蔦重、京伝、京山、南畝、歌麿らが、英一蝶に強い興味 ― 2025/04/07 06:59
池田芙美さんの、「蔦重と「一蝶・其角リバイバル」―京伝・南畝・歌麿」。 まず、蔦重の出版物には英一蝶のモチーフを「再利用」した例が多く見られる。 たとえば山東京伝の代表作『江戸生艶気樺焼(えどうまれうわきのかばやき)』(蔦屋重三郎版、天明5(1785)年)では、主人公・艶二郎の家を悪友たちが訪れる場面の背景には、「英一蝶筆」と書き込まれた閻魔の画中屏風が登場する。 また、同じく京伝の『人心鏡写絵』(蔦屋重三郎版、寛政8(1796)年正月)にも英一蝶の落款のある寿老人が描かれている。 一蝶の狩野派流の画業が蔦重周辺に広く浸透していたことが、この二点の画中屏風によって裏付けられるという。
また、英一蝶はさまざまな画題を創案したと伝えられ、蔦重出版物にはこれらの画題を応用した作品も多い。 一蝶由来の画題に、〈女達磨〉〈朝妻船〉がある。 四方赤良(大田南畝)作、北尾政美(鍬形蕙斎)画『此奴和日本(こいつわにっぽん)』(蔦屋重三郎版、天明4(1784)年)では、日本趣味に傾倒したある中国人宅の室内に一蝶筆の≪女達磨図≫が掛けられている。 歌合わせをもじった滑稽本、山東京伝作・画『絵兄弟』(蔦屋重三郎・鶴屋喜右衛門版、安永6(1794)年)にも、女達磨と「乃」の字の形の比較が載せられている。
昨日、一蝶の代表作《朝妻舟図》に触れたが、〈朝妻船〉とは、琵琶湖東岸の朝妻と大津を結ぶ渡し船に乗り、旅人を慰める遊女を描いたものだ。 上の『絵兄弟』には、この〈朝妻船〉の図も含まれている。 山東京伝作・北尾政演(山東京伝)画の黄表紙『廓中丁字』(鶴屋喜右衛門版、天明4(1784)年)には、主人公が三囲の土手で一蝶にかくまわれる場面があり、「此ときのすがたをゑがきて、あさづま舟といふなり」というこじつけの説明が添えられている。 京伝が〈朝妻船〉を一蝶由来の画題として強く意識していたことを示す貴重な史料だという。
京伝の弟・京山(1769~1858)の編んだ『一蝶流謫考』にも一蝶の伝記や使用した印章、島流しに関する歴史的考証、一蝶が島で描いた作品の縮図などが掲載されている。
その他にも、いろいろな史料から、蔦重、京伝、京山、南畝、歌麿らが、英一蝶という人物に強い興味を示していたことが分かるという。
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