古今亭始の「近日息子」2023/05/10 07:00

 5月2日は、第659回の落語研究会だった。 月末が多いこの会では、異例の早さだ。

「近日息子」     古今亭 始

「庭蟹」        古今亭 昇也

「お初徳兵衛」    隅田川 馬石

        仲入

「商売根問」      五街道 雲助

「算段の平兵衛」   橘家 圓太郎

 古今亭始(はじめ)、高い声で、落語研究会はいつか出たいと思っていた、全噺家の夢。 子供の頃、お爺ちゃんに連れられて寄席に行き、大学ではオチケンで活躍……、というのではなく、実は介護福祉士だった。 施設のリクレーションがあり、お爺さん、お婆さん相手に、見よう見真似で、落語をやった。 終わったら、認知症のお爺さんが突然、寿限無の言い立てをしゃべり始めた。 頭の中で、何かがつながったのだろう。 それで、師匠に入門した。 介護士で3年働いて、父に、芸人になると言ったら、そうだろうと思ったと納得した。

 倅、今、誰が来てた? お父っつあん、暦を買わされた。 十年前に夫に死なれて、五つをかしらに三人の子がいる、可哀想なおかみさんに。 騙されたんだろう、十年前に夫に死なれて、五つをかしらに三人の子がいるわけがない。 可哀想だから、暦を百冊買った。 百冊もどうするんだ。 見せろ…、馬鹿、去年の暦じゃないか。 大丈夫だ、来年、また来るって言ってた。

 芝居を観に行ったら、「近日開演」としてあった、明日初日だろうから、明日行くよ。 頭を使え、気働きをしなさい、近日ってのは、近々やりますということだ、少し考えなくっちゃいけない、なんでも先に先にやれ。 じゃあ、今晩、明日の朝飯を食おう。 馬鹿、頭が痛いよ。 すると、倅が飛び出して行った。

 錆田先生を連れて来た。 床に横になって、お脈を拝見。 どこも悪くないと、首をひねったら、倅がまた、どこかへ行った。 親父が頭が痛くて、長いことはないと、息子さんが言うんで、来たんだが…。 倅が馬鹿で、頭が痛いって言ったんで。 ああ、そう、せいぜい息子さんをお大事に。

 えらいことになっちゃった、岩田の隠居が亡くなった。 この目で見たんだ、倅さんが葬儀屋を連れて来た。 隠居には、ゆんべ、湯で会った、その後蕎麦屋でもりそば二枚ペロリと食べていたんだが。 頭に血がのぼる病いだろう。 能天気。 それを言うなら、脳溢血だろう。 そうとも言う。 行かなくちゃ…、止めるな、松の廊下じゃない。 みんなで行こう。 忌中の札が、遠くで見ずらい。 俺が一番前の、ほっかぶりで。 砂かぶりだろう。 そうとも言う。 みんなで鰻を食べに行った時、お前は、寝巻を一人前と。 鰻巻。 そうとも言う。 お前は、素直で、謙虚な気持がないんだ。 トンカツ食いに行った時も、上にかけるホース、持って来てって。 美味かったな、あのトンカツ、トンカツは、牛に限る。 鯨に限るだろう。

 弔いの挨拶、アー、アー、アー。 イヤミって、言うんですよね。 悔やみだ。 そうとも言う。 この野郎! 悔やみの上手い方、先にどうぞ。 それで、順に順に行こう。 私は悔やみなら、右に出る者はいない、皆様、私をご推奨を。 行って来ます。(と、大げさに、手拭で鼻をかむ)

 アア、御免下さい、この度はご愁傷さまで! いったい、何の真似なんです? アッアッ、サヨナラ! 仏が、煙草を喫んで、睨んでる、(幽霊の手をして)出た! 見間違いだろう、それは親類だ、親類には似た方がいるものだ、落ち着きなら私だ。 (戸を開けて入って)アッ、どうも、サヨナラ! (引っ張られて)放して、放して、成仏しなさい。 足を見なさい。 じゃあ、どなたがお亡くなりになったんで、白黒の鯨幕、忌中の札も出て、葬儀屋が支度している。

 お父っつあん、今、お寺の方へ行って来た。 お前、何をやってるんだ、長屋の連中が悔やみに来たぞ。 長屋の連中も、利口じゃないな、忌中の脇に近日と書いておいたから。