『折々のことば』と閑居日記・短信2018/09/25 07:08

 鷲田清一さんの『折々のことば』だが、切り抜いた中には、最近、この<小 人閑居日記>や「等々力短信」に書いたものに関連した、こんなものもあった。 

○9月7日からの<小人閑居日記>、末盛千枝子さんの『波』連載「根っこと 翼・皇后美智子さまに見る喜びの源」。

 1211「読書は、人生の全てが、決して単純でないことを教えてくれました。 私たちは、複雑さに耐えて生きていかなければならないということ。  皇后 美智子さま『橋をかける』から」

○三田完著『歌は季につれ』<等々力短信 第1045号 2013.3.25.>

 618「上野発の夜行列車 おりたときから 青森駅は雪の中  (六・六の 「弾けた調子」の後に七・七・五) 三木たかし・曲(先) 阿久悠・詞(後)  石川さゆり「津軽海峡・冬景色」」

○乙川優三郎著『脊梁山脈』<等々力短信 第1056号 2014.2.25.>

 532「味わいすぎた哀しみに寄り添ってくれる実直な人より、険しい未来へ 押し出してくれる人がよいということだろうか。  乙川優三郎 『脊梁山脈』 から」

○『下山の時代を生きる』<等々力短信 第1108号 2018.6.25.>

 1149「技術ってやつも坂道と同じに上るだけではなしに、下ることもできな くては   装幀家 菊地信義」

○落語研究会・第600回 満50年<等々力短信 第1109号 2018.7.25.>

 1170「「なんでもいい」。でも、「どうでもよくは、ないんだよ」  五街道 雲助」

○犬養毅、「話せばわかる」時代だったか<等々力短信 第1110号 2018.8.25.>

 1206「家事は、あなたと家族が快適に暮らしていくための手段であって、け っしてあなたの生涯の目的ではないのです   評論家 犬養智子『家事秘訣 集』から」

 犬養智子さんは、犬養道子さんが五・一五事件の折、犬養毅首相が母と弟か ら意図的に離れようとしたという、その弟・康彦さん(後の共同通信社長)の 妻。 旧姓は波多野、祖父の波多野承五郎(1858-1929)は福沢門下生、東京 府会議員、天津総領事、外務省書記官、『朝野新聞』社長兼主筆、三井銀行本店 支配人、理事、千代田生命保険会社創立発起人、衆議院議員などを務めた。

「今日は気分がいいから、教えてあげよう。」2018/09/24 07:10

 朝日新聞朝刊1面連載、鷲田清一さんの『折々のことば』は、以前いくつか 紹介した後も、気に入ったものや、心に引っかかったものを、切り抜いている。   それをまた、いくつか紹介したい。

 936「今日は気分がいいから、教えてあげよう。人生はな、冥土までの暇つ ぶしや。だから、上等の暇つぶしをせにゃならんのだ。   今東光」

 894「好きなことに限りなく近いことで暮らすということは、抵抗しまくる ことだ。    手作りファッションブランド主宰者 山下陽光(ひかる)」

 1186「わずか「タ」と「チ」の違いで何十年も年をとる  解剖学者 三木 成夫(しげお)」  (「よちよち」から「よたよた」へ。たった一音の響きの 変化が数十年の時の経過を表す。)

○毎日ブログを書いていて、うすうす感じているものや、俳句をつくるのに、教わっていることに、ぴったりのものもあった。

 1124「考えることは雨乞いのようなものである。    哲学者 野矢茂樹」

 825「どんな活動にも、それにふさわしい規模というものがある。 E・F・ シューマッハー 『スモール・イズ・ビューティフル』から」

 866「本を読むにはエネルギーが必要です    中川李枝子 『子どもは みんな問題児』から」

 514「涙を十七字に纏めた時には、苦しみの涙は自分から遊離して、おれは 泣くことのできる男だという嬉しさだけの自分になる。  夏目漱石 『草枕』 から」

 1047「あんたら頭で考えとる。そやからあかんにゃ。  陶芸家 松井利夫」

○福沢諭吉も登場した。

 1193「自分たちより外にこんな苦い薬を能(よ)く呑む者はなかろうという 見識で……ただ苦ければもっと呑んでやるというくらいの血気であった 福沢 諭吉 『福翁自伝』から」

「爪紅」とは鳳仙花(「“花”をひろう」)2018/09/23 07:54

 高橋睦郎さんの「“花”をひろう」、「彼岸花」の前の週は「爪紅(つまぐれ)」 で、ここにも北原白秋の第二詩集『思ひ出』が出てくる。 北原白秋の第一詩 集は明治42年24歳で世に問うた『邪宗門』だけれど、言葉の魔術師としての 白秋の本領は、むしろ2年後26歳時刊行の第二詩集『思ひ出』だという。

 『思ひ出』には、洎芙藍(さふらん)、薊(あざみ)、鶏頭、椎(しい)の花、 水ヒヤシンス、石竹、白粉花、椿、たんぽぽ、沈丁花、かきつばた、牡丹…… など、さまざまな花が登場するが、中に二度出てくるものに「爪紅」があると いう。 その一つ、題名もズバリ「爪紅」の四行詩。

 いさかひしたるその日より

 爪紅の花さきにけり、

 TINKA ONGOの指さきに

 さびしと夏のにじむべく。

 「TINKA ONGO」は、「小さき令嬢。柳河語。」とあるそうだ。 つまぐれ、 つまぐれない、紅色の花弁をとって揉んで爪の上に乗せ、繃帯などで縛って半 日も置くと、爪に花弁の色が滲み着いて、爪が伸び切るまではそのままなこと から言い慣わした俗称で、正式名称は鳳仙花(ほうせんか)。

 楕円形の果実は五室に分かれていて、熟すると表皮が縦に割れて巻き縮み、 種子を勢いよく弾き出す。 その種子が翌年芽を出すので、播かないのに増え る。 魚骨がのどに刺さった時、この種子を数粒飲めば抜けるから、「骨抜き」 という別名があるそうだが、私は、これを知らなかった。

降り足らぬ砂地の雨や鳳仙花     杉田久女

かそけくも喉鳴る妹よ鳳仙花     富田木歩

鳳仙花いまをはぜよとかがみよる   太田鴻村

高橋睦郎さん「“花”をひろう」の「彼岸花」2018/09/22 07:11

『夏潮』が創刊した翌年の2008(平成20)年11月からだったか、高橋睦郎 さんが朝日新聞の別刷カラーページに、長く(2013(平成25)年3月まで)「“花” をひろう」「“季”をひろう」という連載をなさった。 植物について、また古 今東西の詩文について、何ともお詳しいのに恐れ入ったものだった。 植物に ついては、その背景に「LOCUS AMOENUS(ロクス アモエヌス)」詩人の庭 があったのかと、改めて知った次第。

たとえば季節の「彼岸花」、「“花”をひろう」2010年9月11日、青空の白 い雲をバックに、真っ赤な彼岸花が咲いている(写真は、井上博道さん)。 白 秋の第二詩集『思ひ出』の一篇「曼殊沙華」。

GONSHAN. GONSHAN.何処へゆく、

赤い、御墓の曼殊沙華(ひがんばな)

曼殊沙華、

けふも手折に来たわいな。

GONSHAN. GONSHAN.何本か、

地には七本、血のやうに、

血のやうに、

ちやうど、あの児の年の数。

 「俗称ひがんばなの由来は秋彼岸の頃、墓地などのある村はずれの荒地や河 原などに咲くからか。もっとも、最近の温暖化のせいか、筆者の住む逗子あた りでは、七月末から咲いている。」とある。

 歳時記で「彼岸」とのみいえば春期。 秋期は「秋彼岸」という。 高橋睦 郎さんは、「秋のほうが彼岸にふさわしく思われるのは、彼岸花のせいもある か。」と。

 「白秋の詩の中のGONSHANは、いまでいう未婚の母か。七つ(いまなら 五歳)まで育てた愛児を亡くし、つい墓地に足が向くのだろうか。またの名を 死人花(しびとばな)、幽霊花、三昧花(さんまいばな)とも。」

 おわりに三句が引いてある。

むらがりていよ\/寂しひがんばな     日野草城

彼岸花咲く藪川のうす濁り         内藤吐天(とてん)

彼岸花鎮守の森の昏(くら)きより     中川宋淵(そうえん)

詩人の家『LOCUS AMOENUS』の謎2018/09/21 07:17

 樹木希林さんの「百点対談」が載っていた『銀座百点』9月号だが、グラビ アが『LOCUS AMOENUS』と題する、謎の洋風の庭の写真であった。 シャ ンデリアをバックにした金字の題名の下に、同じ金字でMutuo Takahashi、 Hajime Sawatari、Jun Hanzawaの三人の名がある。 どこのどういう庭なの か、銀座とは関係があるのか? 初めの丸く刈り込んだ木に日の当っている写 真の、ごく短い説明に、「LOCUS AMOENUS(ロクス アモエヌス)……心地 よい場所をいうラテン語、古来ヨーロッパの文人たちは学芸の生まれる理想の 環境をそう呼んできた。心地よい場所はまず庭づくりから、三十数年前、ささ やかな土地を手に入れたとき、まず考えたのは植物たちによる癒しだった。」と ある。

 チューリップの咲いている写真には、「植物は四季折々に美しい花を咲かせて くれる。春の主役はチューリップ。年によっては、千七百球以上の球根を植え る。」 幾何学的な西洋風の庭、白塗りのお洒落な金属製のベンチに毛布が置か れ、ブリキのジョウロがいくつか見える写真には、「緑と花々に見る夢。夢を健 やかに哺(はぐく)みつづけるには、草抜き、虫取り、水遣り、剪定などの日々 の手入れがかかせない。」

 豪華なシャンデリアが低い位置に下がり、六人掛けのテーブルと丸テーブル、 開けた窓のまとめられたカーテンの間から、明るい庭が見える。 「室内には 庭の、そして庭につづく小山からの風と光とを豊かに入れて。もちろん詩想を 醸す場である頭と心の中にも。」 テーブルに飾られた白い陶器に活けられてい るのは白いバラ、「年の終わりの室内こそ暖かく華やかに。クリスマスツリーを 飾りヤドリギやバラを活け、スパイス入りワインを備えて。」

 どこの誰の家の庭なのか、目次にも、巻末の「編集夜話」を見ても、説明が ない。 謎である。 多くの読者は、そのまま過ぎてしまうのではないか。

 私は『銀座百点』を手にすると、高橋睦郎選の「銀座俳句」を覗く。 選評 の初めに、こうあった。 「わが詩文の生まれる場である茅屋と荒庭を五十年 来の友人である写真家沢渡朔が十年かけて撮ってくれた写真集『LOCUS AMOENUS(ロクス アモエヌス)』が、近く平凡社から上梓されます。中のご く一部ですが、本誌編集部のご好意で本号のグラビア頁に紹介していただきま した。おたのしみくださいましたら、倖せです。」

 平凡社のサイトを見ると、写真集は11月16日発売だそうで、『ロクス アモ エヌス 詩人の家』、「選りすぐりのアンティーク調度と半澤潤の手仕事の賜物た る洋館。家が詩人の終の住処になるまでの長歳月を沢渡朔の写真が記録。栞は 谷川俊太郎。」

 高橋睦郎さんは、『夏潮』の本井英主宰とご近所で親しく、新年会や十周年ク ルーズにおいで下さり、主宰宅での宴に同席させて頂いたこともある。 こう いうお宅に、お住まいだったのか。