古今亭菊之丞の「茶の湯」後半2023/04/29 07:01

 三軒長屋は、豆腐屋、鳶職の頭、手習いの師匠。 家主のご隠居から、昼過ぎより茶の湯の会という案内が来た。 豆腐屋は、物識りで通っているんだ、しょうがない引っ越ししよう、と言い出す。 かみさんは、がんもどきを大きくして、利を薄くして売って、せっかく商いになって来たのにどうするんだ、と。 羽織を出せ。 隣の頭のところ、ガタガタやっている。 お騒々しいようで。 よんどころない事情で引っ越す。 茶の湯でしょう。 恥をかこうとしたら、婆アが先祖に恥をかいた者はいないという。 奥の先生はお武家の出、茶の湯の飲みようぐらいは知ってるだろう、それを真似したらどうでしょう。 みんな、道具を出すな、ちょっと待て。

 二人で手習いの師匠のところへ。 先生は、皆さんにお話がある、よんどころない事情で引っ越す、お父さんお母さんにそう伝えるように。 転宅ですか、茶の湯の呼び出し状でしょう。 いいや。 先生はお武家の出、茶の湯の飲みようぐらいはご存知でしょう。 お流儀がわからない。 黙って飲んで、お流儀という言葉が出たら、三度目にゲンコでひっぱたいて、それから引っ越してもいい、と相談がまとまり、出かける。

 末席の御詰は頭、ゲンコの都合で。 まず先生、ぐっと飲み込む。 豆腐屋、つぎは頭、ただ飲みゃあいいのか、ウッ、ウッ、なんだいこりゃあ。 口直しはないのか、羊羹があった。 隠居は、三人の客に茶を振舞ったという快感がたまらない、茶の湯は生涯の生きがいだという。 食わせる羊羹が美味い、京都から取り寄せる。 客は、茶の湯は命知らずだが、羊羹を先に食う、残りを袂(たもと)に入れて帰る。 向こう三軒両隣が姿を現さなくなった。 通りがかりの何の罪もない人を連れ込む。

 隠居は晦日の勘定を見て、驚いた。 これでは身代がもたない。 芋俵を一俵買って、薩摩芋をふかして、あたり鉢でつぶし、黒蜜、黒砂糖を入れた。うまく抜けないので、灯し油を入れたら、抜けた。 黒くて、照りが出たのを、利休饅頭と名付けたが、来る人がいなくなった。 蔵前時代の知り合いが来て、お流儀を知らないという。 青黄な粉を、普段の倍入れる。 どう飲めば、よろしいのでしょうか。 ご随意に。 良い器で、ウッ、ウッ、良いお手前で…。 うまそうなお菓子があったので、二つ口に入れたが、不味い。 袖に隠すと、襦袢にシミが出来た。 おしもを拝借。 建仁寺垣越しに投げると、畑で菜っ葉を取っていたお百姓の頬っぺたに、ペチャっと。 アハハ、また茶の湯か!