娘さんが語る、槇文彦さんの本棚 ― 2024/07/21 07:35
槇文彦さんの長女・坪井みどりさんの「父の本棚」というエッセイが、『代官山ヒルサイドテラス通信』19号(2023春・夏)にある。 坪井みどりさんは、代官山インスタレーションの事務局(1999-2013)を務め、その縁でアートフロントギャラリーに勤務している。 ヒルサイドテラスに住み、働いている。
子どものころ、槇文彦さんの事務所は日本橋にあり、槇さんは仕事帰りに丸善で、これはという本を買って来てくれた。 その一冊『夢を掘りあてた人 トロイアを発掘したシュリーマン』は、歴史が好きなみどりさんにぴったりで、考古学者になる夢を与え、いろいろな言語の向こうに広がる世界を垣間見せてくれ、大学でフランスに留学するきっかけとなった。 フランスの地方都市のカトリックの女子寮へのダンボールには、父が選んだ、森有正がパリ留学時代に綴ったエッセイ『バビロンの流れのほとりにて』があって、真っ白なカバーの美しい本が、彼の地で奮闘している娘を思う父の姿が想像された。
槇文彦さんのもとには、建築や都市を中心とした様々な本が著者から送られ、積み上げられている。 それに加えて、自身で新聞の書評欄には丁寧に眼を通し、興味を持った本については書評の切り抜きを持参して代官山 蔦屋書店などで注文していた。 リビングの安楽椅子に座って、コーヒーを飲みながらページを繰り、気になる箇所にポストイットをつけていく。
近年の槇さんは家では図面を描くことはほとんどなくなり、もっぱら原稿用紙に何か書いていた。 親しい友人に「僕は最近、建築よりも長く世に残っていくのは、文章や本ではないかと思うんですよ」と語っていたらしい。 事実、かたちになった本には、次世代の建築家へのメッセージがこめられている。 オープンスペースへの興味を展開した『アナザーユートピア』は、都市、建築のジャンルで必要なのはディベートだとし、基調となる問題点を投げかけて、16人の執筆者がそれに応えている。
2021年の夏から、槇文彦さんの蔵書目録をつくる作業が慶應義塾大学SFCを中心に進められた。 欠かさず買っていた『将棋世界』や月刊『選択』など、多岐にわたる分野の本も含め、著者からの献辞や槇さんの書き込み・付箋などが丁寧に記録され、総数は3200冊にのぼることがわかった。 これらの本は、慶應義塾大学内「槇文彦アーカイブ」の一部として、将来的に研究者などに活用されることを槇さんが希望しており、その調整段階にある。 また槇さんは、60~80年代に蒐集した美術作品をアーカイブに寄贈した。 ルドン、ピカソ等の小さな版画、クレー、宇佐美圭司、オルデンバーグやリキテンシュタインなど30点余になる。
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