春風亭馬久の「猫の怪談」 ― 2024/12/10 07:00
6日は、第678回の落語研究会、春風亭馬久は、「お寒い中」と始めた。 ばきゅうと読むが、来年秋に真打に昇進、馬好(ばこう)になるので、覚えなくてもよい、と。 お弔いの時に、亡くなった仏の胸元に刃物を置くのは、厄除けの意味があるそうで。 猫を飼っていた人の場合、いたずらをするといけないので、預かってもらったり、紐でつないだり、光りものを胸元に置くという。
大家さん。 与太郎、お父っつあんの具合は、どうだ? まあまあで。 食べるか? 食べねえ、面倒くさいらしい。 息をするのも、止めてらあ。 息をしない、亡くなっているんじゃないか、どいてみろ。(顔を見て、拝む) とうとう、亡くなったか、お前の本当のお父っつあんじゃないんだ。 お前が物心つく前に、本当のお父っつあんとおっ母さんが流行り病で死んだんだ。 一人残されたお前を、通りかかったお父っつあんが気の毒だと育ててくれたんだ。 仕事にも、お前を背負って行き、あちこちに頭を下げて回って、生涯かみさんを持たなかった。 与太郎、お父っつあんのことを、生涯忘れるな。
今晩、通夜をしよう。 月番は誰だ? 羅宇屋の吉兵衛さんと、八百屋の彦兵衛さん。 話をして来い。 寺はどこだ? よなか。 谷中だろう。 輪王寺か、一番大きい寺だ。 お前は、馬鹿だけれど、親孝行だ。 寺へ運ぼう。 早桶は? 拾って来た、井戸端で。 印がある、山に三。 山に三はウチの印、菜漬けの樽だ。 終わったら、洗って返すよ。 いいよ、お前にやるよ。
吉兵衛が先棒、与太郎が後棒を担ぎ、大家と三人、上野の伊藤松坂屋から池之端にかかる。 木枯らしが、サアーーッ、サアーーッ、寂しいところだ。 何時だ? さっき八つの鐘が鳴ったから、丑三つ時だ。 吉兵衛が、こんな時間に妙な物を担いでいると怖がるのを、与太郎が、早桶の蓋を開け、後ろから手を伸ばして吉兵衛の首を触ったものだから、早桶を放り出した。 仏様が飛び出した。 大家は、こらあ駄目だ、箍(たが)がゆるんだ。 代わりの早桶、稲荷町まで買いに行ってくる、待っていろ。 吉兵衛は、連れて行って下さい。 与太郎は、一人きりでいいよ、と。 提灯を置いていこうか。 いらない。
お父っつあん、お前、本当に死んだのか。 あたい、一人ぼっちになっちゃった。 半人前だって言われるから、半人ぼっちか。 お父っつあんには、さんざん世話になったから、一生懸命働いて、美味しいものをいっぱい食わせてやろうと思ってたのに。 何か、言えよ。
四、五間先を、黒いものが、サーーッと通った。 仏様が、ピクッ、ピクッと、動き出して、立ち上がった。 ヒッヒッヒッ、と笑うので、与太郎が張り倒した。 お父っつあん、何か言いたいことがあったのか? 仏様は、ピクッ、ピクッと起き上がり、ピョン、ピョンと飛んだ。 案外元気なんだ、と与太郎が、お父っつあんは上手、お父っつあんは上手! と手を打って囃すと、一陣の風とともに、上野の山の方へ飛んで行った。 お父っつあん、夜遊びに行っちゃった。
翌日、根津七軒町の質屋の土蔵の折れ釘に、この仏様がひっかかっていたという、変な猫怪談というお話で。
コメントをどうぞ
※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。
※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。
※投稿には管理者が設定した質問に答える必要があります。