柳家権太楼の「井戸の茶碗」前半 ― 2024/09/16 07:08
権太楼も、ゆっくりと出てくる。 灰色の羽織と、薄緑の着物。 大リーグは粋なことをしますね、テレビでデコピンの始球式を見た。 家には犬がいないけれど、娘のところに犬がいて、二日間預かった。 かかあが預かり、ボールをくわえさせて、芸を仕込もうとした。 だけど犬は、ボールを噛もうとしない。 それでボールにハムをつけてやってみる。 しかし、犬はハムだけ食って、ボールには知らんぷり。 一日中やっていたら、犬が怒って、かみさんの手を噛んだ。 大谷選手と同じだ、ハムから大リーグへ行った(拍手)。 そんなことがあったの、誰も知らないよ。 「井戸の茶碗」に通じない、ただの「駄ばなし」で、昨日思いついた。
麻布の茗荷谷に、屑屋の清兵衛さんがいた。 屑屋は古物商でもあり、バカ儲かりすることもあるが、清兵衛さんは紙くず専門、鉄砲笊に秤を入れ、西法寺店(だな)の貧乏長屋を通りかかる。 十七、八、九の娘さん、掃き溜めに鶴のイーーイ女、色白、着ているから着物、脱げばボロ、東海道五十三次という着物を着ている。 父上、呼んで参りました。 紙くずは、八文で取らして頂きます。 この仏像は、いくらで? すみません、私はこういうものはわからない、ほかに出してもらいたいんで。 わしは千代田朴斎と申す、恥を話すと浪々の身で、昼は素読の指南、夜は売卜をしておるが、今日の暮らしにも事欠く始末で…、家宝のようなもので、損はないと思うが。 先生、二百文でお預かりします、それ以上で売れたら、半分頂き、半分お届けします。
芝白金細川様のお屋敷、窓下を通ると、右から五番目の上から声がかかって、その鉄砲笊は仏像か、門番に言って、高木の小屋へ参れ、と。 なかなかいいお顔だ。 振ると音がする、中に腹(ハラ)籠り、もう一つ仏像が入っているのかもしれない。 いくらだ? ご浪人様から二百文でお預かりしたもので。 欲のない奴だな、三百文でどうか。 三百文で買っていただければ、半分の五十文をお届けできる。 良助、三百文を。 ありがとうございます、ご浪人様もお喜びだと思いますよ、あなた様のお名前を。 高木作左衛門と申す。
良助、仏像を洗うので、金盥にぬるま湯を。 下の台座から、小判が出てきた、五十両ある。 儲かりましたな。 仏像は買ったが、中の小判まで買った覚えはない、その浪人に返してやりたい。 屑屋の面通しだ、窓下を通る屑屋を調べよう。 翌日から、屑屋がよく通るので、被り物を取れ、と声をかける。 間抜けな顔だな。 色が黒いな、煙草を喫え、煙が出る方が表だ。 長いツラだな、馬がトロロを食ったようで、間を忘れる。 通る屑屋、通る屑屋、みなやられた。 屑屋仲間が集まると、この噂になる。 仇討ちだよ、あの侍は父親の仇を探してるんだ、父はさる大名の指南番だった。 シナンバン? 八なんばん(8ナンバー?)、鴨南蛮。 新しい指南番が来て、論より証拠、御前試合となり、父がこてんぱんに勝った。 負けた方は、恨みに思い、闇討ちにして、江戸へ逃げた。 仇が屑屋に身をかくしたという噂だ。 上から、仇の屑屋に声をかけたら、逃げるだろう。 あの若侍だって腕が立つ、手裏剣をブスブスと投げ、中間が槍をグワッと刺して、いざ尋常に勝負勝負となって、死んじゃうことになる。
清兵衛さん、久しぶりだね。 風邪を引いて二三日、寝ていたもんで。 細川様の窓下へは、行かないほうがいい、通らねえほうがいい。 屑屋が通ると、声をかけるんだ。 それ、もしかしたら、私を探しているのかも。 お前が、仇か。 すすだらけの仏像を、三百で売った。 その首がポロッと落ちたんだ、武士は首が落ちるのを一番嫌う、あの屑屋の首を刎ねようって、探しているんだ。 お前さんの首だ。 細川様の窓下は、通らねえように、もし行っても黙って通りな。 逃げようとしても、向うは手裏剣をブスブス投げてくる。
黙って、通ろう。 こんちはーーッ、はい。 屑屋ーーーッ、お払い! アッ、甘ァーーィ、甘酒! 良助、連れて参れ。 何を、謝っておる。 落ち着いて、人の話を聞け。 キャーーッ! 良助、縛れ。 話を聞け。 あの仏像を洗ったら、下の台座から包みが出て、小判で五十両入っていた。 仏像は買ったが、中の小判まで買った覚えはない、そのご浪人に返してやりたいと思って、その方を探しておった。
そうでしたか、貧乏長屋にお住まいで、お嬢さんはきれいな方ですが、屑屋が見ても、貧しいものを着ている。 ご浪人も、医者の出前持ちかなんかしていて、昼はソー毒、夜は梅毒を直しているとか。 昼は素読の指南、夜は売卜、占いをしているのだろう。 あなた様のお名前は? 高木作左衛門と申す。
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