春風亭昇也の「死ぬなら今」 ― 2025/06/01 07:05
昇也は、眼鏡をかけ、薄茶の着物に、こげ茶の羽織、頭もきれいにして、すっきりしている。 今日は咽喉が変で、いつもは鶯が味醂を舐めたような声なのに、と。
吝嗇屋吝嗇兵衛(しわいや・けちべえ)さんが、どっと患いついて、もう長いことはない。 倅に、さんざんな金儲けで、恨みをかっている、地獄の沙汰も金次第というので、身代の五分の一をずた袋に入れて、持たせてくれ、よろしく。 と、言うと、ゴロキュウの往生。 遺言通りの金を、棺に入れた。 地獄の入口、関所に門番の鬼がいるのだが役人仕事で、長い行列が出来ている。 吝嗇兵衛さん、ふらふらと前へ出ると、「前へ出るな!」 今、受付てるのは、一昨年の秋に死んだ者だ。 私は待つのも、待たされるのも、大嫌いで、と、鬼の袂(たもと)に手を入れる。 鬼は、「アッ!」と(恍惚の表情を浮かべる)。 堂々とやるな、せめて菓子折の下でやれ。
それで通されて、赤鬼青鬼、閻魔大王の前へ。 閻魔大王、馬風師に「スターウォーズ」のマズ・カナタ(?)を合わせたような顔。 浄玻璃の鏡で、娑婆での悪事を見ろ、「娘のお花を、吉原へ売ってやる!」 吝嗇兵衛さん、三百両を閻魔大王の袂に投げ込む。 閻魔大王は、「アッ!」と(恍惚の表情を浮かべる)。 悪逆非道ではあるが、極楽行きを命ずる! 吝嗇兵衛さん、他の鬼たちにも、金を配る。
極楽へ行った吝嗇兵衛さん、なるほど地獄の沙汰も金次第だと、四十九日に倅の枕元に現れ、「倅、極楽へ行けるので、地獄の沙汰も金次第は家訓だ」と言い残す。 後に、この二代目吝嗇兵衛も死んで、地獄の入口、関所の門番の鬼の所にやってくる。 長い長い行列の前へ、ふらふらと出ると、今、受付てるのは5年前の暮に死んだ者だという。 こういうことでと、鬼の袂に手を入れる。 鬼は、「アッ!」と(恍惚の表情を浮かべ)、「堂々とやるなと、以前も言ったことがある」と。 閻魔大王の前へ。 二代目吝嗇兵衛、倅さんか、いいからこっちへ来い。 関係者入口から、閻魔の庁へ。 お前の親父には世話になった。 一応、浄玻璃の鏡を見るか。 「長屋の立ち退きの件、面倒だから、風の強い日にそっくり燃やしてしまえ!」 二代目吝嗇兵衛、閻魔大王の袂に五百両投げ込む。 ズドンと重みを感じ、「アッ!」と(恍惚の表情を浮かべ)、「先代は、いい跡取りを残した」。 二代目も、極楽へ。
代々「地獄の沙汰も金次第」の家訓で、閻魔の庁とずぶずぶの癒着関係となった。 閻魔大王始め、赤鬼青鬼、閻魔の庁の連中は、飲む打つ買うびたり、昨日の酒「鬼ころし」が効いたなと、寄席演芸を楽しむ、地獄は血の池袋演芸場で「昇天」、談志、歌丸、円楽、新メンバーの林家木久翁。 十代目吝嗇屋ホールディング会長吝嗇兵衛が死んで、現金でなく、キャッシュカードだけ。 歓迎! 十代目吝嗇屋ホールディング会長の看板。 会長、お待ち申し上げておりました、専用エレベーターで閻魔の庁へどうぞ。 浄玻璃の鏡も8Kになっている、「7&Iの酷い買収、一家離散」。 振り込みもできるの? 入金確認、十代目吝嗇兵衛も、極楽へ。
閻魔の庁は、遊び惚けた鬼ばかり。 投資に手をつける者もいる。 極楽の株の値動きがおかしい、地獄の資金が流入している。 何十年にもわたって、閻魔の庁と吝嗇屋のずぶずぶの癒着関係が明らかになり、極楽の警視庁が閻魔大王以下、閻魔の庁の連中を逮捕した。 地獄が留守になり、死ねば、みんな極楽へ。 皆さん、死ぬなら今でございます。
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