柳家権太楼の「井戸の茶碗」後半 ― 2024/09/17 07:06
先生、どうも。 風邪を引いて二三日、寝こんで遅くなりました、仏像が三百文で売れまして、お約束の五十文をお受け取りを。 屑屋さんが、取っておきなさい。 これはお約束ですから。 そうか、この通りだ、礼を言うぞ。 頭を下げないで下さい、まだ大口がある。 お侍が仏像を洗ったら、台座から五十両の包みが出ましたそうで、仏像は買ったが、天下の通用金を買った覚えはないと申されまして、五十両、お受取り下さい。 もそっと前へ出ろ、屑屋、いくつになる? 三十五で。 三十五にもなって、ものの道理がわからぬか。 仏像を三百文で売ったのは、わしの親不孝のしからしむるところだ。 包みの金は、買った人のものだ。 しかし、失礼ですが、私が見ても暮らしぶりがよくない、お嬢さんのことも考えてあげて下さい、五十両あれば、いい暮らしができます。 黙れ、黙れ、武士の魂まで、売ってはおらぬ。 と、娘さんに、刀を持ってこさせて…。
高木様、五十両収めて下さい、屑屋、もそっと前へ出ろ、いくつになる? 三十五にもなって、ものの道理がからぬか、と言われてきました。 黙れ、黙れ、刀に掛けても受け取らせてくれる。 良助、刀を。 イヤーーッ、ダァーーッ! 先生は馬鹿正直、娘さんは薙刀を持ち出して来たのだった。
清兵衛さんが、長屋の大家に相談すると、いい話だ。 五十両を、二十両、二十両、十両に分けて、間に入って商売に行けない屑屋に十両を、ということで、口を利いてくれた。 首を縦に振らない千代田朴斎には、何か一ついただけませんか、と。 何もない、チリ紙でも…、茶碗なら、わが父から譲り受けた茶碗、わしも使っている、だいぶ茶渋がついておるが。
高木の家中、細川家で、その話が評判となり、お殿様がその茶碗を見てみたいと、おっしゃった。 キッチンハイターでよく洗って、桐の箱に入れて、届ける。 お側にいた鑑定士が、いい仕事をしてますね、井戸の茶碗という幻の名器と鑑定した。 余に譲れ、と三百両下し置かれた。 良助、見ろ、千代田朴斎って何をやってた人だ、一国一城に値する名器だそうだ。 前例がある、百五十両と百五十両に分け、屑屋を呼んで来て、千代田氏に受け取ってもらおう。 屑屋、その方に届けてもらいたい。 嫌です、鉄砲かなんかで撃たれる。 そこをなんとか。 行って参ります。
屑屋さん、先日は、すまなかったな。 開けっ放しにしといて下さい、逃げやすいように。 百五十両、どうぞ黙って受け取って下さい。 私は三十五になりますが、ものの道理はわかりません。 もそっと前へ出ろ。 高木氏は、独り者か。 お一人で、良助さんという中間と暮しておいでで。 わが娘、十九になる、浪人はしておるが、女一通りのことは仕込んであるつもりだ、嫁に取ってくれるなら、支度金として百五十両、もらっておくが…。 それはいい。 高木様がもらわなければ、わたしがもらいます。
高木様、千代田様がやりたいものがある、と申されます。 もう、よそう。 今度は、生き物です。 生き物? 犬か、猿か、豚か。 お嬢さんです、十九の、品のいい、きれいな方で。 浪人はしておるが、女一通りのことは仕込んであるつもりだ、と申されてます。 どうです、おもらいになりませんか。 おう、考えおったな、わしも国許からあれこれ勧められて、気が進まず、断っておったが、千代田氏の娘御なら間違いあるまい。 こっちに来て、磨いてごらんなさい、いい女になりますよ。 いや、磨くのは止めておこう、また小判が出るといかん。
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