「与太郎老いて、愚痴をこぼす」と「人間交際」2024/08/31 07:04

 大学同期のUさん、長年の等々力短信読者だが、1182号の「黒井千次さんの『老いの深み』」に嬉しい返信のハガキをくれ、90歳を目標にどう生きるかを考えていて、触発された号として、1111号「与太郎老いて、愚痴をこぼす」も挙げてくれた。 6年前の「老い」をよく憶えていてくれたものだ。 6月に福澤諭吉協会の『福澤手帖』201号に、「馬ヵ翁自伝」のような「「人間交際」の恵み、福沢諭吉協会五十年」を書かせてもらった。 協会の人向けだから「人間交際」の説明をしなかったが、この1111号には少しくわしく書いてあった。 Uさんのおかげで、あらためて読んで気がついたので、再録しておきたい。

        等々力短信 第1111号 2018(平成30)年9月25日                 与太郎老いて、愚痴をこぼす

 第1111号である。 「ぞろ目」という言葉がある、「二つのさいころを振って、同じ目が出ること」だが、『大辞泉』では三番目の意味に「全ての桁の値が同じであること。また、年・月・日などの全ての桁の値がそろっていること」とあった。 「エンジェルナンバー」といって、数字には意味があり、われわれの周りには常に天使がいて、その天使が数字を通じて私たちにメッセージを送ってくれているという考え方があるそうだ。 ゲートが開いたと見立てる「1111」には、夢や考えが現実になる、普段から謙虚であることが評価され高次元からの多くのサポートが受けられるので、感謝の心を持って、多くの人のために自分の使命を果たすようにせよ、等々の意味があるとか。

 43年前に、前身の広尾短信を始めた時、「漱石、福沢を引き合いに出すまでもなく、昔の人は実によく手紙を書いた。今来るのはDMばかり、ハガキでどれだけのコミュニケーションができるか実験のつもり」と書いた。 福沢は、Societyを「人間交際(じんかんこうさい)」と訳し、筆まめだけでなく、社中交歓はもちろん、演説館や交詢社、家族団欒、婦人も含む茶話会や園遊会、人と人とのあらゆる交際が、社会をつくりあげることを、実践した。 学問(実学=実証科学(サイヤンス))で身につけた個人の独立を、活発なコミュニケーションを通じて、国の独立に結びつけることを説いた。

 「等々力短信」は、郵送で約80通、メールで120人強、合計200名ほどの方にお送りしている。 毎月返事を下さるごく少数の方を除いて、ほとんど反響がない。 メールは一括送信ができて簡単だが、郵送分はかなりの手間と嵩になるから、ポストに投函するたび、つい何通返信があるのかなどと思う。 アンケート葉書でも入れようか。 池田弥三郎さんは、贈呈の著書に返信用葉書を入れて、大先生に叱られたとか。

 仙厓和尚「老人六歌仙」の第五に、「くどくなる、気短になる、ぐちになる、出しゃばりたがる、世話やきたがる」とある。 長年、自分で勝手に出しているのだからと、「愚痴をこぼさない」のをモットーに続けてきたが、1111号ともなると、与太郎も老境に入った気の弱りか、つい「愚痴をこぼす」ことになった。 どうもすみません。

 最近、紹介した『下山の時代を生きる』や『昭和の怪物 七つの謎』を、すぐに買ったとか、読んでとても面白かったとか、言って下さる方がいて、嬉しかった。 朝日新聞朝刊連載、鷲田清一さんの『折々のことば』に、こんなのがあった。 706「ぼくを研究に駆り立てていたのは、じつにつまらない「うれしさ」だった。 動物行動学者 日高敏隆」。 日高敏隆さんでさえ、そうなのだ。 「1111」は、夢や考えが現実になる。 短信子宅のポストが、手紙や葉書で溢れかえっている夢を見た。

小人閑居日記 2024年8月 INDEX2024/08/31 07:26

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