柳家さん喬の「水屋の富」前半2025/06/02 06:59

 本所生れ、子供の頃、吾妻橋の袂でレモン水を売っていた。 50センチほどのガラスの水槽に、黄色い液と、氷を一貫目(3.7キロと言った)と、水(隅田川か公衆便所、どこから汲んできたかわからないけれど)を入れ、まわりに水滴が付いている。 アルミの柄杓で、カランカランとかきまわす、一杯5円、祖父にねだって買ってもらい、アルミのカップで飲む。

 水を買う時代が来るなんて、考えもしなかった。 江戸時代、治水を制する国は、国を制するといって、江戸では神田上水、玉川上水で水を引き、水道橋という地名もあって、飲み水を売って歩いていた。 テリトリーが決まっていて、「水ヤーーッ水、冷っこい、冷っこい」と言って売って歩いた、かどうか知りませんが…。 水屋の清兵衛さん、若い時は一荷、二荷と背負って歩いたが、今は儘ならない。

 清兵衛さん、頼みがある、富札を買ってくれないか。 二枚、余った、一枚買ってくれ、一枚は俺がかぶる。 いくら? 一分。 三富といって、目黒不動、湯島天神、谷中の感応寺に富くじがあった。 千両、湯島天神の富札、清兵衛さん、神様に当たるように願う。

 富の当日。 大勢が詰め掛けている。 死んだ親父が、夢枕に立って、当ると言ったんだ。 お前の親父は、まだ生きているじゃないか。 駄目か。 当たったら、家を一軒建てて、池をつくり酒を入れて、素っ裸で、スルメの足を持って、齧りながら、飲むんだ。 俺は店をつくる、質屋だ。 今行ってる質屋は、遠いんで…。 みんな勝手なことを言っている。

 「おん富、突きまーーす」、小僧の甲高い声で、富が始まる。 十両、三十両、三百両、そして千両、「おん富一番、突きまーーす」。 「鶴の、千、三百、五十ーーーッ…。 (一人の男)(鶴の、)鶴の、(千、)千、(三百、)三百、(五十、)五十、七番だろ。 一番! 何だ! 群衆は波が引くように、バラバラと帰っていく。

 来るのが遅くなった清兵衛さん。 ここだ、松、龍(たつ)は駄目だ、「鶴の、千、三百、五十、一番」か。 当たった人がいるんだろうな。 当たるもんじゃないよな。 惜しいな。 ン、(鶴の、)鶴の、(千、)千、(三百、)三百、(五十、)五十、(一番、)一番。 当たったーーッ! 当たったーーッ! 札を仕舞おう、(と、懐をさぐって)、懐がない! たったーーッ! たったーーッ! 立ったと言って、座っているのか。 この人、一番富に当たったってよ、運のいい奴だ。 腰が抜けてる、みんなでかついでってやろう。

 おめでとうございます。 札を、これへ。 (しかし、なかなか、出せない) 「鶴の、千、三百、五十、一番」。 お役人様、間違いございません。 一年待つと千両、今日お持ちになるなら八百両になります。 今、下さい。 八百、下さい、さあ、さあ。 どうやって、お持ちになりますか。 財布があります。 入らないよ。 裸になっちゃったよ、困るな。 股引の足を結んで、入れるつもりだ。 もともと、お足を入れるもんだからな。 清兵衛さん、一目散で長屋へ帰る。 当たったーーッ! 当たったーーッ! ハハハハハ! 水屋なんて、やってなくて済むわーーッ、有難い。 疲れちゃったな、湯に行こう。 だが、八百両、どうしよう。 柳行李に入れて、ボロ裂をかぶせて、押入れに…。 泥棒が入るから、駄目だ。 神棚に、上げるか。 泥棒が入るから、駄目だ。 水瓶はどうだ。 泥棒が入って、押入れや神棚を探って、喉が渇いて、水を飲む、駄目だ。 そうだ、床下がいい。 畳を上げて、根太をはがし、縁の下に五寸釘を打ち込んで、下げた。 湯に行って来よう。 湯から帰ると、竹竿を振って縁の下を確かめて、酒を飲んで寝た。

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

※投稿には管理者が設定した質問に答える必要があります。

名前:
メールアドレス:
URL:
次の質問に答えてください:
「等々力」を漢字一字で書いて下さい?

コメント:

トラックバック