春風亭一朝の「魂の入替」 ― 2025/12/04 07:16
噺家は暢気な商売で。 この噺、やり手がない。 どうしてやるか、研究会だから。 魂があると信じられていた。 「魂魄この世にとどまりて 恨み晴らさで置くべきか」と『四谷怪談』。 仏教の教えにもある。 亡くなると、天に昇るということがあるんだろう、などという。 驚ろいたことをいう、「たまげる」は、魂が消える、と書く。
魂は、人間の寝ている間に、外を散歩する。 この頃、不精になっていけないというので、魂協会が外を散歩する協定を結んだ。 寝ている人を、急に起こすな、と言う。 魂が、慌てて戻ると、戸袋の釘に引っ掛かって、戻れなかったりして、目を覚まさない。
どうかしら、もっと飲まないかね。 もう、十分頂戴しました、顔が赤くならないたちでして。 今晩、泊まってもいいよ。 家内は里に行っていて、私と山田の二人だから。 先生の前ですが、わしは鳶頭(かしら)、火事が起きたら、若い者が迎えに来る。 そうですが、今晩、ご厄介になりますか。 奥の八畳に布団を敷いて、ガーーッと寝た。
魂が散歩に出た。 鳶頭の魂と、先生の魂。 今晩はご馳走になりました。 わしは飲み足らん、どうだ吉原(なか)へ繰り込まんか。 吉原、お供しましょうか。 ワッと陽気に騒いでいると、下界が火事で、騒がしい。 オッ、あっしの町内だ、先に帰えります。 ところが、トチリ先生が入れ歯を外して、大口を開けて寝ていたもんだから、その顔を覗いていて、とんとんと先生の体に入ってしまった。 後から来た、先生の魂は、鳶頭の体に入ってしまった。
こんばんは! 開けて下さい! 若い衆が来た。 山田さんですか、鳶頭に顔を出してもらいたい。 呼んで来ます。 鳶頭、起きてくれ。 うん、いい心持だ。 山田ではないか、いかがした? 町内が火事です。 そんなことだから、お前は埒(らち)が明かない。 鳶頭、寝惚けた。 先生を起こしに、行って来い。 エッ! いい心持なのに、山田さんじゃないか、何です? 火事だ。 ちきしょう、おっかあ、刺し子を持って来い。 二人の目の色が違います。
医者を呼んで来る。 魂が、入れ替わった、急に起こしたためだ。 どうもおかしいと思った。 治りますか? 眠り薬を飲まして、頃合いを見計らって、起こせば、治ります。 鳶頭の魂、粗忽でいかん。 先生を覗いた、とたんに吸い込まれた。 先生の体の中はきれい、めったなものは飲み食いしない。 医者が来てから、身体がだるい、眠り薬の量が多すぎたのが効いてきた。 だるい、だるい。 下へ下がって、地面すれすれを行く。 落っこって、そこへ寝てしまった。
そこへ浅草奥山の若い衆が通りかかった。 「目が三つ、歯が二枚」と、鼻緒の抜けた下駄を放り出しておくような見世物小屋、新しいネタ探し中だった。 何だ、白くてブヨブヨ、グーーッと、言っている。 やったー、魂じゃないか。 持って帰って、ギヤマンの箱に入れて見世物にしよう、と風呂敷に包む。
先生を起こしても、鳶頭を起こしても、起きません。 強く起こしても、起きない。 先生は、グーーッ! 鳶頭は、グーーッ、エヘヘ! 困りましたな。 眠り薬が魂にまで効いて、道に落っこって、犬に食われたら、医学ではどうにもならん、ごめんよ。
山田さん、苦しい時の神頼みです。 祈祷師を呼んで、「妙法蓮華経、妙法蓮華経、どうぞ、二人の魂を戻らせ給え」。 奥山の若い衆、知らない道、知らない道へと入り込んで、先生の家の前へやってきた。 祈祷師の声が聞こえる。 アッ、そうか、この家のか、魂は。 しょうことないな、こちとら江戸っ子だ、そっちへ帰してやろう。 魂は、丸窓へ飛んで行って、下へスーーッと落ちた。 井戸の中へ、ドブーーン! 「ドンツク、ドンドン、ツクツク! どうぞ、二人の魂を戻らせ給え」。 魂が、ドンプク、ドンドン、プクプク!
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