林家正蔵の「田能久」後半 ― 2026/07/17 07:26
タ、ノ、キュウ! お前、狸か、人間じゃなくて。 オラは、誰が何と言っても、鳥坂峠のウワバミだ、耄碌してきたなんて言われちゃあいけねえ。 タヌキなら、俺の前で化けてみろ。 久兵衛さん、カツラがあったのを思い出した。 向うを見ててもらいたい。 早く、化けろ。 女のカツラをかぶって、「もし、こちの人」、いかがで! 次は、坊主のカツラで、ナンマイダブ! つづいて、石川五右衛門の百日カヅラ。
うまいもんだな、タヌ公、俺に化け方を教えてくれ。 里へ下りて行くと、村の奴らが鉄砲を持って出て来る。 お前、母親の塩梅が悪いのか、親類づきあいをしようじゃないか。 俺のねぐらは、あの松の木二本の間だ。 帰りに寄れ。 久しぶりに、話し相手が出来て、嬉しかった。 お前、何か怖いものがあるか? 饅頭は駄目だぞ。 お金が怖い、人間の使う金が…。 金のことで、騙し合ったり、殺し合ったりする。 峠の鐘が、ゴーンと鳴った。 俺が怖いのは、煙草のヤニと、柿渋だ、あれが付くと突っ張らかって、動けなくなる。 俺とお前の秘密だ、誰にも喋るんじゃないぞ。 早くお袋の所へ行け、俺も穴に帰る。 夜が明けてきた。 ポッと、ウワバミが消えた。
助かった。 峠から、転がり落ちるように村里へ、タヌキに間違えられた話をする。 ウワバミが、ねぐらと怖いものを教えてくれた。 久兵衛さん、それを教えてくれろ、爺さん、婆さん、かみさんと赤ん坊が呑まれたんだ。 教えてくれ。 ねぐらは、松の木二本の間で、怖いのは、煙草のヤニと、柿渋だ。
ウワバミ退治。 一斗樽に、柿渋二つ、煙草のヤニ四つ、用意して峠へ。 鳴り物をテンテンカンカン、法螺貝をブゥオーーッ、鉦をチーーン。 うるせえな。 旨そうな人間が来たぞ。 ウワバミが穴から出る。 かけろ! 柄杓や水鉄砲で、煙草のヤニと柿渋をかける。 ギャーーッ! ウワバミは、ポッと消えてなくなる。
阿波徳島の田能村、おっ母さん、今帰ったよ。 真夜中過ぎ、表の戸をドンドン、開けろ! どなた様で。 老人が、箱を手に立っていて、よくも俺の怖いものを教えたな。 勘弁ならねえ、これでも喰らえと、箱を開けて撒き散らした。 黄金色の小判が、ザック、ザック、ザックザク。 拾って数えてみろ。 やっぱり久兵衛さんは、千両役者だ。
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