AIに代替され得ない人間の役割は何か2026/04/30 07:06

 「AI浸透「配転・人員減に影響」 活用前向きな企業2000社の半数近く」(朝日新聞27日朝刊)。 生成AI(人工知能)の広がりが働き方にどんな影響を及ぼすのか。 東京商工リサーチが約6300社を対象に行った調査で、AI活用に前向きな企業約2千社のうち半数近くが、今後5年で業務の効率化による「配置転換」や「従業員の抑制」を行う可能性があると回答した。 AIによる雇用への影響は、大企業のホワイトカラー層により大きく出るのではないか。 事務や企画などのオフィスワークをAIに代替させることで業務をスリム化し、その分の人材を営業力強化などに振り向けようとする動きも相次ぐ。

 「防衛費増・AI活用 論点 安保3文書改定 有識者会議初会合」(朝日新聞28日朝刊)。 政府は27日、日本の外交・安全保障の基本方針となる国家安全保障戦略などの安保関連3文書の年内改定に向け、有識者会議の初会合を首相官邸で開いた。 高市早苗首相が掲げる「防衛力の抜本的強化」を進める狙いで、防衛費の増額やその財源のほか、ドローンやAI(人工知能)の防衛分野への活用などが主な論点となる。 ロシアのウクライナ侵略で注目を集めたドローンの使用やAIの活用といった「新しい戦い方」への対処や、武器の供給を絶やさずに戦闘を継続する「継続能力」の強化なども主な論点となる。

 「AI活用で変わる戦争 人間の判断と責任 問い直しを」政治学者、谷口将紀さん(東京大学公共政策大学院長・教授)の『論壇時評』(朝日新聞29日朝刊)。 科学社会学者の横山広美は、完全自律兵器の開発や自国民監視といった「レッドライン」をめぐる攻防を描き、安全保障の領域では既存の規制が揺らぐ中で、技術開発者が倫理的な防波堤としての役割を担わざるを得ない現実を指摘する。(中央公論5月号) AIに代替され得ない人間の役割は何か。三菱総研の飯田正仁は、AIの進化が人間に残る役割をむしろ際立たせるとし、善悪の判断やプロセスの意味付けの重要性を強調する。(週刊エコノミスト4月14・21日合併号) 元人工知能学会長の松原仁もまた、AI時代の理想は人間の不要化ではなく、問いの設定や合意形成、責任の引き受けといった営みへと時間を振り向けることにあると説く。(Voice 5月号)

AI駆使のサイバー攻撃、金融への脅威は喫緊2026/04/29 07:04

 「金融 新型AIから防御へ 担当相・銀行首脳 協議」、4月25日(土)の朝日新聞トップの見出しだ。 基幹インフラへの大規模なサイバー攻撃に悪用されかねない、米国新興企業アンソロピックが開発した新型AI「クロード・ミュトス」に対応するため、片山さつき金融担当相は24日、金融業界のトップらを集めた官民連携会議を開き、新たな体制づくりを決めたという。

 「クロード・ミュトス」は、サイバー攻撃で「穴」となるソフトウェアやシステムの弱点を見つける能力を飛躍的に高めて、専門家が長年見つけられなかった弱点を簡単に見破ったという。 アンソロピックは、攻撃側の手に渡った場合に「サイバーセキュリティのあり方を一変させる」として一般公開を取りやめた。 米当局が米銀行大手首脳と緊急会合を開くなど、各国で緊張感が高まっている。

 金融庁で開かれた官民連携会議には日本銀行の植田和男総裁、3メガバンクの頭取、日本取引所グループの首脳らが集まった。 AIを駆使したサイバー攻撃の脅威に対応するため、作業部会を官民会議の下につくることを全会一致で決めた。

 会議後に取材に応じた片山さつき金融担当相は、金融システムへのサイバー攻撃について、「広がりが他の業界とは比較にならない。直ちに市場に影響し、信用不安まで波及し得る」と指摘、ミュトスを含むAIの脅威を「今そこにある危機」と語ったそうだ。

 邦銀大手幹部は「攻撃を受け顧客情報などが漏洩すれば、システムをシャットダウンして、取引は全て現金でやりとりせざるを得ないかもしれない」と警戒する。 銀行業界はセキュリティ対策を急ぐが、のしかかる費用は膨らむばかりで、体力の乏しい地域金融機関はシステム投資についていけなくなるおそれもあるという。

 AIを駆使したサイバー攻撃の脅威は、金融にとどまらない。 電力、通信、鉄道、空港などの基幹インフラが攻撃を受け、サービスが停止すれば、経済活動や日常生活に甚大な影響が及ぶ。

終戦直後のプロ野球リーグ戦2026/03/15 07:24

 鴨下信一さんの『誰も「戦後」を覚えていない』の、「復員野球―幻影も一緒にプレーしていた」の続き。 プロ野球のリーグ戦が再開されたのは、昭和21(1946)年からで、8チームだったそうだ。 私は5歳だから、覚えていない。 成績順に、
  グレートリング
  巨人
  阪神
  阪急
  セネタース
  ゴールドスター
  中部日本
  パシフィック

 グレートリングはすぐ南海ホークスと名が変る。 なんでも進駐軍の兵士がこの名を聞いて大笑いしたからだそうで、日本人が〝大きな車輪〟(親会社が電鉄だから)の意味でつけたこの名前、あちらでは何やらアヤしい意味があるらしい。 いまは福岡ソフトバンクホークスだ。 阪急ブレーブスはいまのオリックスにつながり、セネタースは親会社が東急・東映・日拓と変って、そのたびチーム名も変るのだが、現在の北海道日本ハム・ファイターズがその流れをくむ。

 ゴールドスター、ここは毛色が変っていて親会社のスポンサーを持たずに出来た新チームだった。 このゴールドスターの金星が、「国民リーグ」(国民野球連盟、昭和22(1947)年に生まれた4チームの、それまでのプロ野球組織とはまったく別のリーグ。)の大塚アスレチックスを吸収して、それをまた映画会社の大映を親会社とするチームが吸収合併して……この時代のプロ野球は目まぐるしく変る。

 パシフィック、この球団は太平パシフィックから太陽ロビンスとなり、大陽ロビンスとなる。 大阪の糸ヘン問屋(繊維を扱う)の田村駒次郎(駒鳥=ロビンス)がオーナーで「太」から「大」にしたのは、これで〝点がとれる〟というオマジナイ。 昔はこんなトボケタところがあった。 ここにやはり映画会社の松竹が資本参加して松竹ロビンスとなる。

 松竹・大映・東映と、この時期隆盛をきわめていた映画産業が積極的にプロ野球経営にのりだしてくる。

 「国民リーグ」は、昭和22(1947)年の1年しかもたなかったそうだが、4チーム。
 宇高レッドソックス…自動車のクラクションを一手に製造して大いに金を儲けた宇高産業が母体。
 唐崎クラウンズ…戦時中海軍に清涼飲料水をおさめて財をなした唐崎産業が親会社。
 大塚アスレチックス…ここは洋傘の骨で儲けていた。
 その他、グリーンバーグという、どう調べてもわからないが広島の鯉城園というクラブ・チームから生れた球団らしい。 これはすぐ茨城県結城の実業家がひきとって結城ブレーブスとなる。

 「国民リーグ」が1年しかもたなかったのは、球場難や観客動員にも問題があったのだが、それよりも親会社が続々経営難になった。 なんでも、プロ野球を持てるくらいならさぞ儲かっているだろうと税務署が多額の税金を課したからだという。 なんとなく当時の世相がほうふつとしてくる。

 ウィキペディアの「国民野球連盟」に詳しいことが書いてある。 夏季リーグ30試合、秋季リーグ21試合が行われ、夏季の順位は結城ブレーブス、大塚アスレチックス、宇高レッドソックス、唐崎クラウンズ、秋季の順位は大塚アスレチックス、結城ブレーブス、熊谷レッドソックス、唐崎クラウンズとなっている。 7月15日に試合のあったルー・ゲーリック・メモリアム・スタジアムは、進駐軍接収中の横浜公園球場だ。

「新自由主義」の再検討、米国の場合、日本の場合2026/01/04 07:31

長谷川貴彦さん、北海道大学大学院教授のインタビューのつづき。 「新自由主義」の再検討は、英国だけでなく、米国も同様のプロセスをたどっている、と言う。 70年代にはベトナム戦争による財政赤字、グローバル化と産業衰退による貿易赤字などによって危機の時代を迎える。 それらを背景にして、「新自由主義」を掲げる大統領レーガンが登場した。 「新自由主義」の政策は、民主党のクリントンからオバマに至る大統領にも共有された。 だが、都市と地方、上中流階級と労働者階級の格差が拡大した。 そしてリーマン・ショックが発火点となり、産業衰退地域などを支持基盤とするトランプが当選することになる。

米国の歴史学でも「新資本主義史」という新たな動向がある。 資本主義が奴隷制や人種主義に組み込まれていたことなど、現在の「新自由主義」的な資本主義に批判的な視座から歴史を研究し、教育する潮流だ。(『アメリカ史とレイシズム』<等々力短信 第1197号 2025(令和7).11.25.>参照)

このような「新自由主義」の再検討は、現代の日本社会にどんな示唆を与えるか。 日本の「新自由主義」は、二段階のプロセスで進行したと言える。 80年代にはサッチャーやレーガンの影響を受け中曽根政権が、国鉄の分割民営化などを断行した。 当時の日本は経済の絶頂期にあり、革新自治体や労働組合潰しといった政治的意味合いが強かったと思われる。 次は2000年代の小泉構造改革で、郵政民営化を強行しただけでなく、自己責任論が強調されるようになった。 「新自由主義」が単なる政策体系としてだけでなく、「自己責任」という価値観として人々の内面に浸透していったことが、日本社会では特筆されるべき点かもしれない。 社会で成功できないのは自分の努力が足りないからだと本人が納得してしまうことで、現行制度に対する抵抗や異議申し立てが起こりにくくなる傾向がある。 これは大規模な社会運動が起きにくい日本の現状に関連しているかもしれない。 「新自由主義」の政策はやがて行き詰まるが、それへの有力な対策が出てきていないこともあり、日本ではその後も、内面化した人々がこれを支え続けていく。 「新自由主義」的な精神構造は長続きすることになりそうだ。

現代史の「常識」見直し、「サッチャー改革という物語」2026/01/03 07:07

 最新の歴史研究によって、現代史の「常識」見直しが進んでいるという新聞記事に、目を見開かされた。 その一つは、12月19日の朝日新聞インタビュー、歴史学者の長谷川貴彦さん、北海道大学大学院教授の「サッチャー改革という物語」だった。

 第二次世界大戦後、英国では労働党政権によって福祉国家が確立され、国民は「ゆりかごから墓場まで」と称された社会保障を享受した。 ちょうど、その頃、私は経済学部でそういう話を聞いていた(1964年卒業)。 しかし1970年代に入ると、それが経済的な非効率や硬直性をもたらし、深刻な衰退を招いた。 袋小路に陥った英国に登場し、危機から救ったのが、79年就任のマーガレット・サッチャー首相による、新自由主義だった。 というのが、今でも繰り返し語られる「成功物語」で、多くの人の頭に染み込んでいる。

 ところが近年、長谷川貴彦さんによると、それが見直されている。 2008年のリーマン・ショック、16年のブレグジット(英国の欧州連合離脱)と米大統領選の衝撃を経て、17年にロンドンで開かれた研究集会「英国のネオリベラリズム再考」以降に、再検討が進んだ。

 「常識」は、二つの物語から構成されている。 一つ目が、戦後の社会民主主義、福祉国家、ケインズ主義は「失敗」であり、その結果、「衰退」がもたらされたという認識だ。 二つ目は、新自由主義の政策的な「成功」という物語だ。 サッチャー政権は、個人の自由を基礎に、国有企業の民営化や労働組合への規制強化、金融市場の自由化などを断行し、それにより英国は景気循環から解放され、持続的な経済成長を成し遂げたというものだ。

 まず「衰退」の物語。 当時の政治家やジャーナリズムは「衰退」の物語を強調したけれど、経済は70年代にかけて成長し、生活水準も向上していた。 歴史家のジム・トムリンソンは、むしろこの時代を、経済成長を遂げた黄金時代の一部と捉え、さらに英国が経験したのは、「衰退」ではなく、「脱産業化」であるとも言っている。 経済の構造変化を捉える重要な視点である。 従来の基幹産業だった鉄鋼業や造船業などが競争力を失って、製造業の拠点が海外に移り、経済の主軸が金融サービスなどの第三次産業へ移った。 これにより、基幹産業で働いていた労働者たちが、職を失ったり、より賃金の低いサービス業に移らざるを得なくなったりして、人々の皮膚感覚として「衰退」として認識されやすかった。 だが、これは後に多くの先進国も体験する構造転換だった。 なのにそれを労働組合の存在や公共部門の拡大が招いた「衰退」とするのは、福祉国家の「失敗」を強調したい人々によるイデオロギー的な虚構であり、それが実態を見る際の阻害要因になってきた、と指摘されるようになった。

 「新自由主義」の「成功物語」も再検討され、サッチャリズムの改革も、実は戦後の福祉国家が築いたストックや遺産を前提として成立したという評価が有力だ。 公営住宅の個人への売却を進めた政策も、公営住宅を大量に建設した福祉国家時代があってのことだった。 脱産業化で膨れあがった失業者を支えたセーフティーネットも、福祉国家時代の政策によるものだった。 つまり、前の時代に蓄積された社会インフラや制度のストックがなければ、サッチャリズムの改革による生活への打撃はより深刻なものになっていただろう。 この観点からすれば、「新自由主義」の「成功」は、福祉国家の遺産に寄生していたことになり、その持続可能性に疑問符がつけられている。