桃月庵白酒の「だくだく」2010/11/03 07:16

 「白酒は、いま一番ホットだ」と、最近『現代落語の基礎知識』(集英社)と いう本を出した広瀬和生さんが言っている。 友人がくれた白酒・広瀬和生対 談が載っている雑誌のコピーを読んで知った。 たしかに白酒は、いい。 「だ くだく」も充実、白酒の体躯のように、はちきれんばかりだった。

 この会は収録があるのでこれでもメイクをした、と白酒、アナログとデジタ ルではあまり変わらないが、ハイ・ビジョンだと変わる。 見えすぎて、よろ しくない。 けっこう歳なんだとわかる。 最近は3Dが騒がしい、だから何 だっていうんだ。 寄席中継が飛び出て来る。 メガネが要るのが、まだまだ だ。 そんなのの、上を行くのが落語。 素晴らしい。 第一に、お客様の頭 の中で、ご通家だと、一瞬で風景が広がる。 第二に、偉い人が出てこない。  先生でも、いい加減な先生だ。 それが、人に勇気を与える。 みんな同じな んだと思わせる。

 「だくだく」の八っつぁん、店賃を1年と12ヶ月溜めて、大家に出てって やると、家財をバッタに売って、空きだなに移る。 何もないので、模造紙を 貼り、絵描きの先生を呼んできて、家財道具を書いてもらって、「そのつもり」 になる。 床の間、山水でなく字がいい。 「尖閣諸島は日本の領土」や「鬼 畜米英」じゃなくて「落語研究会 TBS」。 1億3千万円が見えている金庫、 上には小粋な時計、時間は3時に、見るたびお菓子になる。 箪笥は総桐、奥 光りで「ピカッ」、二三枚着物が出ている。 ラジオ、天気予報をやっていて、 吹き出しを描いて「台風接近中」「今だけ」。 羊羹は厚く楊枝を添えて、欅の 長火鉢、おでんが煮えている、玉子竹輪にがんも、鉄瓶から湯気。 座敷には 三毛猫、窓からは富士山、奈良の大仏、札幌の時計台、紅葉している。 長押 には槍を、描いてもらって、完成。 「どうです、羊羹でも」と言われて、絵 描きは帰る。

 その夜、間抜けな泥棒、近視で、乱視で、メガネ嫌いが、この家に入る。 箪 笥に手をかけて、突き指し、みんな絵と気付く。 そっちがあるつもりなら、 盗ったつもりになろうと、風呂敷を広げたつもり、帯源の帯、一斗の酒樽、藤 村の羊羹、ペルシャ猫を風呂敷に包んで、持ち上げたつもりになる。 起きた 八っつぁん、「お前だけ本物か」といわれ、投げ縄、吹き矢で攻撃したつもりに なると、泥棒も懐のけむり玉を破裂させたつもりとなり、長押の槍を取って、 泥棒の脇腹めがけてブスリと突いたつもり…。