物がたり「天平の籠」 ― 2006/02/19 08:23
白洲正子さんのコレクションに、天平時代の華籠(けこ)がある。 華籠とい うのは、お寺で散華の時に蓮の花片を入れる籠。 高さ4.8センチ、径20.5セ ンチ、細い華奢な竹で粗く編んだ、浅い笊(ザル)のようなものである。 縁が 天平の錦で巻いてあり、持つと空気のように軽いという。 壊れやすいから、 たいていは破れているのに、珍しく完全に残っていたもので、原三渓の旧蔵、 立派な二重の木箱に入って、東京の骨董屋さんで見つけたそうだ。 さぞ、高 かったろう。
近江・琵琶湖周辺の「かくれ里」の地を歩いた細川護煕さんの二回目にも出 てきた話だが、その華籠を買ってすぐの頃、白洲正子さんは堅田の佃煮屋で、 小魚を入れる籠、そのまま釜にいれて煮ている籠に、目をつけた。 遠くから 見て、いい味の籠だと気がついたのだ。 「ゆずって頂戴」と頼むと、「新しい 籠ができるまで待って下さい。できたら電話をかけますから」という。 半年 ぐらい経って電話があり、いつでも取りに来ていいというので、すぐ貰いに行 き、「こんな使い古した籠、ただでよろしい」というのを、無理やり千円か二千 円置いてきた。 毎日水をかけたり干したりして、魚のにおいを抜くのに一年 近くかかったが、竹の細さも籠目の編み方も、天平時代の華籠と同じことで、 白洲さんは伝統というものはこういうところに残っていることを知った。 佃 煮屋さんの親切とともに、忘れられない貴重な買いものだと、白洲さんは書い ている。
骨董には、その物にまつわる思い出やエピソード(物語)がついて、価値が出 るものもある。 『白洲正子 私の骨董』には、二つの籠の写真が見開きで収 録されている。
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