「独立自尊の意義・修身要領」個人の尊重、未完の理想2026/07/02 07:25

 鶴見俊輔さんの「普通人(コモン・マン)」、それは、肩書や地位を問題にせず、自分の頭でモノを判断する、自立したバランス感覚の持ち主であり、一つの「思想」なのである。 これを引用していて、私は先日、慶應義塾史展示館の「福沢諭吉の臨終―「独立自尊」の誕生―」展を見た時、もらってきた「独立自尊の意義・修身要領」というパンフレットを読んだことを思い出した。

「修身要領」は、福沢諭吉の死の1年前の明治33(1900)年2月、福沢が門下生と共に、これからの日本人の生き方の指針として編纂した「独立自尊」の精神を柱とした道徳要領である。 しかし発表されると、忠孝を論じず教育勅語を軽視しているなどと激しい批判を浴びた。 批判に対して編纂者たちは「独立自尊の意義」と題し、さらに平易に「独立自尊」を解説した箇条を発表して、この綱領を広く日本中に普及しようとした。

その「独立自尊の意義」から、いくつか引いてみる。
独立自尊の人は能く人と交り人を敬愛すれども苟(かりそめ)にも己の所信を抂(ま)ぐることなし
独立自尊の人は自治自制の人たらざる可らず
独立自尊の人は常に信義を重んじ人を欺き己を欺くことなし
独立自尊の人は亦(また)よく人を助けて其独立自尊を全からしめんと欲するものなり
自労自活よく一身一家を修るも未だ社会に対して其義務を尽さゞるものは独立自尊の人と云ふ可らず
独立自尊の人は守るべき紀律は人の命を俟(ま)たずして自ら能く之を守るの人なり
独立自尊の人は一身一家一国は無論、人類一般に対し又下等動物に対して其義務を尽さゞることなし
 (以下略。『慶應義塾学報』明治33年6月号)

 6月13日の日本経済新聞夕刊は、この企画展の開催を報じ、展覧会を主催した都倉武之教授の談話を、こう紹介していた。 「個人の独立と尊重という未完の理想を考える手がかりにしてほしい」、「どう表現すれば個人の重要性が社会に伝わるか」。 福沢の死後、門下生たちは「修身要領」の普及を図ったが、十分に広まらなかった、その後、日本は個人の尊重とは逆方向に進み、太平洋戦争の敗戦に至った。 「偉人と思われがちな福沢だが、その夢は未完だと言える。失敗を恐れずに歩み続けた人間として福沢を捉える機会になれば」と。