トランプ大統領と主要閣僚の出身大学 ― 2025/05/06 07:07
それで野次馬は、ドナルド・トランプ氏と主要閣僚などが、どこの大学を出たのか、と思って、調べてみた。 そこからは、特に反知性主義は、感じられなかった。
ドナルド・トランプ大統領…ペンシルバニア大学ウォートン・スクール(BS)経済学士
J・D・ヴァンス副大統領…オハイオ州立大学、イェール・ロー・スクール
マルコ・ルビオ国務長官…マイアミ大学
スコット・ベッセント財務長官…イェール大学(BA)
ピート・ヘグセス国防長官…プリンストン大学(BA)、ハーバード大学(MPP)
パメラ(パム)・ボンディ司法長官…フロリダ大学(BA)、ステットン大学(法学博士)
マイケル・ウォルツ補佐官→国連大使…バージニア軍事学院(学士)
キャロライン・レビット報道官…セント・アンセム大学(BA)
フェイクの海で「真実の島」になるメディアの責務 ― 2025/05/05 07:03
米CNNワールドワイドのCEO(最高経営責任者)のマーク・トンプソンさんは1957年生れ、かつて英BBCで会長を務め、2012~20年には米ニューヨーク・タイムズ(NYT)の社長兼CEOとして、デジタルの売り上げが紙媒体を上回るまで成長させた人で、23年10月から現職だという。 朝日新聞は3月13日の「インタビュー」で、マーク・トンプソンさんに、存在感を増すSNSと、トランプ政権下で強まるメディアへの圧力、揺れ動くジャーナリズムの未来について、話を聞いた。
フェイクニュースは、ある種の「うわさ」であり、SNSは「うわさ」を作ること、拡散することをより簡単にした。 そうした情報に人々の興味がかき立てられていることも、現実の一部だ。 大切なのは、メディアとして自らの価値を保ち、ブランドを目立たせ続けることだ。 そうすれば、フェイクニュースの海に浮かぶ「真実の島」になることができるだろう。
トランプ氏は、政権に批判的なメディアにしばしば攻撃的な姿勢をとっているけれど、政治家には発言の自由があり、我々の仕事はジャーナリズム、事実を報じるという本来の義務がある。 報道の自由は、米国憲法修正第1条で保障されており、守り抜くべきだ。 政府が編集方針に介入する国もあるが、それは米国の伝統ではない。 異なる報道機関が、ときに矛盾した選択をすることも、民主主義の多元性において強みとなる。 人々はその中で選択できるからだ。
CNNは米国の中で、最も政治的立場が多様な視聴者を抱えているメディアの一つだ。 むやみにリベラルなメディアとくくられることを、否定する。 我々の使命は、「何が起きているのか伝えること」であり、ニュースを届け、議論のプラットフォームとなるべきだ。
デジタル化は、視聴者が触れるメディアの選択肢を増やし、より柔軟で便利なものにした。 以前は、「何を見るか、読むか」は少数のテレビ局や新聞社によって決められていた。 既存メディアの寡占状態が崩れた今、変革が必要だと考えている。 視聴者がどのようなメディアを利用しているかをよく観察し、ニーズに応えることだ。 従来の視聴者は貴重で、きちんとサービスは提供すべきだ。 NYTも、CNNも、従来のサービスを効率的に提供しつつ、デジタル事業に資本を移動させようとしている。 変革の一方、真実のために政府や権力機関の責任を追及し、公正であろうとするジャーナリズムの信念は変わらない。
昨年、ニュースサイトにペイウォール(課金制)を試験的に導入した。 ユーザーが一定回数以上のニュースを見ると、月額3・99ドル(約600円)の支払いを求める仕組みだ。 米国では人々は伝統的にお金を払って新聞を読んできた。 それは、質の高いオンラインニュースでも同じだということを、思い出してほしい。 多くのユーザーが無料でニュースを見ることができる状況でも、CNNのプラットフォーム全体には毎月、約1億6千万人が訪れており、ライトユーザーが購読者になりうると考えている。
CNNでは、コンテンツ戦略にAI(人工知能)の活用を模索している。 一方で、人間らしい報道を失いたくない。 AIは大量のフェイクニュースを生み出す可能性もあるが、AIを訓練し、真偽を検証するプロセスに活用することができる。 衝撃的な映像があるとき、AIの手も借りて私たちが検証し、「これが真実だ」と伝えるといった使い方を重視している。
トランプ政権を支える「テック右派」と「宗教右派」 ― 2025/05/04 06:59
5月1日の朝日新聞「オピニオン&フォーラム」面の下段、神里達博さんの「月刊 安心新聞+plus」が、「「極端」なトランプ政権 読み解くヒント」「支持勢力つなげる「終末論」」だった。 神里達博さんは1967年生れ、千葉大学大学院教授、専門は科学史、科学技術社会論。 5月2日に書いたエマニュエル・トッドさんの「現代の米国は、かつてのようなプロテスタンティズムの国ではない。「プロテスタンティズム・ゼロ」「宗教ゼロ」に向っていると思う。」という意見とは、違う見解だった。
トランプ政権が、なぜこれまでに「極端」なのか。 その「原動力」はどこから来るのか。 謎を解くヒントとなる論考が、先月、英国のガーディアン紙に載った。 著者は著名な作家ナオミ・クライン氏とドキュメンタリー映画監督のアストラ・テイラー氏だ。 「終末論ファシズムの台頭」、全体としてトランプ政権を支える諸勢力は危険な「終末論」的思想で結びついているとして、警鐘を鳴らす内容の論考だ。
トランプ政権2期目の大きな特徴として、IT大手の重要人物たちが政権に接近しているという点がある。 イーロン・マスク氏にいたっては、政府の要職に就いた。 彼らは「自由至上主義=リバタリアニズム」に親和的で、優秀な人材ならば人種を問わず活躍すべき、という考え方をとることが多い。 「テック右派」と呼ばれることもある。
一方で、以前からトランプ政権を支えてきた「ラストベルト」などの岩盤支持層は、キリスト教福音派などの宗教右派の影響が強い。 しばしば移民に反対し、反エリート的であるとされている。
両派は、政権内で亀裂を生じさせそうに思うが、クライン氏らの論考は、それは誤解だと感じさせる。 「テック右派」には、共有されている「加速主義」がある。 資本主義は不平等や環境問題など多くの課題を抱える。 これに対して小手先の変革は諦め、逆に技術革新や資本主義を加速させることでシステムの矛盾を露呈させ、いわば破壊を通じて社会変革を起こそうという考え方だ。 そこでは所得再分配などのリベラルな制度や考え方は、イノベーションや資本主義の邪魔と見なされる。 また人間の知性を上回る人工知能(AI)の出現や、先端技術による身体の改変で人類を超えた存在に移行することに、期待を寄せる傾向もある。 そして現在の社会システムが破綻した後、強くて優秀な「超人」の時代が来る、来るべきだと、夢想するのだ。
一方、宗教右派の多くは聖書の内容を文字通り受け取り、世界最終戦争の後に「千年王国」が到来すると信じているとされる。 近年の共和党政権では現実の政治的なシーンにも、その種の思想がしばしば入り込んできた。 ブッシュ(子)大統領の言葉、「悪の枢軸」も、トランプ氏が銃撃されて助かり「全能の神のご加護」と語るなど、宗教的表現を用いている。
クライン氏とテイラー氏は、テック右派と宗教右派は終末論的なビジョンを共有し、どちらもその現実化を目指していると指摘する。 にわかには信じがたい話である。 だが、ウクライナやガザへの対応など、最近の米国の不可解な態度は、クライン氏らの論考を補助線とすると、残念ながら確かに理解しやすくなるのだ。
最近の調査でも米国成人の約9割が神または他の「高次の力」の存在を信じると回答している。 フランスの思想家トクヴィルがかつて看破した通り、やはり米国は宗教的な国なのだ。 従って私たちが今、目にしている驚くべきできごとも、実は米国に元々内在していた性質が、極度に肥大化しているという側面もあるかもしれない。
そんな米国と私たちはどう向き合うべきか。 とにかく彼の国の実像を深く知ることが先決だ。 まずは、そこから。
佐伯啓思さん「自由貿易の機能不全 米の戦略的介入招く」 ― 2025/05/03 07:14
「インタビュー」の載る朝日新聞の「オピニオン&フォーラム」面に、随時佐伯啓思さんの「異論のススメ スペシャル」が出る。 3月29日は「市場経済 剥がされる擬装」で、見出しは「グローバリズム下で自由貿易の機能不全 米の戦略的介入招く」「科学と称する米の価値観 関心ないトランプ流」だった。 佐伯啓思さんは1949年生れ、京都大学名誉教授。
トランプ氏にとっては、自由貿易体制は理想でも正義でも何でもない。 問題は米国経済の立て直しとその強化だけであり、手段も関税政策だけではない。 通常、自国経済の強化を目的とした、政府による介入は、戦略的産業主義や保護主義と呼ばれるもので、自由貿易や市場競争への脅威とみなされてきた。 経済学は基本的に自由貿易主義を擁護する。 戦略的介入主義は、政治権力による市場の歪みを引き起こすとして批判される。
100%の自由貿易などありえないにしても、政治による経済への介入を可能な限り排除し、民間の自由競争に委ねるのが経済学の説く正解であり、自由社会の原則であった。 今日のグローバル経済が自由貿易主義を支柱にしていることはいうまでもない。 となれば、グローバリズムを主導してきた米国こそが自由貿易主義の守護神だと考えたくもなるのだが、ことはそれほど簡単ではない。 ざっと振り返っても、1960年代の冷戦下の産軍複合型経済、80年代の日米貿易摩擦、90年代の日本への構造調整(構造改革)要求、また、情報・金融への産業転換、近年の先端技術への支援など、米国政府は、しばしば経済への戦略的介入を行い、他国に様々な要求を突き付けてきた。
冷戦以来のグローバリズムとは、自由な市場競争の世界への拡張であった。 その市場競争論を唱えたのは米国の経済学であり、自由貿易論もその一部である。 今日のグローバリズムの下では、資本も技術も人も情報も容易に移動する。 企業も生産拠点を海外に移せる。 そうなると、各国がそれぞれの得意分野を政策的に創出することが可能になる。 特に大国たらんとする国では、大きな利益を生む先端技術や先端産業を政府が支援するだろう。 今日では、AI(人工知能)やロボット、宇宙技術、半導体などのハイテク開発や産業戦略がじっさいに国力を決しかねない。 これでは、とても自由な市場競争や自由貿易の教義は成り立たない。 これこそが、今日のグローバル経済の姿なのである。
米国は、冷戦後、世界の覇権を意図して、情報・金融中心の産業構造に転換した。 それが、逆に、製造業のいっそうの衰退を招き、また大きな所得格差を生んだのである。 これは、米国流の経済学が生み出した皮肉な帰結である。 冷戦後のグローバリズムが、米国へのバックラッシュを引き起こし、トランプ氏の戦略的介入主義へと帰結したのだ。 問題は、グローバリズムの支柱である「市場競争体制による世界秩序形成」が機能しない点にある。
「市場経済は、個人の競争を通じて効率性を達成して社会の調和をもたらす」という経済学の基本命題は、一見、価値中立的な真理のように装われている。 だが実際には、それは、個人主義、合理主義、能力主義、効率主義、競争主義といった価値観を前提として組み立てられていると、佐伯さんには思われる。 しかも、その価値観がそれなりに妥当するのは米国にほかならないだろう。 だが、米国の経済学者は、それを「普遍的な科学理論」だと主張した。 市場競争がうまくゆくのは「科学的真理」だという。 言い換えれば、社会主義は科学的に間違っている、と。
こうして、70年代の末には、「経済学はあくまで米国流の思想である」という佐伯さんのような信念はきわめて少数派になっていた。 80年代ともなると、「正義としての自由主義」と「科学としての経済学」が結合して「新自由主義」を名乗る市場万能主義者が幅を利かせることになる。 かくて90年代の冷戦後には、米国の経済学が説く「自由な市場競争こそ普遍的正義である」というグローバリズムが誕生した。
佐伯さんは、別に経済学のすべてが間違っているなどといっているわけではない。 今日、経済学は細分化され、様々な個別分野での研究が展開されている。 だが、「市場経済とは何か」という大きな問いが忘れ去られてしまった。
経済学には「自由な市場競争こそが世界を調和させる」という信念が隠されている。 しかし、この米国流の価値観は、科学と称することでオブラートに包まれた。 そして、科学を装ったひとつの価値観・思想がグローバリズムを覆い、今日、その擬装が剥がれつつある。
科学的真理にも科学者エリートにもリベラリズムにも関心を持たないトランプ氏が、この擬装を剥がしてしまった。 トランプ氏にとっては米国の「強さ」が、そして彼の支持者にとっては、彼らの生活の方が大事なのだ。 しかし、だからといって、「トランプ流」によって次の段階への道が見えているわけでもないのである。
エマニュエル・トッドさん「敗北する米国 日本は静観して」 ― 2025/05/02 07:03
朝日新聞の「インタビュー」は2月26日、昨年『西洋の敗北』を出版した仏人類学者・歴史学者エマニュエル・トッドさんの話を聞いていた。 見出しは「敗北する米国」「ウクライナで失敗 社会は退廃的に 産業再建は手遅れ」、さらに「世界史の転換点 地政学的な対立も 日本は静観して」だった。
『西洋の敗北』は22カ国で出版されているが、英国でも米国でも英語圏での翻訳の話すらないのは、英米にとって不愉快で核心を突いた内容を含んでいることを物語っていると感じている。 ロシアによるウクライナ侵攻は、事実上ロシアと米国の戦争で、米国はロシアに対して屈辱的な敗北を経験しつつある。 米国が主導した経済制裁が失敗し、ロシアは持ちこたえ、同盟国であるドイツなど欧州の方が(ロシアの天然ガス供給カットなどで)より深く傷ついた。 そして2023年のウクライナによる反転攻勢など、米国が支援した軍事作戦が失敗したことが、今日の結果を招いた。
トッドさんが、米国の敗北を見てとった大きな理由は、米国の産業システムがウクライナに十分な武器を提供できなくなっていたことだ。 日本やドイツと異なり、米国はエンジニアになる若者の割合が非常に低い。 一方、皮肉なことにロシアは経済制裁によって自国の産業を復活させ、(クリミア半島を一方的に併合した)2014年以来、制裁に供えて金融システムなども独自の体制をつくっていた。
トッドさんは、乳幼児死亡率などのデータを基に、1976年に15年後のソ連崩壊を予測したことで知られている。 乳幼児はどこでも、社会の最も弱い存在なので、それだけに、それぞれの社会の状態を理解し、評価するのにとても重要な指標なのだ。 その乳幼児死亡率は、ロシアでは00年から急速に改善し、20年にはロシアよりも米国の方が死亡率が高くなった。 米国国内の地域的な分析も、非常に興味深い。 日本は相変わらず、世界でも最も低い死亡率を誇っていることに変わりはない。
現代の米国は、かつてのようなプロテスタンティズムの国ではない。 「プロテスタンティズム・ゼロ」「宗教ゼロ」に向っていると思う。 それは社会、経済、教育など多方面に大きな影響を与えている。 それによって、米国社会は虚無的で退廃的になっている。 トランプ氏も、イーロン・マスク氏も、退廃的なデカダンスだろう。
保護主義そのものには反対しないけれど、トランプ氏の保護主義政策は成功しないだろう。 関税をかけて外国から製品が入らないようにするだけでなく、国内でその製品をつくれる産業を育てなければ、国民は幸福にはならない。 米国がウクライナに必要な武器を生産・供給できなかったことと同じ現象だが、米国は国内産業を再建できない状態だ。 当面は手遅れだ、なぜなら、技術者や熟練した労働者がいないからだ。 米国は繁栄し、株価も高く、一部の米国人はとても裕福だ。 しかし、ものをつくっているからではなく、ドルという世界的通貨を発行しているからだ。 ドルの力が強いので、逆に中国を始めとした他国の産業に依存してしまうし、優秀な若者は(製造業以外の)より多くの収入を得られる分野に流れてしまう。 米国の繁栄は、国外の産業や労働力に頼っているのだ。
屈辱的な経験をする米国は、本来はより大切な存在になるはずの弱いパートナー国に対して、まるでいじめっ子のような態度に出ることが予想される。 日本は、当面は、静かに目立たないようにすべきだ。 欧州も、ウクライナの経験から、米国やロシアとの関係を見直すことになるだろう。 また米国は、中国との対立を激化させるかもしれない。 日本にとっても大変難しい状況だが、それでもできるだけ対立には関与しないようにして、自国の産業システムを守ることだ。
日本は、地政学的な対立に積極的にかかわるのではなく、米国が衰退する世界のこれからを慎重に見守ることが大切だ。 奥ゆかしく、謙譲の精神にあふれたみなさんにとっては、むずかしいことではないと思う。
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