桃月庵白酒の「花筏」後半2026/04/20 08:22

 銚子巡業は、初日からずっと満員御礼。 地元の網元の倅、千鳥ヶ浜が江戸の力士相手に連日連勝、明日は千秋楽、いよいよ大関の花筏が出てくるんじゃないか、と大評判になる。 千秋楽の取組、結びの一番は、花筏には千鳥ヶ浜と発表された。 可哀想なのは徳さん、千鳥ヶ浜は化け物です、殺されちゃう、と帰り支度を始める。

 約束を破ったのは、親方じゃないですか。 お前さんもよくない、病気のはずがたくさん飯を食って、大酒飲んで、連日のどんちゃん騒ぎ。 勧進元に言われたよ、毎晩女を引っ張り込んでいるそうじゃないか。 昼の取組もあるとか、お前さんもよくない。 うれしかったんですよ、ただのデブが、大関、大関と言われて。 何でもやります。 やってくれるか、ちゃんと考えたんだ。 仕切りまでやってくれ。 ハッケヨイで、両手を出して、後ろに引っくり返るんだ。 値打ちがある、大関が病気を押して、土俵に上がってくれた。 豪儀なもんじゃ花筏って。 わかりました。 負ける稽古をする。

 一方の千鳥ヶ浜。 お父っつあん、帰りました。 ようやっと大関と相撲が取れることになりました。 わからぬか、今まで勝ってきたのは、地元の活躍で盛り上げるため、わざと負けて下さっていたんだ。 千秋楽で、その敵を討つ、遺恨相撲だ、土俵の上で殺される。 明日、土俵に上がったら、親子の縁を切る。 見るだけなら、かまわない。

 西ーーッ、千鳥ヶ浜! 千鳥ヶ浜! 東ーーッ、花筏! 花筏! 両者、土俵に上がる。 可哀想なのは、徳さん。 仕切っているが、力が入らない。 相手は、鬼の形相。 俺は、ここで殺される。 南無阿弥陀仏。 花筏が泣いてる、あ、そうか、遺恨相撲だ、俺は殺されるんだ。 よせば、よかった、両親を不憫に思う。 涙がボロボロ、南無阿弥陀仏! 行司がハッケヨイと、軍配を返した。

 徳さん両手を前へ出すと、とたんに千鳥ヶ浜は尻餅をつく。 勝ち名乗り、花筏ーーッ! 張るのが、うまいね。 うまいわけだよ、提灯屋さんだ。

桃月庵白酒の「花筏」前半2026/04/19 07:45

 白酒も、黒紋付の羽織に、クリーム色の着物だった。 少し前、落語教室というところで演ったが、寄席やホール落語と違って、怖い。 聞いても、わからないのではと、司会の人が解説して、「灘の酒と、タダの酒」なんて言ってから、「白酒さん、どうぞ!」 拍子抜けして、やりにくい。 落語は、歌舞伎のイヤホンガイドのようなわけにはいかない。 何も考えずに、ご覧いただくのが一番。 野球の場合、楽しむのは、テレビの方がいい。 細かいところがアップになる、球場ではそうはいかない。

 相撲、砂かぶりだと、声援も送れない。 枡席が楽しい、飲み食いができる。 隣に誰がいるか、海外の方、枡席に外人4人だと拷問のよう、日本語のできる人だと、色々聞いて来る。 スポーツだが、神事、様式美のようなところもある。 呼び出し、行司、一回呼ばれたのに、なぜもう一度呼ばれるのか。 さらに場内アナウンスもあり、面倒みきれない。 幕内の土俵入り、あれは何をやっているのか。 不条理なことだ、罰ゲームの一種か。

 朝稽古を見に行ったことがあるが、ぶつかる音が凄い。 あれじゃ、本割で怪我をしますよ。 外人力士、壁みたいのがいる。 序の口には、小学相撲みたいのがいる。 あれでは休場が多くなる。 巡業も全員でなく、部屋ごとにしたらどうか。

 徳さん、頼みたいことがある。 親方、提灯の注文ですか? 大関の花筏が具合が悪くなった。 千葉の銚子へ巡業に行くのだが、大関の花筏がいないと話にならない。 影武者みたいのがいればいい。 どこかの馬鹿が行ってくれますか。 そう思って来た。 お前さんは、花筏にそっくりだ。 無駄にでっぷり太っていて、ゲジゲジ眉毛に金壺まなこ、鼻の穴が広がっていて、歯並びが悪い。 ダラダラしていて、相撲は取らんでもいい、廻しを締めて、座っているだけでいい。 勘弁して下さい。 食べ物は食い放題、酒は飲み放題だが、どうだ。 提灯を張って、一日、どの位稼ぐ?  一日一分。 倍の二分出そう。 そんなに…、親方、やりましょうかね。 そんなことは、写真のない昔だからできる。 相撲の吾妻錦絵、デフォルメした方が売れた。

柳家さん喬の「締め込み」後半2026/04/18 07:19

 止めないでくれ、源さん! 夫婦喧嘩は、犬も食わないって。 お前さんも、しつこいよ。 仲裁は、ときの九十九神(つくもがみ)。 お前さん、なんだ、源さんじゃないな、誰? 名のある性質の者じゃない。 でも、止めてくれて、ありがとうござんす。

 この喧嘩、どういうものか知ってんのか? そこです。 それが分かれば、収まる。 この風呂敷包みをつくったのは、おかみさんでも、旦那でもない。 そこです。 私が風呂敷包みをつくって、外へ出ようと思ったら、旦那が帰って来た。 台所のあげ板の下、糠味噌桶の脇に潜り込んだ。 おかみさん、糠味噌はときどき掻き回した方がいい。 隠れている頭の上に、鉄瓶がゴロン、ゴロンと転がってきて、お湯がダバ、ダバーッとこぼれた。 辛抱しきれなくなって、出て来て、まあまあと止めました。 お前さん、家に入って来た泥棒か。 お前が、湯でくっちゃべっているから、こういうことになるんだ。 泥棒さんが出て来てくれなければ、夫婦別れするところだった。 お前も泥棒さんに、お礼を申し上げろ。 泥棒さん、よく出て来てくれました。

 仲が良すぎる、うらやましい。 おかみさんが伊勢屋に行儀見習いでいる時に、お二人は噂になったてんで。 でも、あとで聞いたら、噂なんかなかったとか。 よせよ、余所で言うなよ。 仲間内でも、口が堅いと言われてんで。 一杯やろうじゃないか、お福、支度しろ。 ゆっくりしていきな。 明日になったら、入りやすいところを、二三軒教えてやるから。

 一杯やって、いい気分になった泥棒が寝込んだ。 暢気なもんだね。 薄い物でも、かけてやんな。 お福、俺たちも寝ようか。 心張棒をかっとけ。 あっ、泥棒が中にいるんだ。 お福、心張棒、外からかっとけ。

柳家さん喬の「締め込み」前半2026/04/17 07:08

 街中を歩いていても、特に何も感じません、と始めた。 外国の方が増えているのは、いいことなんでしょう。 世の中が変わっていく。 寄席でしても失礼に当らない噺がある。 けちん坊の話。 どこへ行く? 寄席へ、笑いに。 金出して、笑うのか、馬鹿だねえ、くすぐってもらえばいい。 ご飯の支度が出来た、前の家で鰻を焼き始めたら、食おう。 今日の匂いは、しょぼいね。 若い衆が、こんにちは。 お勘定を。 一(ひとつ)、一円五十銭、うなぎ嗅ぎ代。 嗅がれると、精(しょう)が抜けるから、タレ二度付けしなければならないんで、嗅ぎ代貰って来いと、主人が言ってます。 一円五十銭、巾着に入れて。 耳、出しな。 音だけ聞いて。

 泥棒の話も、失礼に当らない。 何、急いでいるんだ? 泥棒を、追いかけてんだ。 泥棒は? 追い越したんで、後から来る。 浅草の観音様、お賽銭を盗んだ泥棒、雷門で仁王に踏みつけられて、ブッ、くせえ野郎だ、仁王か!

 泥棒、一軒の家に目をつけ、ごめん下さい、お留守ですか! 戸を開けますよ、はばかりじゃねえでしょうね、お留守ですか、七輪に火、湯が沸いているのに。 箪笥を開けて、手早く風呂敷包みをつくる。 チャッチャッチャと雪駄の音がして、亭主が帰って来た。 慌てて、台所のあげ板の下、糠味噌桶の脇に潜り込む。 おっかあ、いま帰ったぞ。 いないのか、湯がチンチン湧いているのに、またどっかでペチャクチャしゃべっているのか。 何だ、この風呂敷包みは。 お福が古着屋から預かりやがったのか。 何だい、半纏だ、質に入れて、流しやがったのか。 いい唐桟だい、色といい、縞といい。 どっかで見たことのある羽織だ。 待てよ、この羽裏、俺の羽織だ。 カカアの着物や帯もある。 何で風呂敷包みになってるんだ。 カカアの野郎、男が出来たんだ。 バッタに売って、逃げようってんだな。

 おかみさんが、湯から帰る。 おっかさんに、言ってくださいよ。 あっ、そう、あとで伺います。 お前さん、帰っていたの。 お湯屋で、お光さんに会ったのよ。 魚銀に頼んだ魚、脂身が少ないってんだけど。 一杯か、お湯か、どっちにする。 ちょいと、何とか言っておくれよ。 具合が悪いの。 何とか言っておくれよ。 ちょいと、親方、棟梁。 親父が、八は喧嘩しなければ、いい奴なんだがって言ってた。 ベラベラベラベラしゃべりやがって、離縁状書いてやるから、出てけ、出てけ! 俺が何も知らないってんのか。 あっ、そう、出てけって、何で別れなきゃあいけないの。 お湯の帰りが遅いからかい。 まさに判然と言っておくれ。 男が出来やがったんだ、お前に。 男が…、出来たわよ、誰だか知ってんだろ、誰なのよ。 この風呂敷包みを見ろ。 誰なの、その相手、その男ってのは、言っとくれ? うるせえ、お多福。

 お多福、お前さん、私が伊勢屋にいた時、何て言った? 飯炊きだ。 行儀見習いに行っていたんだ、お前さん、一番よく知ってる。 私の袖を引っ張ったんじゃないか。 二人が噂になっている、噂通りになろうって言ったのは、お前さんじゃないか。 あとで聞いたら、噂なんかなかった。 お福さんは弁天様だって言ったのに、三年経ったら、お多福かい。 殴れるものなら、ぶってみろ。 旦那が投げた鉄瓶が、おかみさんにぶつからないで、ゴロン、ゴロンと、台所のあげ板に転がって、煮えたぎっているやつが、隠れている泥棒の上で、ダバ、ダバーッとこぼれた。 アッチッチと、飛び出した泥棒が、夫婦喧嘩を止めに入る。

立川志らくの「百年目」下2026/04/16 07:08

 番頭は早く起き出して、店の前を掃き始める。 何ですか、番頭さん、掃除はあたいがいたします。 お前は店で、帳面を付けて…。 旦那が、番頭さんは、どうなさった? 帳場に座っていらっしゃるが、どうも様子がおかしい。 貞吉、番頭さんに、手が空いたら、ちょっと顔を出してと、言っておくれ。

 番頭さん、旦那様が、手が空いたら、ちょっと顔を出して、と…。 今、すぐ行くって、言っとけ。 旦那様、番頭さん、「今、すぐ行くって、言っとけ」って。 そんなことは言わないだろう。 そう言ったんですよ。 そう言ったとしてもだ、お前は「ただいま参りますと申し上げてくれ」と言わなければいけない。

 こっちに入んなさい、座布団を敷いて。 けっこうです。 うちで遠慮をすることはない、遠慮は外でやんなさい。 猿田の隠居に、お茶を習った。 茶を点ててやってみようか。 茶には、濃茶と薄茶がある、耳学問だがね。 お湯が沸くまで、面白い話をしよう。 旦那とか、旦那様とか、言うだろう、あれはどういうワケだか知ってましたか。 南天竺の話だ、栴檀(せんだん)の立派な木があってね、たくさんの人が集まって、その香りを楽しんでいた。 その木の下にはナンエン(南縁)草が生えていたんだが、ある人がそのナンエン草を刈ったら、栴檀が枯れてしまった。 栴檀の落とす露が、肥やしとなって、ナンエン草がはびこる。 そのナンエン草が、栴檀を大きくする。 まあ、人は一人では暮らせない、支え合うんだ。 栴檀の檀と、ナンエン草のナンで、壇ナン、檀那(旦那)という言葉になったんだそうですよ。

 この店では、私が栴檀の木、お前さんがナンエン草だ。 私はね、お前さんに露を落としたつもりだ。 店へ行くと、お前さんが栴檀、店の者に露を落とす。 無駄かも知れないけれど、お前さんが、露を下ろしてやっておくれ。 行き届きませんで。 お前さんは、行き届き過ぎる、怖すぎる、叱言が多い、私は、無駄という言葉が好きだ。 鯛には、頭と尾があるけれど、頭と尾は食べない。 その無駄があることによって、立派に見える。 無駄があって、それでいいんじゃないか。

 お前さんが、家へ来たのは十一、葛西から掃除屋の宗助さんが連れて来た。 真っ黒で、面倒を見ると思って使って下さい、という。 覚えが悪くて、お使いに出せば、行くところがわからなくなる、お金を落とす。 寝小便の癖があって、死んだ婆さんが、自分の子どもだと思ってと言って、お灸をすえた。 色が黒いので場所がわからず、お白粉で印をつけて、お灸した。 お前さん、熱い、熱いって、泣いてね。

 その小僧が、今のお前さんだ。 番頭に上った時は、嬉しかった。 婆さんに見せてやりたかった。 本題に入る。 昨日は、楽しかったでしょう。 お得意様とのお付き合いなら、払い負けしないように。 番頭さん、ゆんべ、寝られたかい。 寝られませんでした。 私も寝られなくてね、帳簿なんか見たこともなかったのを、見させてもらいました。 全部調べさせてもらったが、あんな大遊びをして、これっぽっちも帳簿に穴が空いてなかったのには驚いた。 お前さんは、自分で儲けたお金で遊んでいたんだ。 気がつかなかった。

 今度こそ約束する。 あと一年、小僧たちを仕付けて下さい。 必ず、店を持たせますから。 お湯が沸いたから、お茶を淹れる。 初めて、やるんだ、美味しいかどうかわからないけれど。 結構な、お手前でございます。 もう、行きなさい。 今度は、粋な踊り、ここで踊って見せて下さいね。 もう一つ、聞きたいことがあった。 昨日、妙なことを言ったね、お久し振りでございます、ご無沙汰を致しておりましてって。 何で、あんなことを言ったんだい。 もう、これが百年目、だと思いました。