柳家権太楼の「百年目」中 ― 2023/10/10 07:02
総乃屋の女将が、みんなにしゃべっちゃった、向島へ花見に屋根舟の大きな船で行くって。 番頭が、二丁ばかり行くと、駄菓子屋の二階に三畳一間のプライベートルーム。 箪笥に入っている、友禅の別染めで、釣鐘弁慶の大津絵を描いた長襦袢に着替え、結城の羽織を肩に引っ掛ける。 どう見ても、大店の旦那。
旦那、こっちこっち。 船に乗り込む。 みんな、よく来てくれたね。 狭いから、手酌で。 どうした菊千代、ふくれっ面をして。 私に知らせてくれないんだもの。 来ているんだから、いいじゃないか。 障子は、閉めておいてくれ。 人に見られるのが困る。 大川に出ても、開けちゃあ駄目。 お花見だか、島流しなのか、わからない。 障子、破いて覗くだけ。 吾妻橋を抜けて、皆汗をかいたんで、少し開けると、川風がヒューーッと。 向島の土手は、花真っ盛り。 ドンチャカ、ドンチャカ、カッポレ、カッポレ。 土手に上がりましょう。 お花見しましょ。 行きたい奴は行け。 みんな上がんなさい、私はここにいる。 一八さん、何とかして。 お姐さん、赤いしごきを。 大将、扇子をお顔の前に結わえて。 土手に上がるか。 肩脱ぎしましょう、友禅の肌襦袢、洒落てますね。 高島屋!
番頭さんの緊張感が、酒と船の酔いで切れた。 追いかけっこが始まる。 由良さん、こちら、手の鳴る方へ。 とらまいたぞ。 とらまいた。
旦那とお抱え医者の玄白さんも、花見に来ていて、茶屋にお代を置いて、立ち上がった。 年のせいか、花よりも梅見が好きになった。 ご覧なさい、先生、お金持がいるね。 芸者、幇間総揚げして…、あれはやった者じゃないとわからない。 大層な遊び方だ。 粋な遊びだ。 佐平さんです。 うちの番頭さん? 今朝も叱言で、ゲイシャっていうのは、夏着るシャか、冬着るシャか、タイコモチっていうのは、焼いて食うのか、煮て食うのか? って言っていた。 眼鏡をかけて見ましょう。 えらいものを見た、通り抜けましょう。
酔っぱらいは、避けるほうへ寄る。 つんのめって、とらまいた。 俺が誰だかわかるか、酒を飲ませるぞ。 お前は誰だ。 人違いでしょう。 人違いじゃない、声に聞き覚えがある。 アッ、番頭さん。 (地べたに手をついて)アッ、長々ご無沙汰を申し上げておりまして。 お手を上げて、土下座などしないで。 行きましょう、行きましょう。
だから土手に上がらないって。 あの人は、私の旦那です。 粋ねえ、粋ねえ、あの人を呼んで、お舟でみんなで飲みましょうよ。
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