『アメリカ史とレイシズム』<等々力短信 第1197号 2025(令和7).11.25.>2025/11/25 07:09

 岩波新書の広告に、家内の従弟の名前を見つけた。 中條献(ちゅうじょう けん)著『アメリカ史とレイシズム』を手にした。 桜美林大学リベラルアーツ学群教授、1955年生まれ、一橋大学社会学部卒、デューク大学歴史学部Ph.D.,歴史学、アメリカ史に関する著書が多数ある。 アメリカには興味があるので、難しい本を何とか読む。

 ふつうアメリカ合衆国の「起源」は1776年7月4日、本国イギリスとの戦争中に北米大陸の13の植民地が発した独立宣言である。 一方で、イギリスで宗教的迫害を受けた清教徒を含む102人の植民者が、メイフラワー号で大西洋を渡り、現在のマサチューセッツ州に上陸した1620年、さらには現在のヴァージニア州に初めての恒久的なイギリス領植民地が建設された1607年も、アメリカ史教育の必須項目である。

 この正統的な歴史解釈に対して、2019年8月、毎日曜日発行の『ニューヨーク・タイムズ・マガジン』は「1619年プロジェクト」という企画を始め、北米大陸のイギリス領植民地にアフリカからの「奴隷が初めて陸揚げされた」1619年を、アメリカ合衆国の歴史的起源として国家全体の歴史を語り直すことを提言した。 企画の中心は、ハナ=ジョーンズやジェイク・シルバースティン。 奴隷制度がもたらした影響と、アフリカ系アメリカ人の貢献を、国の歴史物語の核心として真正面から見据える。 合衆国の発展のみならず、国家としての暴力性、社会的不平等の存在、社会生活や文化と思想の特性などを含めて、それが奴隷制度とレイシズムから生じた結果だと主張している。

 「レイシズム」は日本語で人種差別主義と訳される。 「人種」という人間を分類する概念は、15世紀後半、コロンブスに続いてヨーロッパ人が大西洋を横断して、後に「アメリカ」と名付ける大陸を侵略し、そこからヨーロッパの植民地主義が世界規模で広がっていく過程で生み出された。 ヨーロッパ諸国が南北アメリカ大陸で先住の人々を排除したうえで、植民者としてその地に移り住み、後にはアフリカ大陸から強制連行した奴隷の労働を利用して植民地で大きな利潤を獲得する。 この究極の抑圧、差別、不平等を特徴とする社会の構造のなかから、「白人(white)/黒人(black)/先住民(red)」という分類が「人種(race)」という言葉とともに、社会に浸透していった。

 「レイシズム」は、時代と社会の状況に応じて人間が創り出す差別と抑圧の制度であり、そこには土地の奪取や労働力の強制的調達という具体的な意図と目的があるのだ。 この本は、アメリカ史において「人種」を通して機能する制度としての「レイシズム」が、19世紀までの奴隷制度、20世紀転換期からのジム・クロウ制度、その後のゲトー、ハイパー・ゲトーと、時代状況によって形を変えていくのを詳述していく。

コメント

_ 轟亭 ― 2025/11/25 08:10

このプロジェクトに、いわゆる「保守派」は強い反発を示した。 発表当初からプロジェクトを非難していたトランプ大統領は2020年11月、大統領選挙前日に大統領令を発して、「愛国的な教育」を進めるための「1776年委員会」を設置、同委員会はトランプ退任の2日前に、自由と平等の拡大と進歩の歴史を強調する「1776年報告」を発表した。 バイデン新大統領は、就任当日に大統領令によって委員会それ自体を解散した。

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