自分で出来立てを作る、餡と最中の皮のセット2023/03/24 06:57

 自由が丘の蜂の家で「おはぎ」を買った時、少し並んでいたので、いつもと違う店の中に回り、偶然、「あん場のつまみぐい」という壜と、最中の皮のセットになったのを見かけた。 壜の中は粒餡(あん)で、どうやら「あん場」は餡場、餡をつくるところで、作っている最中に、つまみぐいしたくなるほど、美味しいということらしい。 昨年秋の朝ドラ『カムカムエブリバディ』では、岡山の和菓子屋に育った主人公安子が、子供の頃から「おいしくなーれ、おいしくなーれ」と、心をこめた呪文を唱えながら餡こを炊いてゆくのを見てきたことが、物語の中心に流れていた。

 下戸で、甘いものには目がない方なので、餡と最中の皮を別々にしてセットで売っていて、自分で食べる時に最中にすると、出来立てでパリパリして美味しいことは知っていた。 鶴屋八幡の百楽にも、塩瀬総本家の袖ケ浦最中にもある。 袖ケ浦最中は、九代目市川團十郎の考案・命名によるので、一名團十郎最中ともいうらしい。 それで「あん場のつまみぐい」を買ってきたのだが、蜂の家の粒餡はなるほど美味しいけれど、最中の皮が繭の形で小さくて割れやすく、感心しなかった。 もっとも、餡はトーストやお餅に合わせても美味しいと、説明があったが…。

 餡と最中の皮のセット、私のお勧めは、塩瀬総本家の袖ケ浦最中である。

春の彼岸は「牡丹餅」で、「御萩」は秋か?2023/03/23 07:01

 お彼岸なので、自由が丘の蜂の家で「おはぎ」を買ってきた。 先日、テレビで、「おはぎ」は「お萩」だから秋の彼岸、春の彼岸のものは牡丹の「ぼたもち」と言わねばならない、と言っていた。 でも「ぼたもち」というと、何かぼってりした大きめの感じがしていた。

 そこで、『広辞苑』を引いてみる。 「おはぎ【御萩】「はぎのもち」の別称。」 「ぼたもち【牡丹餅】(1)(赤小豆餡をまぶしたところが牡丹の花に似るからいう)「はぎのもち」に同じ。(2)女の顔の円く大きく醜いもの。(3)円くて大きなもののたとえ。」

そこで、「はぎのもち【萩の餅】」も、見てみよう。 「糯米(もちごめ)や粳米(うるちまい)などを炊き、軽くついて小さく丸め、餡(あん)・黄粉(きなこ)・胡麻などをつけた餅。煮た小豆を粒のまま散らしかけたのが、萩の花の咲きみだれるさまに似るのでいう。また牡丹に似るから牡丹餅(ぼたもち)ともいう。おはぎ。はぎのはな。きたまど。隣知らず。萩の強飯(こわいい)。」 季節についての言及はなかった。

ついでに、「きたまど【北窓】(1)北側の窓。(2)(北窓の「つき(月)入らず」を「つき(搗)入らず」にかけた意という)萩の餅の異称。」

さらに、「隣知らず」は「となりしらず【隣知らず】(1)牡丹餅の異称。(嬉遊笑覧)(2)手軽に婚礼をととのえること。(俚言集覧)」

 俳句では、「彼岸」を「春分の日を「お中日」とした前後三日ずつの七日間」といい、秋分の日を中心とした秋のそれは「秋彼岸」または「後の彼岸」という。 歳時記をざっと見たところ、「牡丹餅」や「御萩」は見つからない。 『ホトトギス 新歳時記』に「彼岸詣」という季題があり、傍題として家々では「彼岸団子」を作る、とある。 『合本 新歳時記』(角川書店)では、「彼岸会」の傍題に「彼岸団子」「彼岸餅」があり、<彼岸牡丹餅木曽義仲の墓前かな 下田 稔><海に出づ彼岸の餅を平らげて 中 拓夫>という例句があった。

「酒呑みだけが名を留める」李白の詩2023/01/26 07:06

 二木屋の欄間に、李太白の詩の額があった。 木堂とあるから、犬養木堂、犬養毅の書だろう。 創業者の小林玖仁男の祖父で、昭和10年建築のこの軍人の屋敷を買ったという小林英三(明治25(1892)年~昭和47(1972)年)という人が、保守大合同した自由民主党最初の鳩山一郎内閣の厚生大臣だったというから、その縁での犬養毅の書だろう。 小林家は、先祖が毛利家の家老で、尾道で商人になり林を屋号にしていたので、林を二つにわけての二木屋なのだそうだ。

李太白の詩は、「古来聖賢皆寂寞 惟有飲者留其名」。 ネットで検索すると、「将進酒」酒をお勧めする、という詩の一節。 古来(こらい)聖賢(せいけん)皆寂寞(みなせきばく)、惟(た)だ飲者(いんじゃ)のみ其(その)名を留(とど)むる有り。 昔から聖路や賢人は幾人もいたが、死んでしまえばそれまでだ。ただ酒呑みだけが、その名を留めている。 酒を飲めないので、二木屋の日本料理のような美味しいものに出合う機会が少ない。 酒を飲めないために、どれだけの交遊や愉快な時間を逃してきたかと思うことがある。

正月事納め8日の「天声人語」、「ソバーキュリアス」というカタカナ言葉にハッとさせられた、と。 「直訳すれば、しらふの好奇心。あえてお酒を飲まないことで得られる気づきといった意味か▼作家の桜井鈴茂(すずも)さん(54)がそんな断酒の生き方を始めたのは3年前。ひどい二日酔いがきっかけだった。すぐに気づいたのは「1日の時間が長く感じられるようになりました。頭がすっきりし、夜には読書もできる」」 和製英語なのだろう、curiousは形容詞だから、名詞にすれば sober-curiosityか、sober-curiousnessとなるのかな。

そういえば、「われわれが酒を飲んでいる間に、馬場さんは本を読んでいるんだろう」と、ずいぶん買いかぶってくれた方がいた。 実態は、居眠りをしながらテレビの巨人戦を見ているのであるが…。

「天声人語」は、「確かに人類の歴史はお酒との歩みにほかならない。」として、晋代の陶淵明の〈夕(ゆうべ)として飲まざるなし〉、李白の名詩〈一杯一杯また一杯〉〈一飲三百杯〉を引き、「もしも偉大な詩人たちが晩年に禁酒していたなら、どんな詩を残していただろう」、「飲むか。飲まないか。人間らしい悩みのなかに新たな気づきをみつけたい。」と締めた。

「和食」日本料理、ピンからキリまで2023/01/25 07:03

 二木屋、よく取れましたねという、知る人ぞ知るという店だそうで、薪能もやるらしい庭のある「大正ロマン漂う」日本国登録有形文化財「小林邸」の建物に靴を脱いで上がる。 幸い三人ずつのテーブル席、正面床の間には正月らしい紅白の餅花飾りがしてあって、「昔の家で、昔の飾りを楽しむ「室礼(しつらい)」」と謳う。 三田あるこう会は、ほぼ日曜日開催なのだが、1月2月は福沢先生の誕生日と命日の関係で平日になる。 先生誕生日翌日の11日は、水曜日で、本格的日本料理の「好百々(こもも)」という割安な平日限定ランチコースの機会に恵まれた。 店のメインは、「のざき牛」「鹿児島牛」のステーキを油や調味料無しで焼き、岩塩や山葵醤油で食すものらしいが…。

 そこで「好百々」、令和五年初月のお品書きがテーブルに置いてあった。 コメディアンとは二字違いの、伊藤四郎料理長。 箸付・小鉢・前菜・お椀・造里・煮物・強肴・お食事・甘味と九品、それをいちいち人手をかけて給仕してくれる。 一度に出すようなことはしない。 箸付・鮟肝寄せ ポン酢 小鉢・牛肉と牛蒡のきんぴら。 註に「【曾祖母のレシピ】この料理は、二木屋創業者・小林玖仁男の曾祖母で料理研究家であった小林カツ子(文久二年(1862)~昭和十年(1935))の約百二十年前のレシピを再現しました。」とある。 前菜・数の子 姫皮蟹煮凍り 鰆柚庵焼サーモン小袖寿司 大根人参ピーナッツ和え。 「鰆」は「さわら」だと読めたが、今、これを書いていて、「姫皮蟹」が分らず、ネットを検索したら、二木屋の「好百々」献立が出てきたので、あとはそれをご覧いただくとしよう。 「姫皮」は、たけのこの先端の皮の内側にある白くて柔らかい部分だそうだ。 「好百々」のデザート、甘味・安納芋羊羹 五家宝。 となっていたが、当日は1月11日の鏡開きだったので、安納芋羊羹の代りに、お餅入りのお汁粉になっていたのも、心くばりが感じられた。 全体に、手間をかけて調理されているのがわかって、美味しかった。

 別の日に、ある甘味屋(脱サラのような店ではない)で○○膳というランチを食した。 小ぶりの寿司、天ぷら、蕎麦、茶碗蒸、小皿の煮物。 素人にも、茶碗蒸など、きちんと出汁を取っているのか、板前がいるのかと思われるほどの味だった。 ユネスコ無形文化遺産の「和食」、日本料理にも、ピンからキリまであることが、歴然とわかった。

女性職人の大館曲げわっぱ工房E08(いーわっぱ)2022/09/04 07:18

 9月1日、騒がしい中井貴一ナレーションの『サラメシ』で、大館の曲げわっぱ女性職人の昼メシを見た。 「秋田音頭」の「能代しゅんけい檜山納豆大館曲げ輪ッパーー」の、大館の曲げわっぱである。 仲澤恵梨さん(39)、中学生の時から持っていた曲げわっぱの物入れに魅せられ、秋田職業能力開発短期大学校で建築を学んで、2002年柴田慶信商店に入った。 曲げわっぱ職人の伝統の技を受け継ぐ研鑽を重ね、2016年女性は2人だけという曲げわっぱ伝統工芸士になった。 2021年、自分のやりたいことをやりたいと、独立を決意して、師匠や仲間の励ましも受け、2022年大館曲げわっぱ工房E08(いーわっぱ)を立ち上げた。 伝統的な弁当箱などの容器(アイスペールもある)に加えて、小物やイヤリングなどのアクセサリーも作っている。 独立しての曲げわっぱづくりは、分業でなく何から何まで自分でやるのが楽しい、という。 しかし経理から営業まで、全部やらなければならないので大変、パソコンの前でふるさと返礼品への応募のフォームを叩いていた。

 曲げわっぱは、樹齢150年以上の天然秋田杉のみを使い、皮を削って、白木の柾目のところを選ぶ。 塗装は付けない。 長期に乾燥させた材料を、湯で80度に熱し、熱い内に折り曲げて、接着する。 初めのうちは火傷したが、次第に手の皮が厚くなったという。 装飾にもなる、合わせ目をつなぐ部分に、よくやると言われるほど手を掛ける。

 曲げわっぱの弁当箱は、杉の香りも楽しめる。 ちょっと濡らしてから、ご飯やお菜をつめる。  冷やしても、ご飯がふっくらとして、美味しい。 ただし、カレーはだめ、香りと色が残るので…。

 私は、曲げわっぱの弁当箱をいいなと思っていて、柴田慶信商店が浅草に店を出しているのを、知っていた。