古今亭志ん輔の「今戸の狐」本編 ― 2024/11/27 07:11
乾坤坊良斎という物を書く噺家の弟子で、筆の立つ良助という男、どうしても作者だけでは食えない。 当時大看板の可楽師匠の弟子になりたいと出かけた。 ごめん下さい。 おれ、内弟子の乃楽。 師匠、弟子になりたいそうで。 噺家も食えないよ。 覚悟の上で。 内弟子が多いんで、通いでもいいなら…。 食う寝る所はあるのか、親元じゃないんだろう、あきらめた方がいい。 何とかします。 中入りに籤を売る。 明日っから、来な。
良助、中入りの売り子を始めた、金平糖の籤、布袋とか、大きな鯛とかが当たる。 当たったよ! エッ、そんなはずはないですよ。 どれでも好きなものを持って行って下さい。 泣くなよ。 師匠のところで、飯はいい。 橋場に住み、師匠に内緒で、今戸焼の人形をつくる手内職を一生懸命にやる。 狐の人形に色付けをする。 引き窓の下に、掃き出し口があって、そこから見えるお向かいが重さんという荷商いの背負い小間物屋の家、かみさんは千住(コツ=小塚ッ原)の女郎上がりというが、一生懸命に働く。 コツの妻(さい)はいい。 洗濯ものを干す。 両方の引き窓が開いている。 わたしもやらしてもらおう、良助さん、いいことやってんだね、内職。 師匠には内緒で、破門になる。 見ちゃった、私もやりたい。 どうぞ、どうぞ。 両方に卸してもらうことにした。
三笑亭可楽、八丁荒しといわれた人気者、夜、帰って来ると、前座が動き出す。 いろいろな話を聞かせる、弟子たちは半分、早く寝てくれないか、と思う。 それから中入に売った籤の上がりを勘定していた。 やくざの半下が通りかかって、チャラチャラ小銭を数えている音がするのを聞いて、可楽ん家でやってるじゃないか、明日、いたぶってやろう。
師匠に取り次いでもらいたい。 ご用は? お楽しみだね、「狐」じゃないか、できていましょう。 素人だって、やっていて楽しいだろう、顔を出した時、融通してもらえればいい。 何かの勘違いだろう、博打は嫌いだ。 ここで「狐」ができてんのは、よく知ってるんだ。 すると、弟子の乃楽が、出来ているんですよ、橋場の良助がこしらえてる。 あっちへ行ったほうがいい。 のべつ、こしらえてる、暇さえあれば、やってる。
いろは長屋、橋を渡って。 可楽ん所から、来た。 ちょっと待って下さい。 良助さんだね。 「狐」やってるね。 馬鹿なことを、言うんじゃない、師匠は知らない。 乃楽に聞いた。 俺が来た時、ちょっとこしらえてくれればいいんだ。 どのくらいで。 ちょこっと、できたら二十とか、五十とか。 言ってくれれば、どうにでもなる。 どんどん言って下さい。 顔が揃うのかい。 近頃、ずいぶん揃うようになって。 面白くなるだろう。 とっとこ、とっとこ、背に腹は代えられない。 そうかい、そうかい。 顔の大きいのも、小さいのもある。 金張り、銀張りなんてのもある。
見ますか。 多い時は五十とか、百とか。 これが、大きい方、小さい方。 これが、金張り、銀張り。 何だ? 「狐」。 俺が言っているのは、「コツのサイ」だ。 「コツのサイ」なら、お向かいのおかみさんでございます。
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