三遊亭萬橘の「風呂敷」後半 ― 2026/06/01 07:16
おっかあ、何かいい考えはないか。 若いから、大丈夫よ。 蒲団を出せ、蒲団じゃない、風呂敷だ。 馬鹿、知恵も、風呂敷も、私が出すの。 急いでるんだ、早くしろ。 持ってけ。 畳んで、どうぞ、といったらどうだ。 今日は亭主が遅くなるってんで、「女」引っ張り込こうとした。(言い間違えて、汗を拭く) 前から、や、やったほうがいいんじゃない。 噛みやがったな、帰ってきたら、話があるからな。 何であんなふうになったんだろう。 男が外に出ると、七人の敵があると言う。
酔っ払ってるな。 俺は気に入らない、横浜に仕事に行って、早く帰って来た。 すると、かかあが、もう帰って来たのかい、早く寝ようよ、と言うんだ。 遅いから、寝ようよってのは、聞いたことがある。 もう寝ようよなんてのは、緋縮緬の長襦袢で、しごきを締めて、鬢のほつれをかき上げて、上目づかいに言った頃の話だ。 それが洗濯物をたたみながら、もう寝ようよなんて言う。 いつも通りなら、俺が洗濯をして、お釜を洗って、お米を炊く用意をする。
実は、知ってる女が来てな、町内の若い者とお茶を飲んでいるところに、へべれけの亭主が早く帰って来たんで、その若い衆を三尺の押入れに隠したら、その前に亭主がどっかり座って動かない。 間が悪いことに亭主、大変なやきもち焼きだってんだ、どうにかしてくれって頼まれた。 それを、今、おさめて来たんだ。 仕方話でやろう、懐の風呂敷を広げてな、頭からかけて押さえた。 どうだ、見えないだろう。 見えない。 押入れを開けて、早く出ろ、出ろって言ってやった 足が痺れているから、摺り足で行けってな。 早く行け、下駄履け。 それは俺の下駄だって言うと、下駄持って、消えた。 覗いて、頭をペコペコ下げるから、早く行けって、言ってやった。 それから、風呂敷を取って、逃がした。
兄貴、かみさんも十分反省しているみたいだから、叱言は、俺に任せてくれ。
春風亭一之輔の「もう半分」前半 ― 2026/06/02 07:16
一之輔が出て来るまで、つなぎの出囃子がとても長かった。 前回の桂宮治の「江島屋騒動」の時と同じく、場内が暗くなった。 一之輔が出て、電球が切れたわけではありません、と。 本所林町の粗末な煮売り酒屋、ちょっとした小上りがあって、五郎八茶碗一杯八文で売る。 今夜はやけに蒸しやがる、降り出して来やがったぜ。 おっかあ、雨だ。 お前さん、客も来ないから、こっちに上がって一杯やったら。
ごめんくだせえまし。 一人の年寄、痩せて色の浅黒い、頬骨が出て、目のギョロリとした、黄色い歯を二、三本のぞかせ、東海道五十三次、つぎはぎだらけの着物を着て、まだ、よろしゅうございますか、と。 とっつあんかい、しょうがないな。 半分、頂きたい。 ああ、旨い。 いやに辛い、いつもの樽と違いますか。 こちらのお酒は下りで、おいしゅうございますな。 お代は同じで。 もう半分、頂きたい。 意地が汚いんでございましょうな、半分ずつ、数頂くと、たんと飲んだ気がする。 もう半分、お願いします。 今日は、荷がないんだな、休みかい。 ちょいと、用がありまして、お店のある方は、幸せで。 掘っ建て小屋だ、一文、二文の商売だから。 もう半分、頂きたい。 デェコの煮えたのがあるが、どうだい。 客に出すんじゃない、父っつあんの歯でも大丈夫だ。 これは、よく煮てありますな、こうして煮て頂くと、商売冥利につきる。 もう半分、頂きたい、これで仕舞にします。 勘定はいつもの通りでよろしいんで。 お鳥目はここに置いておきます。 この暑さ、酒の力がないと寝ることもできない。 また、お出でなさい。
父っつあん、包みを忘れて行った。 汚ねえ包みだなあ、やけに重いぞ、金が入ってる。 五十両じゃないか、よくせんのことだ、届けてやろう。 お前さん、黙ってりゃあ、わからない。 もらっておきなよ。 そうだな、箪笥の裏へ放り込んでおけ、家探しされてもいけない。
ごめん下さい、すみません、包みがありませんでしたか。 そんなものはなかったな。 大事の金で、自身番にお届をすると、こちらの店の名前も出さなければならない。 いくらあったんだ。 耳を揃えて五十両。 手前エ、俺の家を強請りに来たのかい。 市で仕入れた大根や小松菜を商って、四十文、五十文の稼ぎなんだろう。 はなからお話しなければなりません、私は深川八幡の前で青物問屋をしていましたが、後引き上戸で身を持ち崩し、去年の暮、女房が病みついた。 女房の連れ子で十九になる娘が、私がなんとかする、吉原という所へ売ってもらいたい、と。 仲之町の朝日丸屋で百両の値がつき、諸々引きで五十両出してくれた。 あれがないと、娘に合わせる顔がない。
もう一度、見て頂けないか。 そんな大事な金、なぜ体から離した。 もう飲まないと約束をして、飲んだ私が悪いのでございます。 そんな包みはなかったよ。 どこかで落としたんじゃないのか。 すみませんでした。
春風亭一之輔の「もう半分」後半 ― 2026/06/03 07:18
爺イ、来やがったな。 出刃包丁を仕込んで追いかけ、大川端で追いつく。 ちょっとばかり、お前に話がある、金はあったぜ、手前の言う金とは、これのことか(と、出刃包丁を突き出す)。 「人殺しーーッ!」 「ギャアー!」 しれたことよ。 ボォーーーン。 金の工面に差し支え、難儀なところに、思いも寄らず、耳を揃えて五十両、忘れて行った、そっちの誤り、一度手にするからにはよ、けえさねえのが、俺の性分。 金ばかりじゃあ、後の妨げ、気の毒だが、命ももらっておくと、馬乗りになって刺す。 成仏しやがれえ! と、死骸は大川へ、ドボーーン。
本所相生町の裏に居酒屋を開くと、客がおしかけて繁昌、若いもん五、六人、板前が二人、奥に女中が二人、夫婦は店に出ず、浅草の観音様など物見遊山にも行けるようになった。 その内に女房が身ごもって、産気づく。
産まれたかい。 男の赤さんで。 俺に見せてくれ。 どうぞ。 痩せて、色の浅黒い、頬骨が出て、目のギョロリとした赤ん坊が、黄色い歯を二、三本のぞかせ、ニヤリと笑った。 ちょいと、私にも見せておくれ、どっちに似ているんだろうね。 大きくなれば、顔も変わるよ。 ギャアー! 女房が気を失って倒れ、そのまま亡くなる。
口入屋に乳母を頼むと、明くる朝、お暇(いとま)を頂きたい。 口入屋に代りを頼むと、明くる朝、お暇を頂きたい。 口入屋に乗り込む。 給金を倍にした、太っちょの乳母が来たが、明くる朝、お暇を頂きたい。 辛抱して乳を、と頼むと、あの赤さん、夜中に立ち上がるんです、行灯の油を飲むんでございます、本当の話で。 小遣いをやるから、もう一晩だけいてもらいたい。 隣座敷で、様子を見ているから。
四つ(午後十時見当)、九つ(真夜中)、変りはない。 八つ(午前二時)丑三つ時、回向院の鐘がボォーーーンと鳴ると、赤ん坊が目を明けて、むっくりと起き、乳母の寝息を確かめて、湯呑を取り、行灯の油差しから油をさすと、両手でさも旨そうにゴクリゴクリと、飲み始めた。 爺イ、化けたな! ハハハ、もう、半分!
笑福亭べ瓶の「地蔵の散髪」 ― 2026/06/04 07:10
笑福亭べ瓶(べべ)、白い着物に、緑色の袴、膝隠しはない。 このネタを演るのは、噺家千人の内、私だけ、TBSから指定された、「時うどん」とかも出来るのに。 泣かせるのは簡単だけれど、笑いはセンスが違う、最大公約数を笑わせる、100点は無理。 小学生なら、「おちんちん」とか言って、合わせればいい。 アンテナから外れる可能性が強い。 僕は好きなので、咀嚼して面白いと思ってもらわないと…。 滑ったら、大惨事になる。
笑い声じゃないのがある。 滋賀県の病院で、寝たきりの人、15床の前で、二席やった。 「時うどん」、頭を持ち上げて聴く、元気そうな人が多い。 出囃子の音。 一番前の人、仰向けで、逆さまになって(と、高座でその形に寝て)、こちらを見上げている。 三番目の人、警告音が「ピイーーッ!ピイーーッ!」と鳴った。 死んだら、嫌だから、看護師さんに言うと、大丈夫です、「ピイーーッ!」は、笑ってるんです、血圧が上がって、鳴っている。 逆さ富士の人が、「早くやれ!」。 あっちで「ピイーーッ!」、こっちで「ピイーーッ!」、三か所で鳴る。 下げの「三文損した」で、10床ぐらいが「ピイーーッ!」。 警告音で、少々滑っても大丈夫ということが、わかった。
最近、ボヤが多いので、見回りをしている。 暗がりで、うずくまってる奴がいる。 何、してる? その声は、松っちゃんか。 何や、竹やんかい、こんな路地裏のジメジメしたところに入って、何してんねん。 誰にも言うな。 火付けではないのやろ。 当り前だ。
こないだ、寝とったら、カカアに頭を叩かれた。 井戸端で、フンドシを出して、ちゃんと紙で拭いてんのか、と見せた。 今度、付けたら、承知しない、と言われた。 それが、また付けてるな、と横っ面を叩かれたんだ。 お尻の毛が多くて、紙で拭いても、そういうことになる。 尻の毛を抜かないと、別れると言われた。 今、ここで、抜いているところだった。 こんなの放送して、いいのか。
一緒になって十年、嫁さんが好きなので、抜いてる。 なんぼでも、抜ける、豊作よ。 見してみいな。 ウォーーッ! ボウボウやないか。 逆立ちして、向こうを向いてんのかと思った。 手で抜いていたら、八年かかる、俺が知恵を出してやるよ。 竹やん、横町の道具屋で、トリモチ買うて来い、二銭ほど。 がま口、持ってない。 これで、買え。
買うて来た。 蓋、パカッと開けて、お地蔵様の頭に、トリモチを塗れ。 とにかく、塗るんだ。 松っちゃんは、いつも正しいことを言う。 塗れたか。 フンドシを、取れ。 こんなことに、なります。 お地蔵様の頭に、馬乗りになれ。 ハッ? とにかく、馬乗りになるんだ。 松っちゃんは、町内の生き字引だからな、いつも正しいことを言う。
ワーーイ、何か冷めとうて、気持いい。 お地蔵様の頭に、お尻をギューーッと、思いっきり、押し付けるんだ。 ハッ! ウワッ! 頭が、入りそうだ。 入ったら、罰が当たる。 加減だよ。 ヒー、フー、ミー、で、前へ飛べ。 痛イッ! 毛が、全部、くっついてる。 前へ飛べ! 痛イッ! 地蔵ごと、抜けるぞ。 万、万歳や! ついてる。 よしんば、うまくいっても、こんなところを、ほかの人間に見られたら、恥ずかしい。 こんにちは! 人が、来るでしょ。 早いとこ、飛んでしまえ! カカアが、大好きや、飛んだら、済む。 大好きや、アッ! 痛イッ! ヤッ! 飛べ!(両手を、大きく円を描くように広げ)飛ーべ! 飛ーべ! 飛ーべ! アーーッ! 多分、こんな感じだ、想像させてくれ。 何人か、ぜんぜん笑ってない。
ヒー、フー、ミー! ケツが、ない。 大の字になってみろ。 赤子みたいな、真っ白けのケツになった。 カカアが喜ぶ。 お地蔵様の頭にカツラが付いてる。 お地蔵様が歩き出したぞ。 お地蔵様、これから、どこへいらっしゃるんで。 今から、横町の床屋へ散髪に。
柳家権太楼の「宿屋の仇討」前半 ― 2026/06/05 07:21
長いこと、落語研究会に出させてもらっているが、袖で前座、お囃子、TBSのスタッフが、大笑いしていた。 これじゃあ、木馬館と同じ。 元へ、戻そう。 「旅人はゆき呉竹の群雀 泊まりては立ち 泊まりては立ち」。 以前は、熱海の駅など降りると、旅館の番頭が大勢、客待ちをしていた。 お泊りさんではございませんか、大黒屋金兵衛でございます。 お武家様。 万事世話九郎と申す。 店の若い者で。 若い者というが、禿げておるな。 名は、伊八と申します。 そのほうか、鶏の生き血を尻から吸うというのは。 それは、イタチで。 昨夜は相州小田原の浪花屋という宿に泊まりし所、巡礼が御詠歌を唄うやら、駆け落ち者がいちゃいちゃするやら、有象無象が夜っぴて寝かしおらん、間狭な部屋でもよいから、もそっと静かな部屋を頼む。 これは、取っておけ。 お武家様だ、八番の角部屋へ。
俺たちは、江戸の者だ、「シジュウサン人連れ」、泊めてもらうぞ。 おまんまを、どんどん炊け。 風呂は、大きい方を、用意しろ。 お三人さんは、宿取りで? お笠を拝借して、後から来る人が、お入りになる目印にします。 何かの、まじないか? あと四十名様が、いらっしゃるので。 俺たちは、始終、三人組なんだ。 おまんま、もう炊いちゃったか。 風呂は、ふつうの方に。 これは、内緒話で。 七番の部屋へ、ご案内を。
番頭、名前は何という。 伊八です。 お前か、おまんまを入れとくのは。 それは、御鉢で。 湯から上がったら、ワッと騒ぎたい、芸者を三人、生け捕ってもらいたい。 酒は浴びるほど飲む、勘定はいくら安くってもかまわない。 黄色い声で、こんばんは! こんばんは! こんばんは! 都々逸の廻しっこをしよう。 ♪沖の暗いのに,白帆が見える、カッポレ、カッポレ、ヨーイトナァー、と踊り出す。 素っ裸になって相撲甚句、三人で大騒ぎ。 ジャンケン、ポン、あっち向いて、ホイ!
パンパンと手を叩き、伊八、伊八! お呼びでございますか。 何だ、隣の騒ぎは。 最前も申したが、昨夜は相州小田原の浪花屋という宿に泊まりし所、巡礼が御詠歌を唄うやら、駆け落ち者がいちゃいちゃするやら、有象無象が夜っぴて寝かしおらん、間狭な部屋でもよいからもそっと静かな部屋を頼む、と。 部屋を変えるか、隣を静めて来るか、返答をもらいたい。
すみません。 おー、伊八か、一緒に裸になって踊れ。 もう少々静かに、騒いでいただきたい。 隣の客がうるさくて眠れない、と申されてまして。 一晩中、騒ぐよ、何様だと思ってるんだ。 実は、タダ者じゃない、二本差してる。 リャンコか。 人斬り包丁を持っている。 芸者を、誰が呼んだんだ。 寝よう、寝よう、蒲団敷け。 巴寝、祭の太鼓みたいに、頭を付きあわせて、寝るんだ。 旅の土産になる、後々面白がって話すことになる。
江戸へ帰ると、相撲が始まる。 上方から、坊さん辞めて相撲になったのが来る、名前が「捨て衣」てんだ。 低く当って、前へ出る。 頭をつけたら、土俵を割る。 どっこい、どっこい、よいしょ、よいしょ! 仕方話は、よせ。 じゃあ、ちゃんと、やろう。 はっけよい、残った! 残った! バリバリ! 勝負あった。 もう、一丁。
伊八、伊八! もそっと、中へ入れ。 隣の騒ぎは、何だ。 案内された折、一朱下げ渡したな。 返します。
伊八か、相撲だ、裸になれ。 実は、隣のお客様が……。 寝ます、寝ます。
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