07:08

 指にも色気がある、と一朝は始めた。 小指を出すと、とんとんと話が運ぶ。 近頃、出来てるそうじゃないか。 一杯おごるよ。 人差し指を曲げて、ビン公、近頃やってるそうじゃないか。 何を! と喧嘩になる。 真っすぐ、指を伸ばすのもある。 上野駅は、どちらで? 真っすぐ行って、左に曲がる。 鈴本は? 指が違うと、わからない。

 若い者が集まっている。 女が好きだ、好きで好きでしょうがない、女になりたいくらいだ。 吉原、遊女三千人御免の場所。 朝、女郎に、もう帰るのかと腕をキューッとつねられたと、そのアザを有難がっている。 女郎の方は、こんな野郎に、安いゼニで、くやしいとつねった。 見解の相違。 そのアザを自慢して、友達に見せて歩く。 女が、惚れてるね。 「アザがつくほどつねっておくれ、それを惚気(ノロケ)の種にする」。 色が薄くなると、自分でつねって、色上げをする。 俺なんか、女に喰いつかれた。 シマ蛇みたいな女だな。 やけに大きい歯型だ。 笑いながら、噛みついた。

 これから、繰り込むか。 刑務所へ? 仲へ行こう、吉原へ。 銭があるか? 懐かしいねえ。 持ってないことはない。 いくら? 1銭。 死ね。 そっちの方は? 俺にまかせるのか。 大きい方か、小さい方か? 両方ねえ。 懐に手を入れてたじゃねえか。 フンドシ、直してたんだ。 まぎらわしい恰好をするな。 善ちゃんは? 銭はねえ。 丁寧に聞けよ。 あなた、お足ありますか? いいえ、私しゃあ、ありません。 鉄ちゃん? ない。 早いね。 口、開けて、待ってた。 金を持ってるのは、一人もいないのか、男、廃業しろ。 そういうお前は、どうなんだ。 俺があれば、手前え達に聞いたりしない。 どうだい、酒をたらふく飲んで、食って、遊んで、タダで帰って来ようという考えがある。

 芝居で、俺を棟梁、お前達が仕手方ということでよければ、タダで遊べる。 初会の店、それも中店の下に登楼(あが)る。 源ちゃん、口が達者だから、若い衆に、俺たちは大工で棟梁が一緒、明日は番町の屋敷の建前だ、棟梁がふだん遊んでいる角海老じゃなくて、俺たち分相応の店だけれど、棟梁が「うん」というかなって言うんだ。 若い衆が、「お口添えを」って言うから、大きな声で「トウリュウ!」と呼ぶ。 俺が、「一緒に登楼って、やろうじゃないか」、と言う。

 どうぞ、お登楼りを、となるから、どんどん登楼って、酒や台の物をたらふく頼んで、ドガチャカ遊ぶ。 若い衆に勘定ってことを、言わせない。 芸者を揚げて、さんざん飲み食いして、酔っ払ったまま、おしけになる。 朝になって、勘定を取りに来たら、紙入れを探し、若い者に預けてあることを思い出す。 市村羽左衛門、橘屋の出番だ、清ちゃん、清公、いいねえ。 長火鉢の横で、お内儀さんに言われた、明日は大切な建前だから、間違いがあるといけないから、紙入れは預かっておくよ、と。 それで預けたのを、忘れておりました、と。 馬鹿、間抜け! と、俺が二つ、三つ張り倒す。 えっ、イヤだな。 羽左衛門だよ、言うとおりにしてくれ。 わかった、頭のこっちにしてくれ、こっちはオデキがある。 大丈夫、芝居だ。 信ちゃんがまあまあと、間に入って、若い衆を廊下に出す。

 これから残らず払うんだが、誰かが取りに行けばいいんだが、今日は建前でみんな行かなくっちゃならない、大門を出てすぐの田町だから取りに来てくれと、若い衆を表に連れ出す。 女にもてた、もてない、という話になり、立小便をすれば判る、鉄漿溝(おはぐろどぶ)の所で、一番の奴に羽織と祝儀をやろう、と言う。 若い衆も一緒にやらせて、後ろから腰のあたりを突き飛ばす。 アラヨって、みんなで逃げようってんだ、どうだ。 そんな知恵があって、何で偉くならねえ。

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