野口米次郎とイサム・ノグチ2025/01/11 07:02

      野口米次郎とイサム・ノグチ<小人閑居日記 2010.12.23.>

友人の宮川幸雄さんに「「イサム・ノグチ」への旅」というエッセイがある(2003年10月『うらら』47号所収)。 ドウス昌代さんの『イサム・ノグチ―宿命の越境者』(2000年)を読んでいない私は、宮川さんの文章で知ったことが、いくつもあった。

宮川さんは、長年をかけ旧東海道を少しずつ歩いて踏破しようとしているが、その途次、藤沢で偶然、野口米次郎の墓を見つける。 JR藤沢駅から遊行寺の方角へ向かった本町四丁目という宿場町の真ん中、本陣跡の近くにある常光寺の境内にあり、碑面には Yone Noguchi とあるだけだそうだ。 野口米次郎は1947(昭和22)年、疎開先の現在の茨城県水海道市豊岡で亡くなった。 享年71歳。 息子イサム・ノグチの、戦後の活躍を見ることは出来なかった。 その死の直前、夫人と子供たちを集め、「アメリカにいるお前たちがまだ会ったことのない兄が、日本に訪ねてきた時には、心から歓迎してやってくれ」と言ったそうである。

ドウス昌代さんの本によれば、として、宮川さんは書く。 野口米次郎が慶應義塾大学文科教授に就任したのは明治39(1906)年、その翌年にノグチ・イサムを母親と共に日本に呼び寄せている。 野口米次郎は帰国後、既に結婚していたので二重生活だった。 ノグチ・イサムは、明治40年から、13歳になる大正8(1919)年まで日本で教育を受けている。 ノグチ・イサムは、父親の籍に入れてもらうこともなく、「父親がいた生活というものは、まったく記憶にない」と言っているそうだ。 そのような変則的な親子関係なのに、二人にはまるで一子相伝のように似た行動様式が見られる(宮川さんは一例に、二人の「インドへの関心」を挙げるのだが、それは略す)。 ノグチ・イサムがコロンビア大学医学部進学課程に在学していた時、客員教授の野口英世から「君にはお父さんと同じ芸術家の血が流れている。休むことなく頑張りなさい。君はきっとすばらしい芸術家になれることだろう」と助言を受けたことに通じるものだという。

映画『レオニー』で、その助言と励ましは、一貫して母レオニーのものだった。 日本の学校でいじめられ登校拒否になったイサムに、家を建てるので、そのプランを練ってみろと、言ったのは母レオニーだ。 イサムは三角の土地に「三角の家」を設計し、富士山がよく見える「丸窓」を母に贈る。 レオニーは13歳のイサムを単身アメリカに送り出す。 第一次世界大戦が勃発して、学校が閉鎖、連絡も取れなくなるが、親切なE・A・ラムリーが父親代わりになってくれ、高校を優秀な成績で出て、名門コロンビア大学の医学部へ進んだ。 妹アイリスを連れて、ニューヨークに戻ったレオニーが、「芸術家」への道を強力に勧めて、上の野口英世の言葉を述べ、マンハッタンの美術学校に入ることになる。

      野口米次郎の詩から<小人閑居日記 2010.12.24.>

 野口米次郎は、どんな詩を書いたのか。 初めに略歴を調べるのに参照した、角川文庫『現代詩人全集』第二巻近代IIから、引いてみる。

 「私は太陽を崇拝する」という詩には、こんな部分がある。
私は女を禮拝する……
恋愛のためでなく、恋愛の追憶のために。
恋愛は枯れるであらうが、追憶は永遠に青い
私は追憶の泉から、春の歓喜を汲むであらう

 「一提案」(部分)
百尺竿頭一歩を進むといふ言葉がありますが、
 詩の妙諦もそこですよ、
    (中略)
私の詩は(かう申すと大袈裟に聞えませうが)
諸君が到着した所から踏みだして、
人間性の傾向と霊の可能に向つて、
一生面を開拓しようとする努力にあります。
諸君の詩は諸君が歩く道程の説明として有益でありませうが、
私の詩は私が建築する新しい世界の報告に止まります。
    (中略)
私も人間として私の存在の原子(エレメント)にかへるといふことを尊重しますが、
それは軈(やが)ては上昇するといふ上に於てのみ是認されます。
詩人が自分の生活と自然の環境を説明するに止まつたならば、
彼は月給で働く一書記に過ぎないではありませんか。

脚注のようなもの。 「百尺竿頭一歩を進む」…すでに工夫を尽くした上にさらに向上の工夫を加える。また、十分に言葉を尽くした後にさらに進めて説く。(『広辞苑』)
 「私の存在の原子(エレメント)にかへる」…偶然、「是にて自分も元素に復して死するを得」という、幸徳秋水が最期に面会した堺枯川に語った言葉が帯にある『朝日新聞の記事にみる 追悼録〔明治〕』(朝日文庫)が、机の上にあった。 その言葉の前段は「自分は死刑の申渡を受けたる後初めて一切の責任を解除されたるが如き心地したり」となっている。

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