柳家小はぜの「旅行日記」2025/11/07 06:59

 11月4日は、第689回の落語研究会だった。 柳家小はぜは二ツ目、柳家はん治の弟子、頭はつるつるだ。 陽気がよくなると、旅に出たくなる。 昔の旅は、歩きだからくたびれた。 旅籠(はたご)には、いい所と、そうでない所がある。 やっと着いたよ、もうじきだ。 足に肉刺(まめ)ができた、もうすぐ米が取れるよ。 なんだ、物置小屋か。 文句ばかり言うな、俺は気に入ってて、三度目だよ。 どうして、ここにするんだ……、味わい、風情がない。

 お花、表へ行け、誰か来たぞ、下駄を盗まれるといけない。 お客様です。 ようこそ、お出でなさいませ。 二人、やっけいになる。 お二人さんですか、勝手に二階にお上がりになって、好きな部屋へ。 言っとくけど、自分で灯りを点けて下さい、それを頼りに飯を運ぶので。 部屋を見つけた、灯りを点けろ、客間かい、これ。 天井はシミだらけ、壁が落ちて、畳はタタで、ミがない。 文句ばかり、言うな、食い物が旨えんだ。

 先一昨年、鶏鍋が軟らかくて旨かった。 あんまり旨いんで、お代わりをして、勘定もタダ同然、翌朝、お土産に鶏の佃煮をくれた。 翌年は、豚鍋が旨かった。 あんまり旨いんで、お代わりをして、勘定もタダ同然、翌朝、お土産に豚の佃煮をくれた。 去年は都合で来れなかったんで、三度目に、お前を連れて来た。 親父さんはいい人で、腹の中に何もない正直者だ。

 階段がミシミシ、主が来た。 ようこそ、お出でなさいやした、宿帳を持って来ました。 東京で質のよくない二人組の強盗が出ましたそうで、駐在が張り切って、ここへ来れば「袋の鼠」だが、変名を使うかもと…。 宿帳をお願いします。 顔色が変わらないところをみると、大物で。 俺は三度目、馴染だよ。 はばかりは、外後架で、そばに木の切り株があって、つまずいた。 それをご存知なら、まんざら、強盗ではなさそうで。

 先一昨年、鶏鍋が旨いと言った客だよ。 あんれまあ、鶏鍋出したのは、あん時だけ、よくお達者で。 患っていた鶏が、お陀仏になった、キンピラゴボウでも作ろうと思って、お花にゴボウを掘りにやったが、ゴボウは土の中で生きている、命あるものは大切にしたい。 軟らかい鶏で、旨え、旨えと食った。 軟らかいわけだ、長いこと患っていた、よくお達者で。 死骸だったのか。 死骸ではない、ひとりでにおっ死んだんだものだ。

 明くる年は、豚鍋が旨かった。 ハッ、あんれまあ、豚鍋出しやした。 因縁はあるものだ、豚鍋出したのは、あん時だけ、よくお達者で。 二年前、豚のコロリ病が流行った時、ウチの豚も義理堅くコロリ病に罹った。 役場が、郡山剛蔵先生(小三治の本名)を寄こして、大きい注射をぶったけれど、豚はぶっ死んだ。 キンピラゴボウでも作ろうと思って、お花にゴボウを掘りにやったが、ゴボウは土の中で生きている、命あるものは大切にしたい。 言いそびれて、心配していたが、大丈夫だ、大きい注射をぶったから、東京に着くまではもつだろう、と。 知らなかった!  強盗でないことがわかったから、晩のおかず、キンピラゴボウでも作ろうかね。

 お前、そんな目でみるな。 俺、先に帰るよ、気持悪い、倒れそうだ。 待ってくれよ、こんなところで、お前が具合が悪くなってみろ、お前が鍋になるよ。

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