柳家三三の「大工調べ」前半 ― 2024/05/30 06:55
江戸っ子の噺家がいる中で、三三は江戸っ子でなく、小田原生れのカマボコ、カマボコだけに高座姿は板に付いている、と始めた。 啖呵でいう「べらぼう」は、「へらぼう」、おまんまをつぶす棒。 啖呵は、職人、大工のもの、江戸は火事が多く、家の建つのが早い、職人の数も多かった。 棟梁は大変、自分のものを質においても、面倒をみる。 常日頃から面倒をみている。
与太、いるか。 棟梁、おっ母さんは墓参りへ行った。 番町のお屋敷で一年続こうって大きな仕事が入った、明日からなので、後で若い者が道具箱を取りに来るから。 まずいな。 何だ? あのね、道具箱がない。 食ったのか。 固くて食えない。 食べたんだろう、質に置いて。 持ってかれたんだ。 夜中か。 昼下がりに、持っていかれた。 入ってきたんだ、ひょっとしたら、持ってくんじゃないかと思っていたら、持って行った。 お前、何とも言わなかったのか。 ギョロッと睨んで、持って行った。 どこの誰だか、わかってんのか。 路地出たての角の家。 家主、大家じゃないか。 店賃を払ってなくて。
いくらだ。 一両二分と八百。 いつも小遣い、回してんだろ。 (腹掛けのどんぶりをさらって)これを持って行って、道具箱を返してもらえ。 あの、棟梁、ガクが六枚、一両二分だ。 八百、足りない。 いいだろう、いいずくならば、只でも取れるんだ、八百ぐらい御の字だ、アタボウだってんだ。 アタボウって何だ? 当りめえだ、べらぼうめ、ってことだ。 相手は町役だ、長い物には巻かれろっていう、よくワケを話して、謝るんだ。 お屋敷には門限がある、早く行って来い。 棟梁はおっかないな、大家さんは、もっとおっかない。
与太か、何か用か。 店賃を受け取れ。 銭を投げ出しやがったな、婆さん、そっちに銭は飛んでねえか。 ガクが六枚、一両二分、八百足りねえ。 八百ぐらい御の字だ、アタボウだってんだ。 アタボウとは、何だ。 当りめえだ、べらぼうめ、ってことだ。 いいずくならば、只でも取れるんだ。 何を! この野郎! 何も、そんなに怒らなくても。 長い物には巻かれろで、犬の糞だ。 あと八百、持って来なければ、道具箱は返さねえ、とっとと帰えれ!
棟梁、駄目だった。 何だ、手ぶらか、銭だけ取り上げ婆アか。 取り上げ爺イだ。 アタボウが流行らないな。 大家の前で、やっちゃったのか。 ことのほか怒ったよ。 しょうがねえな、行くか。 お前、見送る気だな、一緒に行くんだ。 裏から、回るんだ。
棟梁さんじゃないか。 婆さん、お茶を淹れてくれ。 今もお前さんの噂をしていたところだ、親勝りだな。 裏の馬鹿が世話になって、すまないね。 お連れさんが、いらっしゃる? 裏の馬鹿か、面倒なんて見ることないよ。 仕事は、いい腕しているんです、番町のお屋敷で一年続こうって仕事が入りまして。 お腹も立ちましょうが、道具箱を渡してもらいたい。 そうかい、そうかい、あと八百は、どういうことに。 あとで、ついででもありましたら、お宅にお届けします。 婆さん、お茶はいらないよ。 ついででもありましたら、って何だい。 すぐに、お宅に放り込ませましょう。 銭を放り込まれたら、当って怪我をするかもしれない。 八百のことで、頼んでいるんです、あっしが頭を下げているんだから。
私は大家だよ、町役人だよ。 大きなツラをするんじゃない、あと八百、持ってきな。 大きな声で、そんな因業な。 大きな声は地声だよ、銭がねえなら、とっとと失せろ、渡せませんよ。
最近のコメント