落語とジャズと佐藤允彦さん ― 2026/07/24 07:15
八っつあんはジャズ通だった<小人閑居日記 2014.2.3.>
1月25日の「等々力短信」第1055号「静(せい)」の歌会始に、苗字と名前の間に「の」が入る話を書いた。 すると佐藤允彦さんの『一拍遅れの一番乗り』に「ヤァヤァ我こそは」という文章があった。 御隠居と大工の八っつあんが問答をする。 満腹寺でビワくれるってえから行ったら、坊さんがベベンベンベンと琵琶弾いてなんだか辛気くせえフシうなった。 なんでも熊谷さんてえのとナオザネさんと次郎さんが出てくる話で。 それは一人の名前だ、「熊谷の次郎直実」と、昔の武将は自分の領地や住んでいる土地を名の前につけて「名乗り」をした、武士ばかりではない、侠客も「清水の次郎長」「森の石松」なんて、『の』を入れたもんだ。
「誰でもそうだったんですかい」「まあたいがいはな」「ミュージシャンでも?」「もとはそうじゃ」「じゃ聞きますがね、マイルス・デビスはどこに住んでたんで?」「舞鶴じゃな。舞鶴のデビス」「オスカー・ピーターソンは?」「大塚のピーターソン」「チャーリー・パーカーはどこです?」「これは場所ではない。彼はもと槍の名人だ」「へ? 槍ってあの長い?」「うむ。血槍のパーカー」「へぇぇこりゃ驚いた。じゃ、ディオン・ワーウイックは?」「京都の舞妓だったな」「えーっ、なんで?」「祇園のワーウイック」
「なんだか怪しいな。御隠居はひとをからかうときはすぐわかるんだよ。鼻の穴がふくらむから。デューク・エリントンは伯爵だったてぇのは本当ですかい?」「いや、そんなものではない。あれはお前と同業だな」「大工?」「うむ、大工(でぇく)のエリントン」
「御隠居、今日は冴えてるね。ボーカルはどうです。サラ・ボーン」「品川出身、伊皿子のボーン」「ちょっと苦しかったね。カーメン・マクレェ」「この人唄はうまかったがついに運転免許とれずじまいだったな。仮免のマクレェ」「こりゃ参ったね。じゃ、エラ・フィッツジェラルド」「顎の形に特徴があったな。鰓のフィッツジェラルド。ところで八っつあん、吉祥寺からすぐれた人材が輩出しておるが御存知か?」「へぇ、初耳ですね。誰です?」「ざっと見渡して、吉祥寺のガーシュイン、吉祥寺のベンソン、はっはっは……」
これを読むと、佐藤允彦さんが、私と同じ好みを持っていることが分かる。 実はこれ、私が知っている名前だけを拾ったので、実際には八っつあん、アレンジャーなんぞまで含めて、この五倍はジャズメンの名前を知っているジャズ通なのであった。
そういえば平成元年、私は戯れに友人の病院長に手紙術の免許皆伝状を授けた時、大日本五之日五百倍馬場流手紙術 家元 馬場小路好麻呂(ばばのこうじすきまろ)を名乗っていた。
「マラ」と「ラ・マラ」どのくらい違うか?<小人閑居日記 2014.2.4.>
ジャズ・ピアニストには、同好の士が多いようで、佐藤允彦さんの『一拍遅れの一番乗り』の「どのくらい違う?」には、前田御大とハネケン、前田憲男さんと羽田健太郎さんが登場する。 「マラゲーニャとラ・マラゲーニャは違う曲ですか?」と聞かれた前田御大、「違う曲です」「そりゃ、タバコと下駄箱ぐらい違うんだよ」と答えたそうだ。 マラゲーニャは、スペイン・アンダルシアの地中海に面した港、マラガ地方の舞踏・民謡曲。 その旋法やリズムを取り入れて『マラゲーニャ』と名づけられた作品がクラシックには複数ある。 サラサーテの『八つのスペイン舞曲』のなかに一つ、同じスペインの作曲家アルベニスのピアノ組曲『エスパーニャ』のなかに一つ。 さらにそれをクライスラーがバイオリンに編曲したもの。 一方、『ラ・マラゲーニャ』はラテン・ナンバーで、その昔トリオ・ロス・パンチョスでヒットした。 だから当然全く違う曲である。
「タバコと下駄箱ぐらい違うんだよ」という、この話を漏れ聞いた佐藤允彦さんとハネケンさん、「うーんさすがだなぁ、おれたちもそれに匹敵するやつを考えなくっちゃ」となった。 ハネケン・バージョンは「醍醐味 と 粗大ゴミ」ぐらい違う。 次に会った時「ひとつ考えたよ」と、「パンジー と チンパンジー」ぐらい違う。 なかなかの出来だ、と佐藤允彦さん、自分も作った。 作ったは、作ったは…、66個も並べている。
「居留守 と マイルス」「イマジン と 大魔神」「陰謀 と オーバー・ザ・レインボウ」「志ん生 と 心身症」「小さん と 奴さん」「ウドと エチュード」「イラン と おいらん」「イラク と 墜落」「イギリス と キリギリス」「ラテン と カメラ店」「詭弁 と 駅弁」「答弁 と ベートーベン」「第九 と 日曜大工」「宇宙 と 焼酎」「遺憾 と 警官」「市長 と 警視庁」「季節 と 不適切」「障子 と 不祥事」「あぐら と バイアグラ」「上司 と 腹上死」「内縁 と 口内炎」「婦人 と 理不尽」「井の頭 と 良いのかしら?」「野方 と オノオノガタ」「ラッパ と 原っぱ」「絣 と 垢すり」「グッチ と 非常口」「シャネル と わしゃ寝る」ぐらい違うんだよォォォォー。 あぁ疲れた。
と、書いているけれど、その中からこれだけ、打ち出した私も、あぁ疲れた。 でも、それぞれ、二題噺の小咄になりそうな気もする取り合わせではある。 私も校歌関連で一つ思いついた、「進取の精神 と 真宗の精神」ぐらい違う。 早稲田大学は浄土真宗じゃあないよね。
コメントをどうぞ
※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。
※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。
※投稿には管理者が設定した質問に答える必要があります。