米中関係は「ツキディデスの罠」か2023/06/22 06:59

 6月16日の「ニュースウォッチ9」で田中正良キャスターが、米中関係について、グレアム・アリソンハーバード大学教授、同大ベルファー科学・国際問題研究センター所長にインタビューしていた。 「ツキディデスの罠」とは、グレアム・アリソン教授がつくった言葉で、新興勢力が台頭し、既存勢力の不安が増大すると、しばしば戦争が起こる、ということ。 古代ギリシャの歴史家ツキディデスが、ペポロネソス戦争を不可避なものにしたのは、新興国アテネに対するスパルタの恐怖心にあったとしたことに、由来する。

 古くは15世紀末のポルトガル対スペイン、17世紀末からの英仏戦争、20世紀に日本が台頭した際の日露戦争、太平洋戦争なども、「ツキディデスの罠」にあたるとされる。 「ツキディデスの罠」の16のケースの内、戦争になったのが12、戦争を回避したのが4つあった。

 グレアム・アリソン教授(1940年3月23日生れ)には、『決定の本質―キューバ・ミサイル危機の分析』宮里政玄訳(中央公論社・1977年)、『同 第二版』漆嶋稔訳(日経BP・2016年)、『米中戦争前夜―新旧大国を衝突させる歴史の法則と回避のシナリオ』藤原朝子訳(ダイヤモンド社・2017年)がある。

 グレアム・アリソン教授は、米中関係が「ツキディデスの罠」にかかり、台湾に関わる最近の緊張関係から、戦争に進む危険は大きいとする。 そこで、アメリカとソ連の首脳が、キューバ・ミサイル危機の折に緊密に連絡を取り合って、核戦争を回避したことに学ばなければならない、とした。

 キューバ・ミサイル危機の時、私は大学3年生の秋で、三田キャンパスの南校舎の階段に刻々張り出される最新の情勢を読んで、教室へ授業を受けに行くのだけれど、どうにもならない無力感や虚無感を抱いていた。 後に知ることになる慶應義塾の、上野戦争の折のウェーランド経済書講述の洋学の灯は消さずの伝統とは、まったく異なる心境であった。