桂宮治の「江島屋騒動」後半2026/05/15 07:09

 江島屋の主をめくらにして、一家、店の者まで皆殺しにするよう、呪詛している。 囲炉裏の灰に、目という字を書いて、そこに火箸を突き立てている。 金兵衛は、震えが止まらなくなった。

 江戸に帰って来て、江島屋の店の前まで来ると、「忌中」の札が出ている。 三日の真夜中に、おかみさんが卒中で亡くなり、小僧の長松が井戸に落ちて死んだという。 金兵衛は、下総の話をしなかった。 そして、いつしか忘れていった。

 明くる年の十月三日、盆をひっくり返したようなどしゃ降りになった。 主の江島屋治右衛門が、金兵衛に蔵まで付き合ってくれと言う。 先に入った金兵衛が見ると、蔵の隅にぼんやりと立っている人が見えた。 主に言うと、何を言っているんだ、金兵衛、人などいる様子がないぞ。 腰から下が剥がれた友禅模様の着物の娘がいる。 今夜は、やめましょう、と蔵から飛び出す。

 金兵衛、何を震えているんだ。 本当のことを話します。 糊付けの古着の話です。 商売じゃないか、客に目がないだけの話で、どこでもやっていることだろう。 アッ、痛い!(と、主が目に手をやる) 下総のお婆さんが、囲炉裏の灰に、目という字を書いて、そこに火箸を突き立てていました。 いい加減にしないか。 痛い!(と、また主が目に手をやる)

 雨風、風雨を知る、どしゃ降り。 庭の木の陰からお婆さんが現われ、金兵衛の方へ来て、縁側に上がろうとする。 金兵衛は、気を失った。 主は、両目が見えなくなり、奉公人もみな辞めて、主と金兵衛の二人になった。 翌年十月三日、蔵の中から発火して火事になり、商売ができなくなった。

 治右衛門は、しるべを頼って下総へ引っ込んだ。 翌年十月三日の真夜中、両目の見えない治右衛門が、神崎の土手で、水の中に入った。 明くる日、ボロボロになった振袖が絡みついているのが見つかった。

 三遊亭圓朝作の「江島屋騒動」という、お噺で。(明治2(1869)年「鏡ヶ池操松影」の中にある)。