三遊亭萬橘の「藪入り」前半2025/12/05 07:08

 どうもありがとうございます。 もう、あと一席、すぐ終わります、ちょっとの間、辛抱してください。 (客席を見廻して)ぜひ受けたいという気持で、空席があるかどうか見る。 受ける日もあれば、受けない日もある。 この景色を見て、受けない気がする。 悪意はない、楽しんで帰ってもらいたい、お互いに楽しい、研究になっていなくても。 共感力がないんですか? 受けないと、心が死にます。 帰りの電車の中でも、死んだまんま。 家に帰って、家族といても、うとまれる。 すべった後は、食べ物を挟んで、口に運ぶだけ。 ミニトマトを食べたら、こっちに座っていた娘が、「お父さん、下手!」。 心は二度死ぬんだ。 娘は育って、恐ろしいことになってくる。

 家族でスカイツリーの水族館へ行った。 小さくて、大したことのない水族館を、一回り。 「お弁当買って帰るのは、どうでございましょう」、と提案した。 かみさんが、「いいんじゃない」と言ったので、楽になった。 中華、天ぷら、和食などのエリアがある。 小6の娘が、一直線で、刺身の前へ行った。 今までどんな気持で水族館にいたのか。 一番高いのを、娘は選ぶ。 かんぴょうやキュウリでなく。 今日一日の尊敬の言葉を浴びたい、お金払って。 一番高いのを買ってもらって、有難うと言わせたい。 二階の倅の部屋にゴキブリが出た。 受験生なのに、寝られない。 ゴキブリスプレーを持ち、ベッドの下まで潜って、やっつけた。 かみさんが娘に、「お父さん、汚れているから」と言ったら、コロコロで躊躇なく、私の顔をベリベリとやった。

 おい、おっかあ。 何だい。 今、何時だ? 12時少し回ったところ。 明日帰って来るんだ、亀が…、三年勤め上げた。 三年ぶりだ、勤め上げて。 隣の長吉には出来ないことだ。 当り前だ、生まれてまだ二日だよ。 俺に似ているんだ、大したもんだ。 大吉と中吉と、どっちがえらい。 新吉ってのはないな、裏の息子だ。 今、何時だ? まだ1時ですよ。 ゆんべの今頃は、もう夜が明けていた。 あいつが奉公したのは吉兵衛さんのおかげだ。 挨拶に行かなきゃな。 赤坂の伯父さん、品川の伯母さんのところにも。 亀ちゃんに海を見せたほうがいい。 出世前だもの、鎌倉、富士山、三島で鰻食う、博多から韓国へ。 そんなに、行けないよ。 ちゃんとお土産買って来るから。 寝ておくれ、着物を繕ってるんだから、古着。 食いもんだな、好きな物ばかり用意するんだ、納豆、鰻中串を三本、マグロ中トロ、お稲荷さん、ライスカレー……、お汁粉、上からかけさせてやれ。 残飯だよ。 今、何時だ? 2時半だよ。 大したもんだよ、三年勤め上げて。 帰ろうとすると、キツネ面した質の悪い番頭がいて、用事を言いつけたりするんだ。 子供らしさ、なくすと困るな。 あいつだから、やっていけると思う。 寝なさいよ。 静かにしろ、♪静かな、静かな、里の秋……。 うるさいね。 勝負するか。 帰って来て、どっちの首っ玉に飛びついて来るか。

 今、何時だ? 白々明けてきたよ。 箒はどこにあるんだ。 どうすんの。 表を掃いておくんだ。 角を曲がって、帰って来るんだ。 いたずらしてやろうか。 どちら様で? って言って。 家の中にほこり掃きこまないでおくれよ。

 みんな並んで、何があったんだ? 珍しい、熊さんが家の前を掃いているんだ。 今日は何? 亀ちゃんが帰って来る日だ。 はしゃいでいるんか。 熊さん、お早う、いい天気だね。 下々の者とは、付き合わねえ。 亀ちゃんが帰って来るんだって。 まだ、帰ってねえ。 うろうろしてると、箒で打つぞ。 冗談じゃない。 (おかみさんが)お怪我はございませんか。 大丈夫だ。 お前さんは、奥で煙草でも喫ってればいいんだよ。 亀んところへ、なかなか帰さない、キツネ面の番頭を張り倒しに行くか。