春風亭一之輔の「もう半分」前半 ― 2026/06/02 07:16
一之輔が出て来るまで、つなぎの出囃子がとても長かった。 前回の桂宮治の「江島屋騒動」の時と同じく、場内が暗くなった。 一之輔が出て、電球が切れたわけではありません、と。 本所林町の粗末な煮売り酒屋、ちょっとした小上りがあって、五郎八茶碗一杯八文で売る。 今夜はやけに蒸しやがる、降り出して来やがったぜ。 おっかあ、雨だ。 お前さん、客も来ないから、こっちに上がって一杯やったら。
ごめんくだせえまし。 一人の年寄、痩せて色の浅黒い、頬骨が出て、目のギョロリとした、黄色い歯を二、三本のぞかせ、東海道五十三次、つぎはぎだらけの着物を着て、まだ、よろしゅうございますか、と。 とっつあんかい、しょうがないな。 半分、頂きたい。 ああ、旨い。 いやに辛い、いつもの樽と違いますか。 こちらのお酒は下りで、おいしゅうございますな。 お代は同じで。 もう半分、頂きたい。 意地が汚いんでございましょうな、半分ずつ、数頂くと、たんと飲んだ気がする。 もう半分、お願いします。 今日は、荷がないんだな、休みかい。 ちょいと、用がありまして、お店のある方は、幸せで。 掘っ建て小屋だ、一文、二文の商売だから。 もう半分、頂きたい。 デェコの煮えたのがあるが、どうだい。 客に出すんじゃない、父っつあんの歯でも大丈夫だ。 これは、よく煮てありますな、こうして煮て頂くと、商売冥利につきる。 もう半分、頂きたい、これで仕舞にします。 勘定はいつもの通りでよろしいんで。 お鳥目はここに置いておきます。 この暑さ、酒の力がないと寝ることもできない。 また、お出でなさい。
父っつあん、包みを忘れて行った。 汚ねえ包みだなあ、やけに重いぞ、金が入ってる。 五十両じゃないか、よくせんのことだ、届けてやろう。 お前さん、黙ってりゃあ、わからない。 もらっておきなよ。 そうだな、箪笥の裏へ放り込んでおけ、家探しされてもいけない。
ごめん下さい、すみません、包みがありませんでしたか。 そんなものはなかったな。 大事の金で、自身番にお届をすると、こちらの店の名前も出さなければならない。 いくらあったんだ。 耳を揃えて五十両。 手前エ、俺の家を強請りに来たのかい。 市で仕入れた大根や小松菜を商って、四十文、五十文の稼ぎなんだろう。 はなからお話しなければなりません、私は深川八幡の前で青物問屋をしていましたが、後引き上戸で身を持ち崩し、去年の暮、女房が病みついた。 女房の連れ子で十九になる娘が、私がなんとかする、吉原という所へ売ってもらいたい、と。 仲之町の朝日丸屋で百両の値がつき、諸々引きで五十両出してくれた。 あれがないと、娘に合わせる顔がない。
もう一度、見て頂けないか。 そんな大事な金、なぜ体から離した。 もう飲まないと約束をして、飲んだ私が悪いのでございます。 そんな包みはなかったよ。 どこかで落としたんじゃないのか。 すみませんでした。
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