古今亭菊之丞の「ふぐ鍋」2025/12/01 07:12

 笑っちゃいけない場所がある。 お弔いやお通夜。 高橋源一郎先生のお母さんが亡くなって、森進一さんをかけてくれといわれていたという。 「お袋さん」が流れてくると、みんなゲラゲラ笑った。 兄弟子のお母さんは音楽葬、昭和歌謡の「お富さん」が流されて、「♪死んだはずだよ、お富さん」、みんなゲラゲラ笑った。

 刑務所も笑っちゃいけない。 師匠が頼まれて役を務めていたので、府中の刑務所へ慰問に行く。 刑務官が車でお迎えに来るのだが、鉄格子のはまった車。 所内も車で行く、ゲートが二つ、サファリパークと同じ。 所長が挨拶して、目礼! 休憩! 菊之丞さん、どうぞ。 ここの客は、途中で帰る心配がない。 35年前、浅草の演芸ホールの前で、声をかけられた、「師匠、府中で一緒だったじゃない」と。

 太鼓持ち、幇間は、今、浅草見番に6人しかいない。 朝から寝るまで気が抜けない、一対一で、けして逆らわない。 一八、よく晴れたな。 雲一つありません。 二つあるよ。 二つありますね。 マグロ、美味いけれど、筋があったな。 美味いけれど、筋がありました。 女将の着物、紫だったな。 紫でした。 俺は、善公が嫌いだ。 私も善さんが嫌いで。 でも、いいところがある。 実は、親友でして。 通信簿に、主体性に欠けるが、協調性はある、と書かれていた。

 無理難題を言われる。 眉毛半分買おう。 冬に、庭の池に飛び込め、着物を着たまま。 善兵衛師匠が、着物を着たまま庭の池に飛び込んだら、下着から何から着物一式、誂えてあったという。

 噺家になってから、初めてだったのが、店で食べる焼肉。 それから、もんじゃ焼き。 山手の人間なので、平成3年7月1日、前座になった日、初めて、もんじゃ焼きを食べた。 焼き方がわからず、林家たい平兄さんが、焼いてくれた。 ふぐも、姉弟子の真打披露で初めて食べた。 ふぐは、瀬戸内で「名古屋」という、身の終わり(美濃尾張)。 島原で「トウガンバ」、棺桶のことだ、殿様が禁止したが、隠れて食う、隠れるのが得意な土地柄。

 一八、温泉巡りをしてきたんだってな。 橋本の旦那のお供で、箱根、別府、登別、有馬と回って、土産を持って来ました。 一杯やっていかないか。 奥様、お変わりなくて、けっこうで。 着ている着物も帯も。 猫ちゃんじゃございませんか、お元気で。

 トットットット、コケッコウ! 旦那は、手酌ですか。 辛口の酒ですな、トットットット、コケッコウ! 塩辛、やらないか。 これですよ。 隠し味は柚子。 まことに結構で。 鍋が煮えているようですが、何の鍋で? いいから、お前がやりなさい。 これ、何? 食べればわかる、魚だ。 トトちゃんですか。 ふぐだ。 ふぐはいけません、ふぐ死ぬ。 時期、今が旬だよ。 倅に孫が産まれるんで、産まれたら食う、今はよしましょう。 俺だって、気持悪い、胸騒ぎがする。 この年になってやったことがない。 誰か見えたら、食べてもらって、それから食べたいと思ってね。 やんなさい、美味いらしい、滋養がつく、正月などにいい、体が温ったまるそうだ。

 裏が騒がしい。 いつもの御薦(おこも)さんが来て、お余り、お余りをって、言っていますが。 それに食わせて、何でもないようだったら、食おうじゃないか。 このあたりを、大盛にして。 行って参りました。 これは温ったまると言って、壁にもたれて、居眠りをしていますが。

 いいから食べなさい、お前が先に。 旦那が先に。  野菜だけ取るな。 一、二、三(ひの、ふの、み)で、同時に食べよう。 一、二、三、何で食べない。 一、二、三、冷めちゃうよ。 一、二、三、ゆっくり食べる。 これ、美味いものだ。 ハフハフハフ! 美味い! 美味い! 俺は葱っ食いなんだ。 ウッ、ウッ! 葱鉄砲が飛び出した。 残りも雑炊にして、全部食べる。 美味かったな。 また、やろうじゃないか。

 裏口が騒がしい。 御薦さんが来て、お余りを、お余りをって、土間に坐り込んで、動かないんで。 後日、来るように。 先ほどの魚は、どうなさいましたか。 すっかり食べてしまったよ。 お身体は、何ともございませんか。 当り前だ。 じゃあ、安心して、私もあとでゆっくり頂戴することにいたします。

柳家さん喬の「意地くらべ」前半2025/12/02 07:10

 あっという間に秋が冬、夏と冬だけになったのか、洋服は二種類あればいい。 炬燵、今はない、部屋全体を暖める。 楽屋には火鉢、周りが熱くなる。 チャルメラの音も懐かしい。 冬場は銭湯が楽しみだった。 ぬくもりがあり、石鹸で滑ったのを、支えてくれた手に彫り物があった、弁天小僧の。 朝湯は熱い、ツンツンする。 おーい、こっちへ来いよ、どうだ、湯の具合は。 ぬるいな、入れねえ。 お前、先に入れよ。 ぬるいの駄目なんだ。 一緒に入るか。 ウワーーッ、ぬるいな、食いついて来る。 ぬるいから、動くな。 こっち向くな。 息、するな。 江戸っ子は強情だ。 悪強情、よくない。 あれ、何? 黒いの。 黒豆だよ。 動いたよ、やっぱり…。 動いても黒豆だ。

 旦那、ウンと言って下さい。 八っつあん、出来ねえこともある。 旦那なら出来る、旦那しか出来ない。 ウン。 金、貸してくれねえか。 いくらくらい貸すんだ。 五十円。 それは駄目だ、三円、五円なら。 ないよ、そんなものは。 大金だよ、おいそれとは貸せない。 決めたんだ。 手妻じゃねえ、駄目だ。 五十円ないと、男が立たない。 貸してくれなきゃあ、二日でも三日でも居座って、寝っ転がっている。 お巡りさんを連れて来る。

 何で、五十円いるんだ? 実は、このところ仕事がうまくいってない。 可愛がってくれているご隠居が用立ててくれた。 楽になった時、返してくれって。 恩金だ、一と月の内に返そうと決めた。 それで、旦那のところへ来た。 自分に自分で嘘つくの嫌なんだ。 五十円、何とかならないか。 ハハハハハ、偉いな、見直した。 家にはないが、心当たりがある、待ってろ。

 待たしたな、何とか五十円出来た。 その隠居に返しな、喜ぶだろう。 胸のつかえが下りたようだ。 帰りに寄りなよ、茶の仕度をしておくから。 下駄屋の旦那、強情っ張りだ、少しは直した方がいい。 向うが折れてくる。

 こんちは、おばさん。 八五郎さんが、来ましたよ。 久しぶりだな、どうだ、ここんとこ、うまいこと行っているか。 これ、長いこと、有難うございました。 何それ、お前さんに貸した五十円かい。 楽になったら返してくれって言ってるんだよ。 お前が楽になったとは、思えない。 図星、にっちもさっちも行かなかったら、下駄屋の旦那が、あちこち行って工面してくれた。 受け取らない、持って帰んな。 わからねえ奴だな、帰れ! 帰れ! 倅、木刀持って来い。 わかりましたよ。 頭、ぶっ叩くって、乱暴な。

 こんちは、旦那。 八さん、どうした、行って来たか、喜んだか? 喜ばないんですよ、他人から借りた金なんて受け取れねえって、木刀振り回して。 どうぞ、お納めを。 受け取らないよ。 冗談じゃない、気持にほだされて、あちこち下げた頭、どうしてくれるんだ。 八っつあん、他人から借りたって言わねえで、無尽に当たったとか言えばいい。 店賃が滞っているのに、無尽なんて、冗談じゃない、それ駄目、嘘つけない、五十円お納め下さい。 困る、行かないか、マサカリがあるだろう、薙刀持って来い。

柳家さん喬の「意地くらべ」後半2025/12/03 07:18

 こんちは。 八さんじゃないか。 さっきは大きな声を出して…、堪忍しておくれ、倅にも叱られた。 お茶を淹れるから、こっちへおいで。 また、持って来やがったのか。 借りた銭じゃないんで、無尽に当たったんで。 どこの? いくら? とにかく、滞った店賃をみんな払って、酒屋、米屋、八百屋の借金も払った。 ちきしょう! 聞いて下さいよ、五十円借りてよかったんで、一と月で返そうと決めた。 下駄屋の旦那のところへ行って、腹に決めたんだ、返せなかったら、自分で自分に嘘をつくことになる。 受け取って、下せえ。 お前、自分で自分に嘘をつくんで返すってのか、偉え。 それならそうと、早く言え。 江戸っ子だ、男だよ。 だが今日は、受け取らない。 一と月だろう、貸したのは一日、今日は晦日だ、明日の昼、持って来い。 そうはいかない。 偉えから、明日にしろ、そう、言ってんだ。

 一日待ちます。 明日の昼まで、ここにいる。 私は座ってる。 面白いな。 わかった、私も昼まで座ってる。 強情だね。 強情だ。 畳の隅から、こっちへ寄こすな。 互いに強情でなにより、明日の昼まで一杯やって、すき焼きでもやろう。 肉は、食わず嫌いで。 美味しい肉を食わせたい。 倅、肉屋へ行って、肉を買ってきてやれ。 江戸っ子だ。

 鍋の支度をして、酒をどんどんおやり。 明日の昼までだが、倅、手間がかかるな。 おかしいな。 倅は気が短い、様子を見て来る。

 あれ、あんな所に突っ立っている。 肉を買おうと思ったら、前に立ったこの人がどいてくれない。 二人で、ずっと睨み合っている。 倅さんかい、強情だね。 汽車に乗ろうと、駅へ行こうと思ってた。 二時間前に出たんだ。 いいか、負けるんじゃないぞ。 八っつあん、置いてきた。 いいよ、肉を買いに行って来な、その代わり、俺がずっと立っているから。

春風亭一朝の「魂の入替」2025/12/04 07:16

 噺家は暢気な商売で。 この噺、やり手がない。 どうしてやるか、研究会だから。 魂があると信じられていた。 「魂魄この世にとどまりて 恨み晴らさで置くべきか」と『四谷怪談』。 仏教の教えにもある。 亡くなると、天に昇るということがあるんだろう、などという。 驚ろいたことをいう、「たまげる」は、魂が消える、と書く。

 魂は、人間の寝ている間に、外を散歩する。 この頃、不精になっていけないというので、魂協会が外を散歩する協定を結んだ。 寝ている人を、急に起こすな、と言う。 魂が、慌てて戻ると、戸袋の釘に引っ掛かって、戻れなかったりして、目を覚まさない。

 どうかしら、もっと飲まないかね。 もう、十分頂戴しました、顔が赤くならないたちでして。 今晩、泊まってもいいよ。 家内は里に行っていて、私と山田の二人だから。 先生の前ですが、わしは鳶頭(かしら)、火事が起きたら、若い者が迎えに来る。 そうですが、今晩、ご厄介になりますか。 奥の八畳に布団を敷いて、ガーーッと寝た。

 魂が散歩に出た。 鳶頭の魂と、先生の魂。 今晩はご馳走になりました。 わしは飲み足らん、どうだ吉原(なか)へ繰り込まんか。 吉原、お供しましょうか。 ワッと陽気に騒いでいると、下界が火事で、騒がしい。 オッ、あっしの町内だ、先に帰えります。 ところが、トチリ先生が入れ歯を外して、大口を開けて寝ていたもんだから、その顔を覗いていて、とんとんと先生の体に入ってしまった。 後から来た、先生の魂は、鳶頭の体に入ってしまった。

 こんばんは! 開けて下さい! 若い衆が来た。 山田さんですか、鳶頭に顔を出してもらいたい。 呼んで来ます。 鳶頭、起きてくれ。 うん、いい心持だ。 山田ではないか、いかがした? 町内が火事です。 そんなことだから、お前は埒(らち)が明かない。 鳶頭、寝惚けた。 先生を起こしに、行って来い。 エッ! いい心持なのに、山田さんじゃないか、何です? 火事だ。 ちきしょう、おっかあ、刺し子を持って来い。 二人の目の色が違います。

 医者を呼んで来る。 魂が、入れ替わった、急に起こしたためだ。 どうもおかしいと思った。 治りますか? 眠り薬を飲まして、頃合いを見計らって、起こせば、治ります。 鳶頭の魂、粗忽でいかん。 先生を覗いた、とたんに吸い込まれた。 先生の体の中はきれい、めったなものは飲み食いしない。 医者が来てから、身体がだるい、眠り薬の量が多すぎたのが効いてきた。 だるい、だるい。 下へ下がって、地面すれすれを行く。 落っこって、そこへ寝てしまった。

 そこへ浅草奥山の若い衆が通りかかった。 「目が三つ、歯が二枚」と、鼻緒の抜けた下駄を放り出しておくような見世物小屋、新しいネタ探し中だった。 何だ、白くてブヨブヨ、グーーッと、言っている。 やったー、魂じゃないか。 持って帰って、ギヤマンの箱に入れて見世物にしよう、と風呂敷に包む。

 先生を起こしても、鳶頭を起こしても、起きません。 強く起こしても、起きない。 先生は、グーーッ! 鳶頭は、グーーッ、エヘヘ! 困りましたな。 眠り薬が魂にまで効いて、道に落っこって、犬に食われたら、医学ではどうにもならん、ごめんよ。

 山田さん、苦しい時の神頼みです。 祈祷師を呼んで、「妙法蓮華経、妙法蓮華経、どうぞ、二人の魂を戻らせ給え」。 奥山の若い衆、知らない道、知らない道へと入り込んで、先生の家の前へやってきた。 祈祷師の声が聞こえる。 アッ、そうか、この家のか、魂は。 しょうことないな、こちとら江戸っ子だ、そっちへ帰してやろう。 魂は、丸窓へ飛んで行って、下へスーーッと落ちた。 井戸の中へ、ドブーーン! 「ドンツク、ドンドン、ツクツク! どうぞ、二人の魂を戻らせ給え」。 魂が、ドンプク、ドンドン、プクプク!

三遊亭萬橘の「藪入り」前半2025/12/05 07:08

 どうもありがとうございます。 もう、あと一席、すぐ終わります、ちょっとの間、辛抱してください。 (客席を見廻して)ぜひ受けたいという気持で、空席があるかどうか見る。 受ける日もあれば、受けない日もある。 この景色を見て、受けない気がする。 悪意はない、楽しんで帰ってもらいたい、お互いに楽しい、研究になっていなくても。 共感力がないんですか? 受けないと、心が死にます。 帰りの電車の中でも、死んだまんま。 家に帰って、家族といても、うとまれる。 すべった後は、食べ物を挟んで、口に運ぶだけ。 ミニトマトを食べたら、こっちに座っていた娘が、「お父さん、下手!」。 心は二度死ぬんだ。 娘は育って、恐ろしいことになってくる。

 家族でスカイツリーの水族館へ行った。 小さくて、大したことのない水族館を、一回り。 「お弁当買って帰るのは、どうでございましょう」、と提案した。 かみさんが、「いいんじゃない」と言ったので、楽になった。 中華、天ぷら、和食などのエリアがある。 小6の娘が、一直線で、刺身の前へ行った。 今までどんな気持で水族館にいたのか。 一番高いのを、娘は選ぶ。 かんぴょうやキュウリでなく。 今日一日の尊敬の言葉を浴びたい、お金払って。 一番高いのを買ってもらって、有難うと言わせたい。 二階の倅の部屋にゴキブリが出た。 受験生なのに、寝られない。 ゴキブリスプレーを持ち、ベッドの下まで潜って、やっつけた。 かみさんが娘に、「お父さん、汚れているから」と言ったら、コロコロで躊躇なく、私の顔をベリベリとやった。

 おい、おっかあ。 何だい。 今、何時だ? 12時少し回ったところ。 明日帰って来るんだ、亀が…、三年勤め上げた。 三年ぶりだ、勤め上げて。 隣の長吉には出来ないことだ。 当り前だ、生まれてまだ二日だよ。 俺に似ているんだ、大したもんだ。 大吉と中吉と、どっちがえらい。 新吉ってのはないな、裏の息子だ。 今、何時だ? まだ1時ですよ。 ゆんべの今頃は、もう夜が明けていた。 あいつが奉公したのは吉兵衛さんのおかげだ。 挨拶に行かなきゃな。 赤坂の伯父さん、品川の伯母さんのところにも。 亀ちゃんに海を見せたほうがいい。 出世前だもの、鎌倉、富士山、三島で鰻食う、博多から韓国へ。 そんなに、行けないよ。 ちゃんとお土産買って来るから。 寝ておくれ、着物を繕ってるんだから、古着。 食いもんだな、好きな物ばかり用意するんだ、納豆、鰻中串を三本、マグロ中トロ、お稲荷さん、ライスカレー……、お汁粉、上からかけさせてやれ。 残飯だよ。 今、何時だ? 2時半だよ。 大したもんだよ、三年勤め上げて。 帰ろうとすると、キツネ面した質の悪い番頭がいて、用事を言いつけたりするんだ。 子供らしさ、なくすと困るな。 あいつだから、やっていけると思う。 寝なさいよ。 静かにしろ、♪静かな、静かな、里の秋……。 うるさいね。 勝負するか。 帰って来て、どっちの首っ玉に飛びついて来るか。

 今、何時だ? 白々明けてきたよ。 箒はどこにあるんだ。 どうすんの。 表を掃いておくんだ。 角を曲がって、帰って来るんだ。 いたずらしてやろうか。 どちら様で? って言って。 家の中にほこり掃きこまないでおくれよ。

 みんな並んで、何があったんだ? 珍しい、熊さんが家の前を掃いているんだ。 今日は何? 亀ちゃんが帰って来る日だ。 はしゃいでいるんか。 熊さん、お早う、いい天気だね。 下々の者とは、付き合わねえ。 亀ちゃんが帰って来るんだって。 まだ、帰ってねえ。 うろうろしてると、箒で打つぞ。 冗談じゃない。 (おかみさんが)お怪我はございませんか。 大丈夫だ。 お前さんは、奥で煙草でも喫ってればいいんだよ。 亀んところへ、なかなか帰さない、キツネ面の番頭を張り倒しに行くか。