春風亭一朝の「百川」前半2026/05/18 07:19

 陽気がよくなって、お祭のシーズン。 江戸三大祭、山王祭や神田祭は将軍様がご覧になるので天下祭と言った。 祭には青龍・白虎・朱雀・玄武の「四神旗」というものが出た。 旗の先に剣がついているので、「四神剣」とも言って、町内持ち回りだった。 日本橋浮世小路の懐石料理屋「百川」の二階で、河岸の若い衆が、去年の祭で金が足りず、質入れした「四神剣」をどうしようかと相談をしている。

 ちょっくら、ごめんくだせえやし。 葭町の千束(ちづか)屋から参りやした。 ああ、奉公人を頼んでいた。 初めて、奉公します。 名前は? 百兵衛といいやす。 それはいい、ウチは百川、縁ものだ。 辛抱してくれ。 はなは、洗い場の手伝いや出前でも、やってもらうことにするか。 今日は? 座って、見ていてくれ。

 バチバチバチバチ(手を叩く)。 ヘェーーイ! お二階でお手が鳴る、女中がみな髪結いさんが来て髪をほどいている、ヘェーーイ! 百兵衛さん、ちょいと二階へ、ご用を聞きに行ってくれないか、羽織を着ているから、ちょうどよかった。 河岸の若い人たちだ。

 バチバチバチバチ(手を叩く)、何をやってやがるんだ。 ウッヒャッ! 変な者が座っている。 変な声を出したのは、お前か。 わしゃ、しじんけのかきゃあにんで、百兵衛と申します、お手柔らかに。 しじんけの申されるには、御用向きをうかがってくるようにとのことでして、ご相談の上、うかがわせて下さい。 アッ、そうですか、そのことでわざわざ…、ごもっともで。

 何なんだよ、あいつ。 四神剣の掛け合い人だそうだ、隣町から来たんだよ。 座布団引っくり返して、あててもらうんだ、寄席へいったことないのか。 去年「四神剣」ばらして、勘定の都合つけようって言ったのは、お前じゃないか。 表の伊勢屋に質入れして。 わしは初五郎と申します、お顔をつぶすようなことは、けしていたしません。 こうだなつまんない顔だけんども、つぶさねえように願いてえ。 これを一つ、召し上がって。 酒は、飲めません。 甘えもんはないか、そのクワイのキントンを出しな、きれいなところを二つ、三つ。 早くしろ、箸をなめるな。 なめるんなら横になめろ、縦になめてゲーゲーするな。 これはあんでげすか。 餡じゃない。 あんちゅうもので? くわいのキントンだ。 くわいでげすか、野郎うまいこと化けやがったな。 あっしらの具合を、グッとお呑み込み頂いて、お帰りいただきたい。 こんなえかくデカイものを、呑み込むんですか。 そうかねえ、やってみるかねえ。 アッ!ウッ! (胸を叩いて)呑み込みやした! 皆様によろしく、改めてご挨拶を致しますんで、ご苦労さんでございました、今日のところはお引き取りを。

 何だ、あいつは? 親分とか、兄イとか言われるような人なんだ。 クワイと具合をかけたら、目を白黒させて呑み込んだじゃねえか、枯れてらあ。

 バチバチバチバチ! 百兵衛さん、どうしたんです、柱に寄り掛かって。 えかくデカイ、くわいのキントンを呑み込みやした。 死ぬかと思いました。 偉い、河岸の若い方たちがいたずらをしたんだろうが、贔屓にしてくれるよ。