笑劇仕立てのドラマ2007/08/12 08:07

 それで『ロマンス』全体の印象はどうだったかというと、特に主役がなくて (つまり脇役として主役を盛り立てるということでなく)、芸達者が集まってい るわけだから、どうしても俺が俺が、私が私がになりがちに見えた。 チェー ホフが自分の戯曲は喜劇だといい、ボードビルを愛したということを言いたい のだと思う井上ひさしさん自身の思い入れも、こちらがチェーホフの芝居をよ く知らないこともあって、しっかりとは伝わってこない気がした。

 静かな雰囲気のチェーホフの戯曲の水面下に、ボードビル笑劇仕立てのドラ マが大きく動いていることも忘れてはならない、とプログラムにある「スクリ ーブの笑い」で、井上ひさしさんは述べている。 『ロマンス』は、きのう書 いた「冬の夜」のような、いくつかの場面場面が、笑劇仕立ての小噺になって いる。 入れ子構造のような作りなのだ。 「卒業試験」「三粒の丸薬」「タバ コのワルツ」「14等官の死(?)」など、それぞれが面白く、笑える。 「卒業 試験」は、モスクワ大学医学部のそれで、青年チェーホフ(生瀬)は、切れ者 の助教授(段田)の500問の口頭試問を受けている。 教授(木場)は居眠り しているが、全問正解して合格と決まると、免許状を渡し、皮膚科は患者が死 ぬことはないし、治らないで又やってくるからいい、などと処世の知恵を授け る。 「三粒の丸薬」では、開業したチェーホフ(生瀬)のところに毎日通っ て来る金持のイワン青年(井上)は、マリヤ(松)が目当てで、ついにプロポ ーズする。 そこへ長年苦しんだリューマチが「三粒の丸薬」のおかげで治っ たと、老婆アニュータ(大竹)がお礼に来て、ピンシャンした姿を見せる。 大 竹しのぶがごろごろ転がるところが可笑しい(大竹は「タバコのワルツ」でも 何度か壁に体当たりする)。 身体は治っても、生活は苦しいと、家庭の現実を 語る。 同情したチェーホフとイワンはアニュータに金を恵むが、老婆が帰っ たあとに、「三粒の丸薬」が落ちていた。