「ゲラ刷り」を校正する仕事2023/06/04 07:12

 「牟田郁子の落ち穂拾い」、4月26日は「すぐ直せない紙の手ごわさ」、本業の校正の話だった。 製本が「紙の束を綴じて本のかたちをつくる」(『本を贈る』)仕事なら、本の校正は「綴じていない紙の束を読む」仕事といえるだろう、と牟田さん。 校正のための試し刷りをゲラといい(私は高校新聞部で覚えた)、見開き二ページ分が一枚に印刷されている。 240ページの本ならゲラは120枚。 図書館や喫茶店で、大きなダブルクリップで留めた紙の束を睨んでいる人がいたら、出版関係者かもしれない、という。

 紛失を防ぐため、ゲラを預かったときと返却する前には、かならずノンブル(ページ番号)を数える(ノンブルという業界用語は、私家本を造った時に聞いた)。 机一面にゲラを広げて読んでいると、本を作るとは言葉を紙の上に固定することなのだと思う、と牟田郁子さんは言う。 ひとたび印刷・製本されれば動かせない。 だから校正者は誤植を見落とすまいと必死だし、印刷会社や製本会社は落丁、乱丁(ページの脱落、順序の混乱)に神経を尖(とが)らせる。 書籍編集者が「ウェブはすぐに直せていい」とぼやくのも無理はない、という。

 本と比べて「すぐに直せる」データは、動き続けるものと映る。 為政者が不都合な事実を隠蔽しようと企て、ウェブや電子書籍がいつの間にか書き換えられているということだって、あり得るだろう。

 「ゲラ」という言葉だが、もともとは、活版印刷で組み上げた活字を入れる木製の箱のことで、ガレー船galleyから来ているのだそうだ。 ここで牟田さんが言っているのは、「ゲラ」に入れた組み版を校正用に刷った「ゲラ刷り」のことだ。 「ゲラ」についての、私の思い出は、また明日。

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