一之輔の「青菜」2012/07/02 02:54

 のそのそ出て来て、真打になりましたので、よろしく、と拍手をもらう。 涼 しいという言葉を使わずに、涼しさを歌った蜀山人の狂歌に「庭に水 新し畳  伊予簾(すだれ) 透綾縮(すきやちぢみ)に色白の髱(たぼ)」。 暑い方は 「西日さす九尺二間にふとっちょの背中(せな)で子が泣く 飯(まま)が焦 げつく」。 色白の髱の「たぼ」は美人のこと、客席を見回し、今日は「たぼ」 ばかり。

 一之輔は、仕事を早めに終えて、さぼっている植木屋に、後ろからいきなり 「ご精が出ますね」と、旦那が声をかけることにした。 「今、算段をしてい るところで…」と言い訳するのを、植木を整え、水を撒いてくれたから、渡る 風が涼しい、今一杯やっていたところだ、縁側で柳蔭をやらないか。 コップ ですか、使ったことがねえ、(通して見ると)旦那の顔がゆがんでいる、遠くの ものが近い。 いつも、受けるんですがね、これ。 早くお飲みなさい。 鯉 の洗い、白いんだ、黒くないんですね。 あれは、外套。 よく冷えてますね。  下に氷が敷いてある、酢味噌で。 これで五合飲める。 しゃきしゃきして、 うめえ。 淡白なものだ。 氷、一っかけ頂きます、ルルルルー、おでこに来 る、この氷は、よく冷えてますな。 菜はお好きか。 (ポンポン)これよ、 奥や。 旦那様、鞍馬から牛若丸が出でまして、菜は九郎判官。 義経にして おきな。 お客さんじゃないですか。 洒落ですか、笑った方がよかったです か? そら、即興の掛け合いだ。 お屋敷は、そういうことが出来るんですね、 ごチョウエキが違う、ご教育、ご懲役じゃあ、箪笥作ったりしなけりゃあなら ない。 奥様もおきれいな方、今小町で。

 家に帰った植木屋、「イワシ食え馬鹿!」と、タガメみたいな、獰猛な、あれ にそっくりなカカア、池の中にいて虫を両前肢でガチンと挟む(恰好をして)、 タガメ夫人。 お酒もちょうど、義経になりました、と徳利振って、垂れた酒 で顔を拭く。 尾頭付き、鰯の塩焼きで悪いかね、頭にはカルシウムが入って いるんだよ、犬は風邪を引かないだろ。 犬と一緒かよ。 犬の方が高く売れ るよ。 お前、鯉の洗い、なんて食ったことがないだろう。 この家に嫁に来 るまでは、食ってたよ。 お屋敷の奥様は、品の良い奥様だったぞ。 旦那様、 鞍馬から牛若丸が出でまして、菜は九郎判官。 何だい、呪いのまじないかい。  落雷の折、じゃない、来客の折、菜がないと言ったら、赤面の顔を赤くするん だ。 ちゃんちゃらおかしいね。 お前なんか、天井からぶら下がったって、 言えめえ。 私はコウモリじゃないよ。 あれ、やりてえな。 何言ってんだ い、明るい内から…。

 やりてえな、半公が歩いている、今日は小町になれ、小野の小町。 髪を長 く、ざんばらにして、渋団扇持って、次の間に下がれ。 ないよ、次の間。 押 し入れに。 パンパンのきっかけで、ドンと出ろ。

 ご精が出ますね。 さぼって、昼寝して、湯へ行ったところだ。 時に、植 木屋さん。 植木屋はお前、俺は建具屋だ。 酒? 浴びるほどだ。 今、ご 馳走しよう。 えッ、地震でもあるのかな。 縁側なんかないじゃないか、い きなり板の間だ。 大阪の友達? 東京にも友達いないくせに。 シャケの空 き缶か、ちゃんと洗ったんだろうな、油が浮くから、口が切れそうだ、「あけぼ の」か。 何、柳蔭? 当り前の酒じゃないか、お前、目が恐いね。 時に、 植木屋さん。 鰯の塩焼きはどうだ、かみさんが取ってきた、タガメの前肢で ガチンと挟んだ傷跡がある。 脂が乗っている。 菜の蒸したのはどうだ。 嫌 いだよ、小いせえ頃から青い物は食わねえ、いらないよ。 食えよ、何のため に酒や魚食わせてんだ、バカヤロ、菜はないけどな。 ポンポン、奥よ、これ よ。 旦那様…。 何これ、びっくりしたなあ、髪の毛ざんばらにして、汗か いて。 鞍馬から牛若丸が出でまして、菜は九郎判官義経。 ム、ム、ム、弁 慶にしておきな。

 誰もがご存知の「青菜」で、これだけ笑わせた一之輔、かなり腕を上げたと 言えるだろう。