凄腕リサーチャー、喜多あおいさん2023/04/20 07:01

 「凄腕(スゴウデ)しごとにん」というページが、月曜の朝日新聞夕刊にある。 4月3日は、一昨日のコラム「売れてる本」の筆者・喜多あおいさん(58)、「調べ物で関わった番組【約600本】」だった。 肩書はズノー執行役員・リサーチャー。 プロフィルに、94年、放送作家事務所「オンリーユー」でリサーチャーとして活動開始。98年に番組制作会社「ジーワン」(合併で現ズノー)に移り、2012年より現職とある。

 テレビ業界の縁の下の力持ち、番組の調べ物を担うリサーチャーは1990年代に専門職として確立した。 喜多あおいさんは、その頃から活躍する一人として、「なるほど!ザ・ワールド」「日曜日の初耳学」「家売るオンナ」「ファミリーヒストリー」「THE TIME.」「カズレーザーと学ぶ。」など多くの番組に関わってきた。 その数、約600本。 放送界で功績をあげた女性に贈られる「放送ウーマン賞」を、2014年度に受賞した。

 テレビのほか、映画や企業マーケティングなどの依頼も含め、常時並行して15件ほどの調査を抱え、毎日何らかの締め切りを迎える。 増え続ける依頼に対応するため、調査チームを組んで指揮をとる仕事も増えている。

 辞書、書籍、新聞、雑誌、インターネット、SNS、時にリアルな取材も含めた調査を重ねる。 番組で出る情報のファクトチェックやトレンド分析、出演者の親類縁者をたどっていくような調査は、リサーチャーとしての典型的な仕事だ。

 歴史も科学もエンターテインメントも、あらゆるジャンルを守備範囲とするのは業界のなかでも、そう多くない。 提案した調査結果から、リアルなドラマが生まれたり、深みのある情報番組が出来たりして、依頼人のクリエーティブのスイッチを押すことになれば、最高の結果だ。

 20代の頃からは、いろいろな仕事を経験した。 出版社では、ダイレクトメールを発送するのに、想定される問い合わせと答えを作り続けた。 新聞社では、記事のデータベースを構築した。 大物作家の秘書の時代は、取材や口述筆記を担当した。 「どれも今の仕事につながる楽しい仕事だったけれど、もっと誰かのために調べ物をしたいという思いが消えなかった」と振り返っている。

 調べ物の基本は、何をおいてもまず辞書、事典、図鑑から。 「索引」付きの本を収集する癖があり、3千冊の蔵書を持つ。 世の中の風を感じるための大型書店巡りや百貨店めぐりは日課。 「調査依頼を反芻(はんすう)してその場に行くと、バンバン情報が飛んでくる。心理学でいうところのカラーバス効果です」。

 「カラーバス効果」とは、色を浴びる、ある特定のものを意識し始めると、関連情報が自然に目に留まりやすく、目に飛び込んでくる心理効果。 アンテナを張っていると、そういうことが起こるのは、48年間「等々力短信」を続けている私もしばしば経験していることだ。