春風亭一之輔の「館林」 ― 2024/11/28 07:06
お寒い中、お越しいただきまして、見渡すと私より若い方はいらっしゃらない、本日のトリが最後に聴く噺にならないように、お気を付けください。 よみうり大手町ホールでTBS落語研究会、ねじれ現象で、楽屋に産経新聞が置いてあった。 高倉健の展示会、「しあわせの黄色いハンカチ」のポスターに、黄色いハンカチがはためいていて、完全な「ねたバレ」。 結末がわかっていても、経過を楽しむのだろう。 高倉健の映画を観た人が、肩で風を切って映画館を出たというが、学生の頃、立川談志を聴いた人が、肩を下げ、口をまげて、出て来ていた。
職人の憧れは、武士だった。 幕末、「太平の眠りを覚ます上喜撰たった四杯で夜も眠れず」の頃のこと。 ちはーーっ、先生いますか。 八っつあんか。 稽古はどうでもいい、聞きたいことがある。 𠮷公に、道場でヤットーの稽古をしていると言ったら、湯で笑うんだ。 町の道場で、膝や腰の痛い、くたばり損ねの爺いに、習ってどうするんだって。 斬るぞ、誰に向かって言ってるんだ。 吉公は、ムチャシュギョウに出ろ、と。 武者修行だろう。 真剣でないと、腕が上がりませんか。 一理あるが、お前さんは、まだウチにいろ。 弟子が三人、あっしと、大八車で嫁さんが運んでくる、孝右衛門さん九十七に、今年六つの子供だ。
若い頃、上州館林に行った。 盆暮にうどんを送ってくれる、名物のない所の名物は、たいていうどんだ。 館林には、狸で有名な分福茶釜の茂林寺がある。 兎が狸の背負った薪(たきぎ)に火をつける話でしょう。 それは、かちかち山だ。 一軒の造り酒屋があって、人だかりがしている、賊が入って、蔵の中に逃げ込んだって、いうんだ。 手代が斬られたというので、わしは、このあたりの者ではない、武者修行の旅の途中だ、わしが助太刀をしてやろう、というと、御膳が出た。 御膳? おまんまだ。 召し捕ろうという、礼儀だ。 白米、御付に、奈良漬。 わしは、腰のものを脇に置き、刀を持たんで、空の俵(たわら)を投げ込む。 相手が刀を振り上げるところに、ヌーーッと首を出す。 相手がひるんだところで、間を詰めると、捕まえて、投げた。 いいことを教わった、有難うござんす、帰ります。
酒屋の伊勢屋のまわりに、人が集まっている。 喧嘩だ、髭面の年寄侍が、若い侍に議論をふっかけて、決闘いたそうとなった。 爺さんを峰打ちで倒すと、若いのが店の中に飛び込んだ。 伊勢屋の大将は、頭を抱えている。 助太刀――ッ! 助太刀――ッ! どいて、どいてよ! 親父、大変そうだな。 八公かい。 なぁ、俺が助太刀しよう。 ヤットーを稽古しているんだってな、大丈夫か。
いやいや、わしが助太刀してやろう。 わしは、このあたりの者ではない。 真裏に、住んでるんじゃないか。 ムチャシュギョウの旅の途中だ、御膳を持てよ。 飯だよ。 裏の糊屋の婆さんに頼んで、飯を。 御付も、持てよ。 奈良漬はどうした? お新香はない。 奈良漬、買って来て。 この野郎、何やってんだ。 わしは、腰のものを脇に置き…(と、裾をからげる)。 おケツ、出ちゃってるよ。 俵、持って来て。 空の俵を投げ込むんだ。 中に、丸聞こえだよ、大丈夫か。 シーーッ!
ヒャーーッ! 俵を投げ込む。 本当にいるの。 もう一ケ、俵を投げ込む。 ヒョイと、首を出す。 サッ、と斬られた。
首が落ちたぞ。 八っつあんだ。 転がっている首を拾って、「八っつあん、大丈夫か?」 「先生、嘘ばっかり!」
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