柳家喬太郎の「按摩の炬燵」後半2023/03/10 06:47

 今日は、一日終った。 酒の方から、入っていくからね、ワーーッ、ハハハ、ありがてえ。 番頭さん、いい炬燵になりますよ。 番頭さんも、飲みねえ。 誰も飲まない、一人も…。 飲むのは、わっしだけ? みんなで一人を見てるの、申し訳ないねえ。 飲めねえ、飲めねえ…、と飲む。 徳どん、燗に気が入ってないね、これでいいんだという感じになってる。 それでも、うめえや、疲れが取れるような心持になる。 酒なくてなんのおのれが桜かな。 これだ、これだ、香りが口の中から、鼻に攻めてくる。 誰か、飲もうよ。 出来ないよ、そんなずうずうしい真似は…。 ほかほかしてきた。 羽織(と、畳み)、置いときます。 申し訳ない、ヘイ、ヘイ、ヘイ。 ン、だったら冷やの方がいいね。 せっかく旨い酒だから。 佃煮、これで。 ン、ハゼだ、こういうのがよござんすね。 近頃、海老なんていうけれど、口の中でチクチクしてね。 帰る時、月夜か闇夜か訊く、提灯を借りる、人にぶちあたらないように、目明き除けの提灯。 木村さんのお宅で、提灯借りて、広小路でドスン! どこに目つけてんだ! カチンと来た。 目の見えねえ目明きか! 按摩さんかい、無理言っちゃいけない、提灯の火が消えてるよって。 ハハハハハ。

 今夜、泊れるよ。 独り者だ、かみさん、もらわないかという話もなかった訳じゃない。 酒、これがあっしのかみさん、ハハハハハ、不自由なことはない、ずっと一人で生きてきたから。 生まれつきだから、見えるってのが、わからない。 今から見えてもね。 ガキの時分から、番頭さんとは友達なんで、ハハハハハ。 悪かったんだよ、一緒に柿泥棒やって、番頭さんは十四の歳まで寝小便が治らなかった、ハハハハハ。 その時分、やーーい、やーーい、見えねえだろうって! かばってくれるのが、番頭さん、ありがとうね。 酔っぱらったね、アハハ、今夜は楽しい。 いい夜だよ、楽しいよね、みんな……、そうだ炬燵を忘れていた。 みんなも眠いもんね。

 熱いね、これ、徳どん、煮え燗みたいにしちゃって。 どうする、どうする、スッファ。 みんな寝たいね。 ククククク、カッカしてきた。 いい炬燵になる。 皆さん、お休みなさい。 勝手知ったる…、蒲団敷いてあるんだ。 それじゃ、お休みなさい。

 米市さん、長々寝られちゃあ、困るんだよ。 炬燵の形になってくれ。 そうだった、こんな塩梅でいいですか。 みんなで、当たらせてもらおう。 徳どん、頭のところに当たれ、頭を挟むように。 えっ、番頭さんだけじゃなくて、皆さんで当たるのか……、いいよ。 つめて、つめて。 アッ、ウーーッ、ウーーッ、エッ、アーーッ、アーーッ、酔いなんか醒めちゃうよ。 ねえ、寝ちゃったのかい、折角だから、話をしようよ、旦那の話、お内儀さんの話。 ねえ、だんだん眠くなる。 善どん、勝どん、徳どん、彦どん! みんな、寝ちまったのか、綿の如くってやつだな。 実る程頭を垂れる稲穂かな。

 おっかさん! 徳どんだな。 やい、活版屋の小僧、よくいじめやがったな。 こうやって、みんな偉くなっていくんだ。 六どん、もう、辛抱できないから、そこのドブでやっちゃうよ! 寝小便は、いけないよ。 アッ、ウォーーッ、ウォーーッ、ビショビショだ。 拭いて、拭いて……、米市さんに、もう一度、炭を熾して、炬燵をやってもらおう。 炬燵は無理です、今の小便で火が消えました。