瀧川鯉昇の「質屋蔵」前半 ― 2025/12/16 07:09
去年の新年会の疲れが、まだ取れない。 何年か続く夏の暑さに、鞄がつかめない、熱中症だと言われた。 水分と塩分が足りないというので、塩をなめて、水をガブガブ飲む。 4、5時間で、手が開きっぱなしになった。 ジャンケンをする機会があれば、相手はハサミを出せば、間違いなく勝つ。 健診が変わっている、器械がよくなって、なんでもコンピューターだというが、何者かわからない。 聞けば、元の考え方は二進法だという。 ニシンといえば、北海道。 サンシンといえば、沖縄。 医者は、誤診法。 健診が早く終わって、病院で昼飯が出る。 お銚子は、つかない。 先生に呼ばれて、結果を聞く。
頭のレントゲンを撮ったら、中身がない。 裏庭の景色が出る。 先月から、夜中にトイレに行く数が多い。 そして、一度も行かない日が来た。 何もやっていないのに、正常になった。 医者は、循環して排泄するので、循環しないのは、死んでる。 仮眠状態、冬眠しているんじゃないか、と。 そういえば、7日前から、ドングリが食べたくなった。
名古屋で、一度亡くなったお婆さんが、十何時間後に生き返った。 葬儀の相談をしている最中だったので、みんな驚いたが、力を落とした人もいた。 お婆さんの話では、暗いトンネルの向こうに、針孔ほどの光が見え、それが出口で、目を開けたら、みんながいたと言う。 研究者がコメントして、これを専門用語で「生還トンネル」と言う、と。
鎌倉から逗子に抜ける隧道に、27、8の幽霊が出ると聞いた。 聞いてから30年経つから、57、8になっているはずだ。 その隧道では、いつも大事故があり、全員死んじゃう。 その幽霊が出るという話は、誰から聞いたのか?
番頭さん、お店(たな)のことが噂になっているそうだが、聞いてないか。 銭湯でみんな、私の顔を見て、話を止めるんだ。 丑三つ時になると、うちの三番蔵に化け物が出るらしい、という噂だ。 質屋の商売に障りになる。 一晩、三番蔵の前の座敷で、見張ってもらいたい。 私は当家に十二の年からご奉公してきましたが、お暇を頂きたい。 命あっての物種で。 質屋は、親の形見だなどという品物を預かっている、利息だけ払って期限を延ばす、利上げが出来なければ、泣く泣く流させざるを得ない。 そういう気が、集まっているのだ。
背負い呉服屋が、長屋に品物を広げる。 見る正月、見る法楽だが、おかみさんが欲を出して、帯をもらいたい、と。 五円だが、家にない。 二か月先で結構。 亭主には三円で話をすると、もらっといたらよかろう、と言う。 差額の二円に困る。 寝酒の酒を薄めたりして、二円のヘソクリをつくり、帯を手に入れる。 亭主が青くなって、帰って来た。 どうしても二円足りないので、なんとか按配できないか、と言う。 帯を質屋へ持って行くだろう。 ウチの蔵には、そういう物が詰まっているんだ。 人間は、病の器(うつわ)という。 そのおかみさんが風邪を引いて、亭主が一日、二日、看病し、妹を呼んで来る。 食が細くなる。 駄目かしら、どんどん悪くなる。 形見の品、いい帯、質屋の蔵にある。 思えば、質屋が恨めしい。
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