半蔵門ミュージアムの大日如来坐像 ― 2026/05/02 07:03
半蔵門ミュージアムというのは、運慶作と推定される大日如来坐像(重要文化財)を所蔵することになった仏教教団の真如苑が、仏教美術を中心とする所蔵の文化財を一般公開するためにつくった文化施設だ。 行ってみて、立派なビルなのに驚く。 受付で入場無料と聞き、つい昔広尾の真如苑の前に住んでいたと言ってしまった。 フランス大使館の公邸だったのを真如苑が手に入れ、熱心な信徒が大勢通って来て、周辺をきれいに掃除しているのを見ていた。
半蔵門ミュージアム、地下に展示室、1階にギャラリー、2階にラウンジやミュージアムショップ、そして3階にシアターがあり、ちょうど大日如来坐像についての解説を上映中というので、まずそれを観る。 大日如来坐像は、鎌倉時代前期に活躍した仏師運慶の作品と推定され、とくに運慶が文治5(1189)年に造った神奈川県横須賀市の浄楽寺阿弥陀三尊像と、「上げ底式内刳り」と呼ばれる技法や、運慶が時期を限って使った水晶やガラスの玉眼(ぎょくがん)でも、共通しているという。 「上げ底式内刳り」は、材料となる原木を像の形に彫り、それを刳(く)り抜いて、前面と後面に分割、最終的に張り合わせ、中に物を納め、上げ底で密閉する。 中に納めてあったのは、五輪塔形の木札や、仏像の魂といえる心月輪(水晶珠)だった。
その映画の「五輪塔形の木札」の解説で、昔のお墓や供養塔でよく見かける「五輪塔」の意味を初めて知った。 下から、四角、球、三角、半球、宝珠形になった石塔で、地、水、火、風、空を意味する。 改めて『広辞苑』を引くと、「五大にかたどった五つの部分からなる塔。下から地輪は方(四角)、水輪は球、火輪は三角、風輪は半球、空輪は宝珠形。平安中期頃から供養塔・墓塔として用いた。石造が多く、金銅・木・泥土などでも造った。五輪卒塔婆。」とあった。
半蔵門ミュージアム、ほかにガンダーラ仏伝浮彫、醍醐寺ゆかりの如意輪観音菩薩坐像などを常設、さらに曼荼羅、仏像、仏画、経典、絵巻などを定期的に入れ替えながら展示している。 折から『富士山 花と雲と湖と』展開催中で(5月10日まで)、横山大観、片岡球子、田崎廣助、川崎春彦、平松礼二、笹島喜平などの、いろいろな季節の「富士山」を見ることができた。(毎週月曜・火曜休館)
七つの時から、おさんどんをして料理を覚える ― 2026/04/24 07:03
後日、田ノ上ヨネ子が口述筆記に、北鎌倉を訪れる。 春子と使用人の松山(満島真之介)が迎え、どうかと聞く春子に腕と肩が筋肉痛だと言う。 いつもの部屋で待たされていると、魯山人が聞いているラジオの音がする。 ちょっと覗くと、魯山人は泣いていた。 「あんた、部屋を覗いたな、顔に出ている。」 「すみませんでした。」 「正直でよろしい、好奇心があるのもよろしい。」 「あんた、何が知りたい?」 「世間で、傍若無人、傲岸不遜と虫けらのように言われる北大路魯山人が、どのように出来たか、知りたいのです。」 「あんた、はっきりしていていいな。」
「生れは、京都上賀茂や、調べて知っているだろう。私は、捨て子や。父も母も知らん。房次郎という名前だけある。三つの時、真っ赤な躑躅(つつじ)を見て、美しいものを探すために生れてきたんだと思った。それから里親を何人か転々として、ようわからん。叱って棒で打つ、錯乱した中年女の醜い顔が目に浮かぶ。」
番組は、モノクロの小さな画面になる。 「そんから、木版屋の福田家にもらわれ、やっと福田という苗字がついて、福田房次郎になった。福田の家で、役に立つ人間になろうと思って、おさんどん、台所仕事を自分から始めた。」 房次郎が、かまどで薪をくべて米を炊き、福田の父、母と食事をしている。 父親が飯を食い、「美味い、美味すぎる。一等米を買ったのか?」と怒る。 母親が「三等米の金しか渡してません。」 問い詰める父に、房次郎は「何種類かの三等米を少しつくね混ぜて、水切り時間をきっちり計って、強う炊いたら、美味しくなります。毎日ここで勉強させていただきまして。」 画面には、いつの間にか、色がついていた。 「何か、褒美をやろう。」 「釜についたオコゲをください。」 「オコゲか、なんぼでも食え。」
「食べ物に執着して、道端の野草や、田圃のタニシでも、美味しいものをつくった。福田の親の喜ぶ顔が見たくて。」
ヨネ子が、「実のご両親のことは」と聞くと、魯山人は席を外してしまった。 三十分、永遠かと思われる時間が流れて、いい匂いがしてきた。 ヨネ子の腹が鳴る、立って行くと、魯山人がかまどに薪をくべてご飯を炊いていた。 「覗いてないで、こっちきいや。お米も水も毎日違う、真心込めて炊くんや。オコゲが出来るほど、強く炊いたら美味しくなる。あんた、オコゲが好きか。」 「好きです。」 魯山人は、皮のある何か(?)を削って、オコゲの茶づけを作ってくれた。 胡瓜とシラスの和え物を添えて。 ヨネ子は、魯山人の目の前で、それを食べる、ニコニコしながら。 「ご飯は、最高の料理なんや、私がつくり、あんたが食べるんや。あんた、食いしん坊やな、これ持って帰れ」と、小さな風呂敷包みを渡した。
家に戻ってヨネ子がそれを開けると、楕円の赤い塗り物の弁当箱に、握り飯、タニシの佃煮、沢庵が入っていた。
魯山人、吉田茂首相を唸らせる ― 2026/04/23 07:10
魯山人の家のことをしている使用人の春子(中村優子)が北鎌倉の畑で、「♪桑港(サンフランシスコ)のチャイナタウン 夜霧に濡れて 夢紅く 誰を待つ 柳の小窓 泣いている 泣いている おぼろな瞳 花やさし 霧の街 チャイナタウンの恋の夜」と歌いながら、茄子や獅子唐を収穫して、大磯の吉田邸へ。
吉田邸では、吉田茂首相(柄本明)が、「ようこそ、大磯まで」と北大路魯山人を迎え、手を出して握手する。 そして「傍若無人、人を人と思わぬ北大路何とかという人の料理を食べてみたくてね」と。 魯山人も、「私のほうこそ、マッカーサーとやりおうて、ふだんは人を食って生きている、吉田ナニガシという方に料理をつくること、ほんま嬉しいですね。」 「私に似て、口が悪い。」 「貴方こそ、私の真似をしていらっしゃる。」
台所で、魯山人は弟子の板前に、「吉田さんはイタリアやイギリスが長いから、白葡萄酒がお好きだろう、前菜は鶏肝と味噌を和えて」と。 そこへ、京丹波和知川の鮎が届く。 田ノ上ヨネ子は、もうフラフラ、台所に倒れ込んで、寝てしまう。
魯山人は、吉田茂に、「おこんだて」と書いた紙を渡す。 「前菜 鮎しおやき 鮎いろいろ お茶づけ 北大路魯山人 吉田茂様 御侍史」 吉田は「温かい字だ、良寛さんがお好きか。字には全てが表れる、よい字を書こうとすると、さもしい根性まで表れる。」 魯山人は「そうですな。おのれ以上のものは出来ません、料理と同じです。」
吉田は、白葡萄酒のマルゴー1937を出させる。 茄子や獅子唐、菊の葉で飾られた前菜、「このパテは何だ?」 「味噌と鶏肝で。」 「日本の食べ物は、ヨーロッパ以上だな。」
台所では、竹串を打った鮎二匹が焼けた。 まだ寝ているヨネ子を跨いで、レモンを添えた鮎を吉田に出す。 魯山人も、吉田の前でビール瓶の栓を抜いて、飲む。 「お手に取って、腹からガブリと」 「ウーーン! 美味い、何だこれ?」 「鮎です。」 「そのビール、もらえるか?」 「わかっていらっしゃる。」 「美味い!」 次は、蓼(たで)酢につけて、齧る。 「ウーーン!」 魯山人も、鮎を齧る。 吉田は「もう、一匹焼いてくれるか。」 「ありません、これっきりです、すみません。」 「どうぞ」とビールを注ぎ、二人でビールを飲む。
台所で、鮎を焼きますかという弟子に、「焼かない。二匹目は、一匹目より美味しゅうはならん。」と言い、「もう一匹だけ焼いとってや」。
吉田は、「なぜ鮎がこんなに美味いのか」と、聞く。 「京都丹波の和知川の鮎の美味さは、腸(はらわた)にございまして、釣ったらすぐ、その腸を揺れないようにして、生きたまま大磯まで運びました。蓼は近所の川で取りました。今日の料理は、私が作ったというものではなくて、自然が育んだものを、美味しく頂戴しただけです。エヘヘヘ!」 「参った。料理は、いつ覚えた?」 「七つの時から、京都でおさんどんをして、吉田さんのような王子でなく。」 「王子と乞食か」 「王子と捨て子で」 「魯山人、口は悪いが、料理は本物だ。」 「吉田茂はんの、舌も口も大したもんでございます。」 「今度、金を持っている奴らを行かせることにするから、頼む。」
台所でようやくヨネ子が目を覚ます。 腹が鳴る。 弟子が「先生からです」と、一匹だけ焼いた鮎を差し出し、ヨネ子はそれにかぶりつく。
『魯山人のかまど』初夏編、星岡茶寮、京丹波和知川の鮎 ― 2026/04/22 07:01
「♪ラメちゃんたらギッチョンチョンでパイのパイのパイ、パリコットバナナで フライ フライ フライ」、エノケンの「東京節」の音楽がタイトルに軽快に流れて、NHKのドラマ『魯山人のかまど』第1話、初夏編は始まる。 音楽は、朝ドラ『あまちゃん』の大友良英。
星岡茶寮(ほしがおかさりょう)で北大路魯山人(藤竜也)が、居並ぶ客たちの目の前でフグを捌く。 フグの洗膾(あらい)を供して言う、「フグは食いたし命は惜しし、世間のあらゆる毒を喰らうてここまで来られた皆様でしょうが、死なない程度に召し上がって下さい。毒を食わば皿までと言いますが、私の作りました赤絵の皿までは食べられません。どうぞ、ごゆっくり。」 即座に下がる魯山人に、「よっ、北大路魯山人!」「さすが、星岡茶寮!」と、声がかかる。 そして、引っ込む廊下で怒り出し、料理人の一人に「お前、馘や! 出てけ!」と。
戦後の混乱が収まった頃、北鎌倉の自邸に引っ込んで作陶をしている魯山人のところへ、雑誌『婦人の暮し』の編集長に連れられ、記者の田ノ上ヨネ子(古川琴音)がやってくる。 魯山人の語る半生を口述筆記するためだが、怒りっぽい魯山人のことだから、ヨネ子で五人目になる。 ヘイコラと恐縮する編集長の横で、ヨネ子は出された茶を美味しく飲み、赤い花の茶碗をこねくり回している。 魯山人が、「何を見ている?」 「美しくて見入っていました、白の中の牡丹が、まるでここにあるようで。」 「あんた、正直でよい。その湯呑、持って帰れ。吉田茂首相のところで料理をつくるから、手伝いに来なさい。あんた、京都が好きか? ほな、行っといで。」
ヨネ子は一人、京都の山の中へ。 釣りの仕度をした男が、川へ連れて行き、「あんた、先生から何も聞いて来なかったのか?」 「先生は、藻を食べて来いと。」 「先生は、京丹波の和知川の鮎は日本一だと言って、昔は毎日星岡茶寮に生きた鮎を千匹運んだ。」と、川の藻をちぎって渡す。 藻を食べたヨネ子は、「ほのかな香りがします。」 「この香りの藻をぎょうさん食べて鮎は高貴な香りになる、先生は「西洋のメロン」の香りだと。」 鮎を釣って桶に入れ、「わしとあんたで大磯の吉田邸まで、トラックで運ぶ、チャプチャプ揺らして。何度も水を替え、わしが運転するから、あんたがトラックの上でチャプチャプやったままで。きばってや!」
ドラマ『魯山人のかまど』、若い女性編集者のモデル ― 2026/04/21 07:02
今夜、第4話の冬編、最終回が放送されるNHKのドラマ『魯山人のかまど』を面白く見ている。 陶芸や美食の大家として知られる北大路魯山人の晩年を、映画『土を喰らう十二カ月』の中江裕司の脚本・演出で描いている。 傲岸不遜、傍若無人でたやすく他人を寄せ付けない北大路魯山人(藤竜也)が、肝の据わった出版社の若い女性編集者・田ノ上ヨネ子(古川琴音)に感心し、北鎌倉の自邸で、その半生を語り始める。 その女性編集者のモデルが、作家の阿井景子さんであることを、昔「等々力短信」の「もうひとりの魯山人」に書いていたのを見つけたので、まず、それを紹介したい。 なお、この「等々力短信」には、NHKテレビの衛星放送の受信料が有料になったのは平成元(1989)年6月頃だったことが記録されていた。
等々力短信 第498号 平成元(1989)年6月5日
もうひとりの魯山人
テレビを見ていて泣いた話を、もう一つ書く。 と、言っても、今度は私ではない。 北大路魯山人、陶芸とそれに盛り付けた料理の演出によって、その死から30年を経ようかという今、人気絶頂の人物である。 この人、すこぶる評判が悪かった。 口を開けば人の悪口、何かにつけて傍若無人の、いやな人間だったから、らしい。
雑誌『太陽』の5月号が、「北大路魯山人 食と美の巨人」という特集をしている。 晩年の足掛け6年、親しく接して感化を受けたという食物史家(そういう職業があるとは知らなかった)の平野雅章さんという方が、こんな話を書いている。 魯山人が書斎で日本テレビのドキュメンタリーを見ていた。 それは両親を早く亡くして、ひとり新聞配達をしながら、けなげに頑張る少年の日常を追ったものだった。 画面を見ながら魯山人はあふれ出る涙をぬぐおうともせず、時にウンウンとうなずくようにしていたが、しまいには辺りはばからず嗚咽の声を発した。 やがて、平野さんを呼び、当時は貴重品だったアメリカ製のトランジスタ・ラジオを、少年の許に届けるように頼んだ。 「逆境に育ったからと言って、自分の運命を恨むようなことをしないで、努力すればこの俺のような境遇にもなれる。くれぐれも道を踏みはずすことのないよう頑張るように…」という言葉を添えて…。 伝記や評伝の類で魯山人の酷薄無慙な面ばかりが強調されるけれど、平野さんの脳裡には、もうひとりの魯山人が生きているという。
作家の阿井景子さん(以前『龍馬の妻』という作品を読んで感心した。最近南方熊楠と妻を書いた『花千日の紅なく』を入手、読むのを楽しみにしている)も、大学を出てすぐ、72歳の魯山人について一年間、談話をとる仕事をした。 その証言によれば、訪れる人のほとんどない邸で、魯山人はテレビ、ラジオを聴き、さして悲しい場面でもないのによく泣いていた。 「ボロボロと涙をこぼし嗚咽する魯山人、老人だからという人もいますが、私は魯山人の裡なる傷の深さを見たようで、粛然たる思いでした。幸せであれば、人はやたらに泣きませんもの」「傲岸狷介というのが、世間の魯山人評ですが、私はむしろ魯山人の孤独、優しさ、人間としての脆さを見てきたような気がします」
時ふれば悪口とみに薄らぎて遺せし品が世にものを言う(小林正一・歌人)。 有料になったAHK(あの世放送協会)の衛星放送テレビで、自作の最近のべらぼうな値段を見た魯山人先生は、泣いているだろうか、笑っているだろうか。

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